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ウィズコロナ時代が見えてきた ~英国で社会実験、マスク着用など継続か?~

https://news.yahoo.co.jp/articles/77a090326c15a6df3d55a697b1a0bfb4e21ea9aa

2021/7/29 JIJI.COM

 7月以降、日本だけでなく世界的に新型コロナウイルスの感染が再燃しています。これはインド由来のデルタ型変異ウイルスの流行拡大によるものです。デルタ型は従来のウイルスに比べて感染力が強いだけでなく、重症化も起こしやすいという報告が見られています。その一方で、デルタ型には日本で使われているファイザー社やモデルナ社などのワクチンが有効なようです。このため、世界的に感染者数は増加していますが、ワクチン接種が進んでいる国では死亡者数の増加が抑えられています。この「感染者は多いが死亡者は少ない」という状況は、今後のウィズコロナ時代を予測するための鍵になるかもしれません。今回はデルタ型の流行状況から垣間見える、コロナウイルスとの共存について解説します。

 ◇デルタ型の世界拡大

 デルタ型の変異ウイルスは2020年10月ごろにインドで初めて見つかりました。2019年12月に中国で新型コロナウイルスの流行が発生してから、ウイルスは何回も変異を起こしており、2020年秋には英国由来のアルファ型や南アフリカ由来のベータ型とともに、このデルタ型も誕生しました。ヒトに感染したばかりのウイルスは、変異を繰り返しながら、ヒトの体内で増殖しやすいタイプが主流になっていきます。これが2021年5月ごろまではアルファ型で、日本で見られた第4波の流行も、この変異ウイルスによるものでした。  ところが、同年4月にインドでデルタ型が大流行を起こしてからは、この変異ウイルスが世界的な拡大を始めたのです。7月中旬に世界保健機関(WHO)が発表したデータでは、世界124カ国で流行が確認されており、東京でも7月から起きている第5波がデルタ型によるものです。  WHOの報告では、デルタ型は今までのウイルスに比べて感染力が強く、感染者の体内でも増殖しやすいとされています。ある調査では、デルタ型の感染者から従来型より約1000倍も多いウイルスが排出されていました(WHO 2021年7月20日)。  このように7月末の時点では、デルタ型が世界制覇を果たしている状況ですが、今後、ウイルスはさらに変異を繰り返し、ヒトの体内で増殖しやすいウイルスに置き換わっていくことでしょう。

 ◇二つの流行パターンに

 世界的な新型コロナの流行状況を見ると、2021年5月ごろから、ワクチン接種が広がった効果で新規感染者数は減少していました。しかし、6月末からデルタ型の拡大により再び増加傾向になっています。  地域別では、今まで流行が抑えられていた東南アジアで感染者数が増加しており、特にインドネシア、マレーシア、タイ、ベトナムなどで急増しています。また、ワクチンで流行が収束しつつあったヨーロッパ諸国や米国でも感染者数が増加しており、中東やアフリカでも流行再燃が起きています。  このようにデルタ型の流行が拡大している国は数多くありますが、それを二つのパターンに分けることができます。  第1のパターンは、感染者数が増加しているにもかかわらず、死亡者数が増えていない国。例えば、英国やスペインなどヨーロッパの国々がこのパターンになります。米国も7月から流行の再燃が見られていますが、死亡者数はあまり増えていません。日本も第5波の流行で感染者数が急増している中、死亡者数には大きな変化が見られていません。  第2のパターンは、感染者数が増加するに従って、死亡者数も増えている国です。これには、東南アジアや中東の国々、さらにはロシアや南アフリカが入ります。

 ◇ワクチン接種状況の違い

 こうしたパターンの違いには、ワクチンの接種状況が影響していると考えられます。第1パターンの国々では、国内でワクチン接種が進み、デルタ型に感染しているのは未接種者や接種途中の人が中心になっています。特に重症化を起こしやすい高齢者は接種を完了しているので、死亡者が少ないのです。接種を受けている人がデルタ型に感染することも時にありますが、重症化は抑えられています。  日本ではワクチンを完了している人が約20%とまだ低いのですが、高齢者はほぼ終了しているため、重症化する人はあまり多くありません。その結果、死亡者数も少なくなっているのです。  一方、第2パターンの中には、ワクチン接種率が1割にも満たない国が多く、また、接種率が高かったとしても、中国製やロシア製などのワクチンを使用している国が見られます。例えば、ロシアは接種を完了した人が約15%いますが、自国で開発したワクチンを使用しています。また、東南アジアや中東では、主に使用されているワクチンが中国製です。中国製もロシア製も、従来型のウイルスには一定の効果が確認されていますが、デルタ型についてはほとんど評価されていません。効果が弱くなっている可能性もあるのです。

 ◇感染者増でも重症化を抑えること

東京五輪の開会式で入場行進を終え、記念撮影する各国選手団=7月23日、国立競技場

 このように、ファイザー社やモデルナ社など、デルタ型に一定の効果が確認されているワクチンを接種しておけば、感染者が増えたとしても、重症者の急増は抑えられ、医療の崩壊を防ぐことができます。そして、最終的には死亡者の増加を抑えることになります。  こうしたワクチンによる制圧を図る場合に考えなければならないのは、ワクチンがどれだけの期間、効いているかという点です。現在までの知見では、効果は半年~1年と見られており、それを越えると追加接種が必要になるでしょう。もう一つ懸念されるのは、ワクチンに抵抗性の変異ウイルスが、今後、誕生する可能性です。これに備えるには、常に変異ウイルスの動向をモニターし、ワクチンに抵抗性のウイルスが出現すれば、新たなワクチン製造を開始することです。ファイザー社やモデルナ社のmRNAワクチンであれば、ウイルスの変異に応じて、新しいワクチンを迅速に開発することができます。

