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マスク情報

わずか3カ月で「マスク専門店」を開き、どんなことが見えてきたのか

https://news.yahoo.co.jp/articles/61a3446940198004b3577efe82199434fdbb9ce3

2020/10/14(水) 8:05配信 ITメディアビジネスオンライン

 マスク、マスク、マスク――。  新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、日本中が一枚のマスクを買い求めていたことは記憶に新しい。ドラッグストアに行っても売っていない、コンビニにも並んでいない、スーパーでも目にすることができない。 【画像】う、売れた! 10万円のマスクを見る  しかし、いまは違う。感染者数が激減したわけではないが、供給量は安定している。並ばずに購入することができるし、価格も安くなってきた。外出時に「あ、マスクを持ってくるのを忘れた」といったときでも、お店にフラッと入れば買うことができるようになった。にもかかわらず、マスク専門店が登場し、話題になっているのだ。  9月8日、東京駅の八重洲地下街に店を構えたところ、連日のように行列ができていることをご存じだろうか。店名は「Mask.com(マスクドットコム)」。イオングループでファッションブランドを展開するコックス(東京都中央区)が運営していて、広さ19坪のスペースに200種類以上の商品を扱っているのだ。  オープン一週目には1万5000円台(税別、以下同)のモノが完売したので、関係者を驚かせたが、それだけでは終わらなかった。「いくらなんでも、そんなモノ売れるわけないでしょ」と思われていた10万円のマスクも売れたのだ。  新型コロナの感染が広がる前、マスク専門店なんて見たことも聞いたこともなかったのに、どのようにして店を構えることができたのか。また店を運営してみて、どんなことが分かってきたのか。同社・デジタル推進統括部の大谷克之さんに話を聞いた。聞き手は、ITmedia ビジネスオンライン編集部の土肥義則。

マスクを確保しなければいけない

土肥: 現在の時刻は午前9時30分。店がオープンするまで30分ほどあるにもかかわらず、店の前には数人のお客さんが並んでいますよね。こうした光景を見るだけで、「好調だなあ」といった印象を受けるのですが、「マスク専門店を始めよう!」といった話はいつごろ出てきたのでしょうか。というのも、このような業態の店は見たことも聞いたこともなかったので、個人的に興味がありまして。 大谷: 新型コロナの感染拡大を受けて、不織布のマスクが市場に出回らなくなりました。価格もどんどん高騰していくなかで、ファッションブランドを展開する当社として何かできないかと考えました。ただ、商業施設の多くは閉店を余儀なくされていたので、オンラインで販売することはできないかという案が出てきました。アパレルを扱っている会社なので、機能面だけでなくファッション性を加えたマスクを発売したところ、どのような反響があったのか。こちらの想定以上の問い合わせがありました。  生産がなかなか追いつかない状況だったのですが、商品を確保して、オンラインで販売を続けることに。そして、5月25日、緊急事態宣言が解除されたことで、外出する人が増えてきましたよね。そうした光景を見たとき、「マスクの需要はしばらく続くのではないか。オンラインだけでなく、リアルの専門店をつくるべきではないか」という話になって、夏オープンに向けて動き始めました。 土肥: ということは、3カ月ほどで商品を確保しなければいけませんし、店舗も見つけなければいけませんし、店のスタッフもそろえなければいけません。短期間にやらなければいけなことがたくさんあったので、大変だったのでは? 大谷: やはり商品を確保することに、ものすごく苦労しました。オンラインではオリジナルマスク3種のみを販売していましたが、「それだけでは足りないなあ」と感じていました。ワンコインで購入できるモノだったり、スポーツ用のモノだったり、子ども用のモノだったり。いろんなバリエーションをそろえたいなあと思っていましたが、じゃあその商品をどのようにして確保すればいいのか。こうした課題に直面しました。 土肥: 現在、お店では200種類以上の商品が並んでいますが、どのようにして手にしたのでしょうか?

「機能性×ファッション性」で勝負

大谷: 取引先や工場などに「たくさんつくってください」とお願いして回りました。商談して、商談して、商談して。それしか方法はなく、なんとか品ぞろえのメドがたってきました。オンラインで販売している3種類のマスクのほかに、肉付けするような形で商品を確保していくわけですが、専門店をオープンするにあたって、「店からいろんな情報を発信することはできないか」と考えました。  10万円のモノはどうか、1万5000円のモノをつくってみてはどうか――。新型コロナの感染が広がる前には、ちょっと考えられないような価格帯のマスクを販売するのはどうかといった話になりました。実際、どのような形でつくったのか。例えば、10万円のマスク。スワロフスキー社のクリスタルガラスを職人さんに手つけしてもらいましたが、1つつくるのに2週間ほどかかっているんですよね。このような商品はこれまでつくったことがないので、完成させるのに苦労しました。 土肥: わずか3カ月ほどで商品をそろえることができたわけですが、不安はなかったですか。というのも、「リアルの店舗を構えよう」と思ったころは、マスクが不足していました。しかし、オープンした9月には十分に供給が足りている。わざわざ専門店で買わなくても、コンビニや100円ショップなどで購入できるので、「お客さんは来店するのか」といった不安はなかったですか? 大谷: 正直に言いますと、ありました。「マスク需要は減るのではないか」といった懸念がありましたが、「ファッション」というキーワードがあれば、お客さんのニーズに応えることができるのではないかと考えました。なぜこのように考えていたのか。  繰り返しになりますが、リアル店舗を運営する前に、オンラインで販売していたことが大きかったんですよね。保湿性が高いモノだったり、顔にフィットするモノだったり、涼しさを感じるモノだったり。これまでになかった商品が売れていたので、不織布マスクを購入することができても、「機能性×ファッション性」があれば大丈夫と考えていました。

入場制限をかけることに

土肥: 店を始める前、在庫を確保するために奔走されたようですが、オープン後はいかがでしょうか。たくさんのお客さんが来られているようなので、「順調、順調」といったところでしょうか? 大谷: いえいえ、そんなことはありません。初日はそれほどでもなかったのですが、テレビなどで報じられたことによって、翌日は開店前からたくさんのお客さんが来られました。  当日、私は違うところで仕事をしていたところ、携帯電話が鳴りまして。何事かなと思っていたら、「お店が大変なことになっている。いますぐに来てくれないか」ということで、急きょ駆けつけることに。店外に100人ほどのお客さんがあふれていまして、「このままではいけない」と感じたので、行列整理用のベルトパーテーションを借りてきました。また、3密を避けなければいけないので、入場制限をかけることに。 土肥: マスク専門店で、感染を拡大させてはいけませんからね。で、どんな層のお客さんが多いのでしょうか? 大谷: 当初、ターミナル駅の近くに店を構えるということもあって、ビジネスパーソンが多いのかなと思っていました。実際、オープンしてみると、女性客がものすごく多いことが分かってきました。また、週末は近くの会社が休みになるので、お客さんは少ないだろうなあと思っていたのですが、家族連れが多いんです。というわけで、お客さんの数は、想定の2~3倍といったところですね。 土肥: 店内に200種類以上のマスクが並んでいるわけですが、その中で最も売れているのは? 大谷: 「さらマスク」(3枚セット1500円)です。マスクを着用することで肌荒れや乾燥に悩んでいる人も多いかと思うのですが、この商品には肌がしっとりする「セラミド加工」と、不快感を軽減する「抗菌防臭加工」を施していることもあって、支持されているのかもしれません。購入されるのは女性が多いということもあって、一番人気の色はピンク。次いでカーキ、ブラウン、グレーの順ですね。 土肥: あれ、白は? 大谷: 5位ですね。マスクのイメージといえば「白」を想像する人が多いかと思います。実際、4~6月ころまでは白のマスクがよく売れていましたが、その後、さまざまな色を展開することで、鮮やかな色を好む人が増えてきました。

試行錯誤が続く

土肥: マスクの多様性が急速に広がっているわけですね。新型コロナの感染が広がる前は、白が圧倒的に多かったですが、いまは違いますよね。街中を歩いていても、色だけでなく、形もいろいろ、模様もいろいろ。「マスク=白」という固定概念が完全に崩れました。 大谷: 「予防」という視点だけでなく、そこに「楽しむ」というキーワードが加わったのではないでしょうか。また、店を運営してみて、マスク関連商品もニーズがあることが分かってきました。以前であれば「マスクがあれば、それだけでいい」といった人が多かったと思うのですが、いまは違う。マスクを外してもそれを持ち運びができるケースであったり、マスクを外したときに首からかけることができるストラップであったり。これまで、こうしたアイテムはなかったので、「売れるのかな」「大丈夫かな」と思っていたのですが、店頭に並べたところ想定以上に売れているんですよね。 土肥: ふむふむ。新しい業態なので、発見だらけですね。これからは冬のシーズンに入っていくので、やはり暖かく感じることができる商品を扱うのでしょうか? 大谷: はい、その予定にしています。寒くなると空気が乾燥するので、保湿を考えなければいけません。保湿成分などを配合した商品を展開する予定ですが、現時点でどこまでニーズがあるのかよく分かりません。真冬に不織布マスクを着用すると、ある程度の暖かさを感じることができますよね。  また、電車の中や会社の中は暖房が効いているので暖かい。そうなると、「冬用のマスクだからとにかく暖かいモノを……」といった形で商品をつくると、着用した人から「暑すぎる」といった声が出てくるかもしれません。そうなってはいけないのでバランスを考えて、商品を開発していかなければいけません。 土肥: いやはや、繰り返しになりますが、初めてのことばかりなのでこれからも試行錯誤が続きそうですね。本日はありがとうございました。 (終わり)

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