 ◇ウィズコロナのためのチャレンジ

 変異ウイルスが次々に誕生している状況を考えると、新型コロナウイルスの流行を完全に終息させることは恐らく困難でしょう。それであれば、インフルエンザの流行と同じように、新型コロナの流行と共存することを考えるべきです。  そのためには、ワクチン接種を中心にした戦略を練ることになりますが、同時にマスク着用やソーシャルディスタンスなど、生活面の注意も続ける必要があるのでしょうか。この答えを出すために、英国では今年の7月中旬から多くの生活面での制限を解除しています。このチャレンジの結果が明らかになるには、もうしばらく時間がかかるでしょう。  日本はワクチン接種率がまだ低い上に、東京五輪という大きなイベントの最中にあります。今はワクチン接種を進めるとともに、引き続き生活面の注意を継続することが必要です。特にデルタ型は若年者にも重症化を起こすことがあるため、油断は禁物です。もうしばらくは緊張した日々を送らなければなりません。(了)

 濱田 篤郎 (はまだ あつお) 氏

濱田 篤郎 特任教授

 東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授。1981年東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学留学。東京慈恵会医科大学で熱帯医学教室講師を経て、2004年に海外勤務健康管理センターの所長代理。10年7月より東京医科大学病院渡航者医療センター教授。21年4月より現職。渡航医学に精通し、海外渡航者の健康や感染症史に関する著書多数。新著は「パンデミックを生き抜く 中世ペストに学ぶ新型コロナ対策」(朝日新聞出版)。

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対策 感染症

新型コロナ デルタ型変異ウイルス 感染力、重症化リスク、ワクチンの効果など 現時点で分かっていること

https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20210801-00250999

2021/8/1 忽那賢志
感染症専門医
デルタ型変異ウイルスの広がりやすさ(ECDC、CDCの資料を元に筆者作成)

日本国内でもデルタ型と呼ばれる変異ウイルスが広がってきています。

このデルタ型変異ウイルスの特徴について、感染力、重症化リスク、ワクチンの効果など、現時点で分かっていることをまとめました。

東京都ではデルタ型が主流に

東京都におけるL452R(デルタ型)陽性率の推移(第56回東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料より)
東京都におけるL452R(デルタ型)陽性率の推移(第56回東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料より)

東京都では新規感染者数が急増していますが、その要因の一つとしてデルタ型変異ウイルスの増加が挙げられます。

第4波以降、従来の新型コロナウイルスよりも感染力の強いアルファ型と呼ばれるイギリスから広がった変異ウイルスが主流になっていましたが、現在はアルファ型よりもさらに感染力が強いデルタ型と呼ばれるインドから広がった変異ウイルスが主流になりつつあります。

東京都では7/12〜18の週ではすでに全体の46.3%を占めており、8月1日現在はすでにデルタ型が半分以上を占めていると考えられます。

関西は関東よりも少し遅れてデルタ型が増えてきていましたが、大阪府でも7/22〜28に行われた変異ウイルスのスクリーニング検査で23.6%に達しており、急激に増加していることが窺えます。

このように、日本全国で急速にアルファ型からデルタ型への置き換わりが進んでいます。

世界でもデルタ型変異ウイルスは拡大しており、すでに134カ国で検出されています。

またイギリスではすでに検出される新型コロナウイルスの99%がデルタ型になっており、アメリカでもデルタ型が急速に増加しておりすでに83%を占めています

これまでデルタ型がすでに広がっている国や地域に他の変異ウイルスが拡大した事例はなく、現時点ではデルタ型が最も感染力が強い変異ウイルスと考えられます。

デルタ型の感染力は従来のウイルスより大幅に増している

さまざまな感染症の感染力と重症度(文中に示したCDC報告書より)
さまざまな感染症の感染力と重症度(文中に示したCDC報告書より)

デルタ型変異ウイルスは従来の新型コロナウイルスよりも感染力が43~90%強いと報告されていたアルファ型よりも、さらに64%感染力が強いとされています。

CDCの報告書によると、従来の新型コロナウイルスは1人の感染者から平均1.4〜3.5人くらいに感染していましたが、デルタ型は1人の感染者から平均5〜9人に感染すると算出しています。

これは、MERSやSARSといった同じコロナウイルス感染症、季節性インフルエンザ、エボラ出血熱などよりも感染力が強く、空気感染する水痘(水ぼうそう)と同等と考えられます。

デルタ型の感染力が強い理由として、従来の新型コロナウイルスよりも感染者の体内でのウイルス量が1000倍以上多くなることで、感染者が周囲に撒き散らすウイルスの量が増えるのではないかとする査読前の研究が中国から報告されています。

また、同研究では、デルタ型は従来のウイルスよりも、感染してからウイルスが検出されるまでの期間が約2日間短くなることも感染者の爆発的増加に寄与しているのではないかとしています。

さらに、ウイルスを排出する期間も長くなる可能性が示唆されており、感染者の体内のウイルス量が高くなることに加えて、ウイルスの排出期間が長くなることがデルタ型の感染力の強さの原因なのかもしれません。

デルタ型変異ウイルスに感染すると重症化しやすい

海外からの報告では、デルタ型変異ウイルスはこれまで以上に感染した際に重症化するリスクが高くなると言われており、

従来の新型コロナウイルスと比べて、

カナダ:入院リスク2.2倍、ICU入室リスク3.87倍、死亡リスク2.37倍

シンガポール:酸素投与が必要、ICU入室、死亡のリスクが4.9倍

アルファ型と比べて、

イギリス:入院リスクが2.61倍

スコットランド:入院リスクが2.39倍

と報告されています。

特にワクチンを接種していない人はこれまで以上に警戒しなければなりません。

ワクチン接種しても感染することはあるが、重症化は防げる

ファイザー社のmRNAワクチンのデルタ型変異ウイルスに対する効果(文中のCDC報告書より)
ファイザー社のmRNAワクチンのデルタ型変異ウイルスに対する効果(文中のCDC報告書より)

感染や発症を予防する効果については、デルタ型変異ウイルスが広がっている各国からそれぞれ報告されています。

例えば、ファイザー社のmRNAワクチンのデルタ型に対する効果は、

イギリス/スコットランド:感染予防効果 79%、発症予防効果 88%、入院予防効果96%

カナダ:発症予防効果 87%、入院/死亡の予防効果 100%

イスラエル:感染予防効果 64%、発症予防効果 64%、入院/死亡の予防効果 93%

となっており、これまでのところ、mRNAワクチンなどの新型コロナワクチンは、感染予防効果や発症予防効果が低下する可能性はあるものの、重症化予防効果は保たれていることが示されています。

例えば、アメリカのマサチューセッツ州で発生したクラスター469人のうち、346人 (74%) はワクチン接種を完了していたにもかかわらず新型コロナを発症していた、という事例が報告されました。

このクラスターのうち9割はデルタ型が原因であることが分かっており、デルタ型に感染した人はワクチン接種を完了している人のウイルス量は、接種していない人と大差なく、ワクチン接種をした人もデルタ型に感染した場合周囲に感染を広げる恐れがあると考えられます。

アメリカのCDCは、これまでワクチン接種後はマスクの着用は不要という指針を出していましたが、デルタ型の感染力やワクチン効果の低下を鑑みて先日「ワクチン接種者も屋内ではマスク着用」という推奨に変更しました。

ワクチン接種を完了しても、デルタ型が広がっている今、これまで通りの感染対策を続ける必要があります。

デルタ型変異ウイルスが広がった今、より厳格な感染対策を

スイスチーズモデルで見た新型コロウイルス予防策(林淑朗医師、トクマタカシ氏 作成)
スイスチーズモデルで見た新型コロウイルス予防策(林淑朗医師、トクマタカシ氏 作成)

デルタ型変異ウイルスに対しても基本的な感染対策は変わりません。

ただし、これまで以上に感染しやすくなると考えられていますので、より厳格な感染対策が求められます。

図は新型コロナの感染対策をスイスチーズモデルで見たものですが、手洗いや3つの密を避ける、マスクを着用するなどの感染対策を、どれか特定の感染対策だけをするのではなく、組み合わせて実施することが重要です。

また、ワクチンはデルタ型変異ウイルスに対しても有効です。接種できるタイミングがあればぜひ接種をご検討ください。ただし、ワクチン接種後もこれまで通りの感染対策は続けるようにしましょう。

手洗い啓発ポスター(羽海野チカ先生作)
手洗い啓発ポスター(羽海野チカ先生作)

忽那賢志感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。『専門医が教える 新型コロナ・感染症の本当の話』発売中ッ! ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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感染症

東アジア、2万年以上前にコロナ流行の痕跡 ゲノム研究で発見

https://news.yahoo.co.jp/articles/f98e62c3714244c454ee4667d6b8852714734309

2021/6/27(日) 15:02 CNN.CO.JP

(CNN) 東アジアで2万年以上前にコロナウイルスが流行していたとする研究結果が報告された。米豪共同の研究チームが世界各地に住む人々の全遺伝情報(ゲノム)を解析し、米科学誌カレント・バイオロジーに論文を発表した。 写真特集:「過去の話」ではない病気は 24日に発表された論文によると、世界26カ所で計2500人あまりのゲノムを解析した結果、東アジアに住む人々の遺伝子に、コロナウイルスとの最も古い接触を示す痕跡が見つかった。 チームの研究者によると、ウイルスは一般に人間の細胞に乗っ取って増殖し、人間側の遺伝子はこれに応じて変化を起こす。最近の研究で、その痕跡を数万年前までさかのぼって検出できるようになった。 コロナウイルスに関連する変化は中国と日本、ベトナム国内の計5カ所で見つかった。チームは、各地で別々に起きた流行が東アジア全体に広がったとの見方を示す。 インフルエンザのように季節性のある流行だったのか、新型コロナウイルスのように通年発生していたのかは明らかでないという。 感染を経験して遺伝子が変化した集団は、コロナウイルスに打ち勝つ力をつけて生存競争に有利となり、長い年月を経て人口全体に占める割合が大きくなったと考えられる。

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感染症 社会問題

武漢研究所のバットウーマン「新型コロナ流出? ない証拠をどうやって出すのか」

https://news.yahoo.co.jp/articles/054d7c13c30e9e4da7a2780dd2d601f14610035f

2021/6/16(水) 10:01配信 朝鮮日報

 米国などで新型コロナウイルスの「中国・武漢研究所流出説」が取りざたされている中、カギを握る同研究所のコウモリ・ウイルス専門家、石正麗博士(57)が米メディアとのインタビューで、「世間は罪のない科学者に汚物を浴びせている」と主張した。 ■韓国はコロナ時代に住みやすい国5位…日本は?

 石博士は新型感染症研究のため17年間にわたり中国全土で1万件以上のコウモリのウイルスのサンプルを収集・研究し、「中国のバットウーマン」と呼ばれている人物だ。2017年にコウモリのウイルスを混合して人間に感染させることができる変種を作ったという論文を武漢研究所の同僚と共同発表した。  米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)は14日(現地時間)、石博士が電話で「私たちは遺伝子操作でウイルスの感染性を強化するための研究をしたことがない。新型コロナウイルス問題が発生する前に関連のサンプルを確保したこともない」と主張したと報道した。そして、「新型コロナ発生直前、武漢研究所の研究員の一部が病院に行くほど体調が悪くなった」という米政府の報告書についても、「そのようなことはなかった。どの研究員が病気になったというのか名前を出せ」と問い詰めたという。また、「『新型コロナの背後には中国や石博士がいる』という主張にどう反論するか」との質問には「ない証拠をどうやって出すのか」「私には間違っていることも、怖がることもない」と語ったと同紙は報じた。  石博士は昨年、姿を隠してフランスの米国大使館に亡命したという説まで流れたが、実際には中国当局の保護下で研究や講演活動を続けているという。ジョー・バイデン政権は「新型コロナウイルス実験室流出説」を解明しようと、このほど再調査に着手した。先日行われた主要7カ国首脳会議(G7サミット)の共同声明でも、新型コロナの起源を明らかにする世界保健機関(WHO)の調査に中国の協力を求めるという内容が盛り込まれた。

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新型コロナが「ただの風邪」ではない理由 コロナ病棟医師の見解

https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20210613-00242752/

2021/6/13 倉原優 | 呼吸器内科医

新型コロナワクチンの接種がすすんでいます。当初接種スピードが遅いのでは・・・と懸念していましたが、どこの自治体も頑張っておられ、子どもや職域の接種まで開始されることになりました。

第4波も落ち着きつつあるためか、「新型コロナはただの風邪」「基礎疾患がない人は軽症で済むのだから騒ぎすぎ」という意見を再びよく耳にするようになりました。

若年者や基礎疾患がない患者さんの大部分が軽症で終わることは間違いありません。その人たちにとっては、結果的に「新型コロナはただの風邪だった」と言えます。

同様の感染性を持つインフルエンザでは、国をあげてこれほど議論されることはありません。そのため、「騒ぎすぎ」という意見が出てくることも、よく理解できます。

しかし、新型コロナはただの風邪ではありません。改めて、以下にその理由を述べます。

理由1:重症化率が違う

医療従事者として実感される差は、「重症度」です。肺炎を起こす頻度が高いのです。私は長らく市中病院で呼吸器内科医をやっていますが、インフルエンザ肺炎で入院する人は、年に数えるくらいしかいません。コロナ病棟を有しているとはいえ、1施設で1年間に400例以上のウイルス性肺炎を診るというのは、異常事態です。

「周りに感染している人なんて誰もいない」という意見もあります。2021年6月12日時点での累積感染者数は約77万人なので、確かにインフルエンザほどは身近に新型コロナ感染者を目にしないはずです。しかし、もしインフルエンザと変わらないくらいの重症度なら、入院が必要な人はもっと少なくなるはずです。

「新型コロナだから入院閾値を下げている」というのは正しくなく、パンデミック初期は確かにそのような対応をしていましたが、最近は必要なケースのみにしぼって入院を引き受けています。

そのため、肺炎を起こした新型コロナ患者さんが、これだけたくさん入院しているというのは、ウイルスそのものの毒性が強いからに他なりません。

入院を要した新型コロナ患者さん8万9,530人と、季節性インフルエンザ患者さん4万5,819人を比較したフランスの研究では、死亡率はそれぞれ16.9%、5.8%という結果でした(1)。同様に、入院を要した新型コロナ患者さん3,641人と、季節性インフルエンザ患者さん1万2,676人を比較したアメリカの研究では、死亡率はそれぞれ18.6%、5.3%でした()(2)。入院を要した患者さんだけをみているのでいずれも死亡率が高いですが、インフルエンザよりも新型コロナのほうが重症化しやすいことが分かります。

季節性インフルエンザと新型コロナの違い(文献2より引用)
季節性インフルエンザと新型コロナの違い(文献2より引用)

病院の医療従事者は、普段から入院が必要な患者さんばかりを診ているので、現場でインフルエンザとの違いを感じることができます。

しかし、それ以外はやはり軽症ですから、一般の人には「ただの風邪」としてうつってしまいます。たしかに「大部分は軽症」というのは決して間違いではないのですが、重症化リスクや死亡リスクが高いということがこれまでのウイルスとは違うところです。

理由2:集中治療用ベッドが逼迫する

「理由1:重症化率が違う」によって次に起こることは何でしょうか。そう、ケアを要する入院患者さんの数が増えるのです。入院しなくてもよい患者さんは、自宅やホテルで療養していただきますが、酸素飽和度が下がって酸素療法が必要になったり、食事が摂れなくなったりすると、入院が必要になります。

「日本にはたくさんベッドがあるんだから、それを新型コロナ用に転用すればよい」という意見もありますが、感染対策を講じながら診ていける急性期病床を無限に生み出せるほど、日本の診療体制は充足していません。

もし、「頑張って感染対策をしなくてもよい」とすると、諸外国のようにケタ違いの感染者を生み出すことになります。上述したようにインフルエンザよりも重症化率が高いため、これにより重症者の絶対数が増加します。

ここで、病床逼迫に陥った大阪府の第4波を見てみましょう。大阪府には、600床あまりの集中治療用ベッドがありますが、新型コロナに使えるのは多くても224床というのが当初の試算でした。待機手術などを遅らせて捻出しても、せいぜい350床くらいではないかと思います(その他は救急患者や手術患者に使用されるため)。

この状態で、2021年5月4日に449人の重症患者さんが発生していました。重症病床に転院できない人がたくさん発生し、の黄色の部分は軽症・中等症病床で診療せざるを得なかった重症患者さんをあらわしています。集中治療用ベッドの8割を一疾患が占めるというのは、通常の診療では考えられないことなのです。

大阪府の重症患者数(筆者作成)
大阪府の重症患者数(筆者作成)

通常診療で使用している集中治療用ベッドのほとんどをあっという間に埋めてしまう感染症は、どう考えても「ただの風邪」ではありません。

■参考記事:新型コロナの「重症化」とは? 人工呼吸器を装着したら、実際どうなるのか?(URL:https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20210504-00235518/

「稀な現象も起こってしまえば1分の1」

「どれだけ低い確率でも、副反応が起こってしまえば、その人にとっては1分の1になる」ことから、新型コロナワクチンに対して不安に思われる気持ちはよく分かります。

しかし、「新型コロナのほとんどが軽症で済む」という事実の裏に、「どれだけ低い確率でも、重症化してしまえばその人にとっては1分の1」という致死的な新型コロナ患者さんも存在します。

自分より年下の新型コロナの患者さんに人工呼吸器を装着しなければならなかったとき、これは他人事ではないなと痛感しました。

保険に加入している人が多いと思いますが、保険というのは、「事象が発生する確率は低いが、万が一発生してしまうと損失が大きいもの」に対してかけるという鉄則があります。ワクチンにもこういう保険的側面があって、「たぶん感染しても私は大丈夫だろうけど、万が一にそなえて打つ」という感覚を私は持っています。

そして、個人の加入する保険とは異なり、これが集団免疫という大きな盾になり、社会や国の利益につながります。

(参考)

(1) Piroth L, et al. Lancet Respir Med . 2021 Mar;9(3):251-259.

(2) Xie Y, et al. BMJ . 2020 Dec 15;371:m4677

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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蚊によってコロナは広がるのか?

https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20210605-00241501/

2021/6/5(土) 10:39 忽那賢志
感染症専門医

だんだんと暖かくなり、蚊が増えてくる季節になります。

蚊は日本脳炎やデング熱、マラリアなどを媒介することで感染症を広げる節足動物ですが、新型コロナウイルスを媒介することはあるのでしょうか?

蚊媒介感染症とは?

The World's Deadliest Animals(Gates Noteより)
The World’s Deadliest Animals(Gates Noteより)

こちらは各生物が1年間に人間を死に至らしめている数のランキングです。

日本で生活していると、蚊に刺されることで感染症を意識することはあまりないかもしれません。

しかし、世界では未だに蚊が媒介する感染症は脅威であり、人類を最も死に至らしめている生物は蚊であり、年間80万人が蚊が媒介する感染症で亡くなっているとされます。

日本で発生しうる主な蚊媒介感染症とその特徴(筆者作成)
日本で発生しうる主な蚊媒介感染症とその特徴(筆者作成)

日本国内で今も流行している唯一の蚊媒介感染症は日本脳炎です。

と言っても近年は報告者数は年間10例未満となっていますが、これはワクチン接種によるものであり、日本脳炎ウイルスを持った蚊は西日本を中心に今も分布しています。

デング熱は主に熱帯地域で流行している感染症であり、日本では輸入感染症として年間300例程度が診断されていますが、2019年は海外渡航者が激減したことから年間45例にとどまっています。

国内では流行していませんが、デングウイルスを媒介する蚊(ヒトスジシマカ)が国内に分布しているため、海外でデング熱に感染した人が日本に帰国し、国内で蚊に吸血をされると国内流行につながる可能性があります。

2014年には70年ぶりのデング熱の国内流行が代々木公園を中心に起こったことは記憶に新しいところですし、2019年にも沖縄と東京で国内感染例が報告されています。

デング熱のヒト→蚊→ヒトへの伝播(筆者作成)
デング熱のヒト→蚊→ヒトへの伝播(筆者作成)

マラリアも主に輸入感染症として国内では診断されています。

年間60例程度が報告されていますが、昨年は20例にとどまりました。

デング熱とは違って、マラリアを媒介する蚊が国内にはほとんど分布していないので、国内で流行することはないと考えられています(ただし三日熱マラリアを媒介するシナハマダラカは国内分布しています)。

新型コロナは蚊によって広がるのか?

このように、特定のウイルスや原虫などの微生物は蚊を介して広がっていきます。

では新型コロナウイルスも蚊で広がることがあるのでしょうか?

結論としては、その可能性は極めて低いと考えられています。

新型コロナが蚊媒介感染症として成立するためにはいくつかの条件があります。

1. ヒトが感染した際に新型コロナウイルスが血液中に検出される

2. 新型コロナウイルスが蚊の体内で増殖される

3. 蚊からヒトの血液に注入された新型コロナウイルスがヒトの体内で増殖される

まず1についてですが、蚊が吸血した際に、血液中にウイルスが存在しなければ蚊の体内に入ることができません。

ヒトが感染した際に新型コロナウイルスが血液中に検出されるかどうかですが、205人の新型コロナ患者から採取された307の血液検体から新型コロナウイルスが検出されたのは3検体(1%)のみだった、という報告があります。

また、軽症・中等症では血液中に新型コロナウイルスが検出されることは稀です。

2については、「蚊の体内で新型コロナウイルスは増殖しない」ということが複数の研究で確認されていることが挙げられます(12)。

蚊媒介感染症の条件として、蚊の体内で微生物が増幅されなければいけませんが、それはどうやら起こらないようです。

3の「ヒトの血液に注入された新型コロナウイルスがヒトの体内で増殖される」ですが、これは証明が難しいものの、例えば実験室で新型コロナウイルスを扱っていた方や病院内で新型コロナの検体を扱っていた方が針刺しをしてしまって新型コロナに感染した、というような事例があれば血液を介しての感染が起こり得るということになります。

しかし、現時点では針刺しで新型コロナ感染したという事例は報告されていません。

以上から、新型コロナが蚊を介して広がるということはほぼほぼないだろうと考えられます。

新型コロナの感染予防のためには、蚊の対策よりは、マスク着用、3密を避ける、こまめな手洗いを行うという基本的な感染対策を行うことが重要です。

ただし、蚊に刺されても新型コロナになることはないと思いますが、日本脳炎、デング熱など他の蚊媒介感染症には罹患する可能性があります。

ご自身の予防接種手帳に日本脳炎ワクチンの接種歴(通常4回)が記載されているかをご確認し、もしなければ接種を検討しましょう。

また日頃から虫除けなどを使って蚊に吸血されないようにしましょう。長袖長ズボンなどで肌の露出を出来るだけ避けるようにし、露出した部分には虫よけを塗布するようにしましょう。

虫除けはディートまたはイカリジンという成分を含むものが望ましいとされます。

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新型コロナ空気感染の可能性、WHOも認める-科学者の主張受け入れ

https://news.yahoo.co.jp/articles/ab98cee8f0aa12d3dad0b92af0c6b9d283333793

2021/5/17(月) 15:43 Bloomberg

(ブルームバーグ): 新型コロナウイルスの空気感染の可能性を多くの研究者は1年余りにわたって論じてきたが、世界保健機関(WHO)や米疾病対策センター(CDC)などの保健当局もそうした可能性を受け入れ始めている。

姿勢の変化は明確な兆候を受けたもので、科学者は1800年代に流行したコレラの主な感染源が不衛生な下水だったと判明したことで上下水道の整備が進んだ例を挙げ、換気システムの改善を呼び掛けている。

オーストラリアのブリスベンにあるクイーンズランド工科大学のリディア・モラウスカ教授(地球・大気科学)率いる研究者グループはサイエンス誌に14日掲載された論文で、屋内の空気をより清潔にすれば、新型コロナ対策になるだけでなく、米国で年間500億ドル(約5兆4700億円)余りのコストにつながるインフルエンザや他の呼吸器感染症への罹患(りかん)リスクを最小限に抑えられると指摘。病原体や関連疾患、生産性低下を回避することで、建物の換気・ろ過システムの改修コストを相殺できると主張した。

同大でWHOと提携する空気質・健康センターを統括するモウラスカ氏はズームで、「蛇口からきれいな水が出てくる」のと同じように、屋内の空気は「清潔で汚染物質や病原体を含まないものであるべきだ」と述べた。

論文を執筆した14カ国の科学者39人は屋内換気システムの改善で感染を防止できるとの普遍的な認知が必要だと訴え、空気感染する病原体に関する項目を屋内空気質ガイドラインに盛り込むことなどをWHOに要請した。

新型コロナウイルスは気道内で増殖し、呼吸や会話、歌、せき、くしゃみの際に感染者の鼻や喉から放出されるさまざまなサイズの粒子となって拡散される。

目に見える唾液の飛沫など大きな粒子は急速に落下し、地面や付近の表面に付着するが、最も小さく肉眼では見えないエアロゾル粒子は湿度や気温、気流次第でさらに遠くに運ばれ、より長く空中にとどまる可能性がある。問題になっているのはこのエアロゾル粒子だ。

結核やはしか、水痘などの空気感染は汚染された食品や水を通じて感染する病原体より追跡が難しいものの、過去1年4カ月にわたる研究でエアロゾルが流行性ウイルスの拡散に果たす役割が裏付けられた。

モウラスカ氏らは昨年7月の公開書簡で、換気の回数を増やし、ウイルスが含まれている可能性のある空気を屋内で再循環させないようにするなど、追加の予防措置を認めるよう当局に求めた。

WHOはその後、少なくとも2度ガイダンスを変更したが、新型コロナ感染は「主に通常は1メートル以内の近距離にいる人々の間」で起きるとの立場を維持している。

原題:Covid Is Airborne, Scientists Say. Now Authorities Think So, Too(抜粋)

(c)2021 Bloomberg L.P.

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対策 感染症

「コロナウイルス、布地で72時間生存…感染力もそのまま」

https://news.yahoo.co.jp/articles/a6396ed3601b21b59739ab0f373acad4c06bbbdc

2021/2/25(木) 10:28 中央日報

新型コロナウイルスがポリエステルなど繊維の表面で最長72時間まで生存できるという研究結果が出た。 BBCは24日、英デモントフォート大学の研究陣が、ポリエステル、ポリコットン(ポリエステルと綿を合成した材質)、純綿に、新型コロナウイルスと非常に類似したウイルス「HCoV-OC43」を飛沫形態で付着させた後72時間にわたり観察した結果、ウイルスはポリエステルの表面で72時間、純綿で24時間、ポリコットンで6時間生存したと報道した。 繊維表面に生存する間ウイルスの伝染力はそのままだったことが明らかになった。ただウイルスが付着した布地を洗った洗濯機を通じてウイルスが他の服を汚染することはないと調査された。 研究陣は純綿に付着したウイルスを完全に除去するためには洗濯洗剤を必ず使わなくてはならず、水温は摂氏67度以上に上げなければならないとも勧告した。 研究を主導したケイティ・レアード微生物学博士はこれら繊維の材質が医療従事者のユニフォームによく使われ感染のリスクがあるとし、「ユニフォームを家に持ち帰れば他の表面にウイルスを残しかねない。医療従事者の作業服は病院で洗ったり産業用洗濯で処理しなければならない」と話した。 こうした内容が盛り込まれたレアード博士ら研究陣の論文は現在同僚学者の審査を受けている。

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感染症 感染症ニュース

BCG接種国は新型コロナの死亡者が20分の1 回復者の98%が抗体保有のデータも

https://www.dailyshincho.jp/article/2020/12190557/?all=1

週刊新潮 2020年12月17日号掲載

98%の回復者に抗体が

 新型コロナに感染した後、抗体は短期間で消えてしまう可能性が指摘されてきたが、研究によってほとんどの回復者が半年後にも抗体を保有していたことがわかった。さらに、BCG接種がワクチンの役割を果たしているという指摘も。

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 報道でご存じの方も多いと思うが、横浜市立大学の研究グループが、新型コロナに感染して回復した376人を調査した結果、大半の人が半年後にも抗体を保有していたのだ。同大医学部臨床統計学教室、山中竹春主任教授が説明する。

「新型コロナウイルスに感染すると、多くの種類の抗体が体内にできます。その一部が再感染の阻止を担う中和抗体です。われわれは感染して回復した方から6カ月後に採血し、本学で微生物学が専門の梁明秀(りょうあきひで)教授が開発した抗体検査を用い、4種類の抗体を測定しました。その結果、ほとんどの回復者に残っている抗体が同定されました。さらに特殊な実験室で中和抗体を測定すると、98%の回復者に残っており、日本初の大規模データとして認められたのです。これまでの報道から受ける印象と、だいぶ異なる結果でした」

 事実、夏ごろには、抗体は2~3カ月で消える、という報道が目立った。

「ただ、イギリスや中国の先行研究も、論文のデータを見ると“時間の経過とともに抗体の量や中和抗体の強さは多少減っても、多くの人が(抗体検査の)陽性であり続けている可能性”が読み取れました。だから抗体の量は、報道されるほどは劇的に減っていないだろう、と考えていましたが、100%に近い人に抗体や中和抗体が残っているとまでは、予想しませんでした。今回の成果は、精度が世界最高クラスの抗体検査技術に依拠しているところが大きいと思います」

 むろん、この調査結果は収束への見通しに大いに関係するはずだ。

「中和抗体を保有しているとウイルスが細胞に入るのをブロックするので、保有していない人にくらべ、再感染の確率は低くなるといえます。ワクチン開発の臨床試験でも“中和抗体が保有されているかどうか”は評価項目となります。一般に、ワクチンで作られる免疫が、自然感染で獲得した免疫を大きく上回るとは考えにくく、もし自然感染による獲得免疫が2~3カ月で消えるようなら、ワクチンによる免疫もそれ以下になる可能性があった。自然感染した人の中和抗体が6カ月以上は保持されるとわかって、ワクチン開発にも期待が持てると思います」

 そして、次のように締めくくるのだ。

「新型コロナのような新興感染症では、得られる情報が限定的であるため、SNSやネットメディアの発達と相まって、悪い情報が一気に広まりやすい。その点、データをていねいに取って客観的な議論を重ね、多くの人が思っていたことと異なる結果を出せたことには、意味があると思います。また、予防のためのワクチン開発と、感染した場合の治療薬開発を両輪で推し進めれば、収束への見通しも立ってくると思います」

 日本人を対象にした調査だったが、山中主任教授の見解では、イギリスや中国のデータとくらべてもさほど矛盾がないという。

BCG接種国は死亡者数が20分の1

 さらには、日本人にとってはBCGが奏功していると指摘するのは、元金沢大学医学部講師で医学博士の山口成仁氏である。

「日本株を含むBCGを接種していたアジア及び中近東10カ国をA群、日本株BCGを接種していたアフリカ大陸16カ国をB群、ロシア株を含むBCG接種が義務化されていた15カ国をC群、BCGの接種義務がなかったか、日本株とロシア株以外のBCGが接種されていた19カ国をD群とします。これらのビッグデータをもとに、各国の新型コロナによる100万人あたりの死亡者数を比較しました。するとA群とB群は22・5人、C群は90人なのに、D群は512人でした。日本株のBCG接種国は、日本株もロシア株も接種がない国とくらべ、死亡者数が20分の1。100万人あたりの死亡者が9・7人だった日本にかぎれば、50分の1以下です」

「臨床と微生物」11月号にも掲載されたこのデータは、どう読めばよいのか。

「BCGが特異な自然免疫、細胞性免疫を活性化させて、新型コロナによる重症化を防いでいると考えられます。特に日本は、1935年以降に生まれた人はみな接種を受けている。日本人の95%以上が、新型コロナのワクチンをすでに接種しているのと同じ状況です」

特集「余裕のはずが『病床逼迫』の戦犯! コロナ拒絶病院に政府の無策・無慈悲」より

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感染症 社会問題

疫学者700人がコロナ禍で「絶対にしない行動」

ワクチン接種が始まってもマスクは必須に

The New York Times

https://toyokeizai.net/articles/-/395385?utm_source=yahoo&utm_medium=http&utm_campaign=link_back&utm_content=related

2020/12/14 東洋経済ONLINE

新型コロナウイルスのワクチン配布が近づいているが、専門家の多くは国民の大半の接種が済むまでは、以前の日常が戻るとは考えていない。

疫学者700人を対象としたニューヨーク・タイムズの非公式調査では、最低でも人口の7割が接種を済ませるまでは自らがとっている予防的行動を変えるつもりはない、との回答が約半数を占めた。その一方で3割の専門家は、自らの接種が済んだ後は行動を多少変えると回答した。

元の生活に戻るには「あと何年もかかる」

極めて効果的なワクチンが広く行き渡れば、来年の夏に今より自由な生活様式を安全にスタートさせられるようになる、と回答した疫学者は少数にとどまった。中には「ワクチンの臨床結果は期待できるものだった。2021年の夏までに、あるいは夏の間に以前の生活に戻れると楽観している」(ミシガン州立大学のケリー・ストラッツ助教授)とする回答もあった。

しかし疫学者の大多数は、ワクチン接種が始まったとしても多くの行動を安全に再開できるようになるまでには1年かそれ以上かかり、一部の行動については以前の状態には2度と戻らないかもしれない、と答えている。

カリフォルニア大学ロサンゼルス校のカリン・ミシェルズ教授は「以前の生活様式をだいたい取り戻す」には、おそらくあと何年もかかると回答した。「私たちはウイルスとともにある生活を受け入れなくてはならない」。

疫学者が懸念しているのは、さまざまな不確定要素だ。ここには免疫の持続期間、ウイルスの変異、ワクチン配布の障壁、ワクチン接種を拒否する人々の動向などが含まれる。

感染悪化が予想される本格的な冬が目前に迫った今、疫学者たちは予防策を徹底し、新たな生活様式を取り入れている。その対策は、一般的なアメリカ人が行っているものよりもはるかに厳しい。

日常生活における23の行動について疫学者に尋ねたところ、過去1カ月間に行ったことがある、との回答が多数を占めた行動は3つしかなかった。屋外で友人と会う、予防策を講じることなく郵便物を受け取る、食品や医薬品の買い出しなどの雑用に出かける、の3つだ。

それ以外の行動については、調査に応じた疫学者はほぼ全面的に避けている。そうした行動の中には多くのアメリカ人が現在行っているものもある。この1カ月間でスポーツ、演劇、コンサートの会場に足を運んだり、よく知らない人と会ったり、結婚式に出席したり葬式に参列したことがある、と回答した専門家はほとんど1人もいなかった。

「知らない人が近くにいると以前よりも不安を覚える。そうした感覚はこれからも続くだろう」(カリフォルニア大学サンフランシスコ校でポスドク研究員を務めるエリコット・マセイ博士)

冬の休暇に「祝い事」はしない

クリスマス、ハヌカーといった冬の休暇の予定については、サンクスギビング(感謝祭)と同様、家族だけで過ごすか、祝い事はしないとする回答が4分の3に達した。

調査票の中で示した一連の行動のうち、どれが最も安全で、どれが最も危険かとの問いに対しても、大方の意見が一致した。屋外での行動や物体の表面に触れることについては、あまり危険視されていない。危険視されているのは、屋内での行動や大規模な集まりだ。ただし危険度のレベルについては、疫学者の間でも見解にばらつきが見られた。

マサチューセッツ大学のリーランド・アッカーソン准教授は「屋内に多くの人が集まるのが、状況としては最も危ない」と回答。「屋外で少人数、かつソーシャルディスタンスを確保して予防策も行えばリスクは最も低くなる」とした。同氏はこの1カ月間で、友人とハイキングに出かけたほか、郵便物を予防策なしに開封し、雑用にも出かけたと答えた。

半年前に行った同様の調査でニューヨーク・タイムズは疫学者に次のような質問を投げかけた。通常の生活を取り戻せるのはいつになるのか——。これに対して疫学者の多くは、日常生活の多くが通常に戻るのには1年かそれ以上かかると答えていた。あれから感染状況はさらに悪化。その一方で治療法は改善してきているため、今回の調査ではパンデミックの中で疫学者の生活様式がどのようなものとなったかに質問の的を絞った。

今回の調査に対し、ミネソタ大学のレイチェル・ウィドーム准教授はこんなコメントを寄せてくれた。「笑うに笑えない。前回調査を受けたときは、アメリカなら世界の先頭に立って問題に素早く対処するだろうと先行きをものすごく楽観していた。前回は、今頃には状況は良くなっていると思うと回答したが、大間違いだった。状況は劇的に悪くなっている」。

感染の速度を大幅に遅らせるか止めるためには、「集団免疫」を達成する必要があるが、この集団免疫については、人口の7割が免疫を獲得しなければ達成されないとする回答が大半を占めた。従来の生活の多くを安全に再開するには集団免疫が極めて重要で、それを安全かつ最速で達成する方法がワクチンの接種だ。ただし、ワクチンを接種した人がウイルスを拡散し続ける可能性については、科学的な解明がまだ終わっていない。

ワクチン接種しても、まだ安心できない

自らがワクチン接種を済ませた後はこれまでよりも多くの日常行動を安心して再開できるようになる、とする回答は全体の3分の1に迫った。それでも安心して行える行動は、同じくワクチンを接種した人との社交など一定のものに限られる、とする回答も見られた。自身がワクチン接種を済ませ、なおかつアメリカで集団免疫が達成されるまではコロナ前の生活様式を復活させない、と答えた専門家も少数ながら存在する。

「変えるのは一部の行動だけ。それ以外は今の状態を維持する」と回答したのは、非営利団体ヘルスパートナーズ・インスティテュートのガブリエラ・ヴァスケス・ベニテス上級研究調査員だ。「自身のワクチン接種が済めば、近場での小旅行に出かけたり、少数の身内と屋内で集まったりするようには多少なると思う。それでもマスク着用やソーシャルディスタンスの確保といった感染対策は続ける」

春の時点と比べて、各種のリスクに対する捉え方が変わり、それに応じて自らの行動を変えた、とする回答は79%に達した。科学は日進月歩する、というのがその理由だ。

リスクの捉え方に関する春からの変化としては、屋外での社交、物の表面に触れること、児童の通学に対する懸念が薄れたとする回答があった。その一方で強まったのが、屋内の空気感染やマスクを着用しないことへの懸念だ。

今回の調査では、アメリカ疫学研究学会の会員と個別の疫学者に電子メールで回答を依頼。調査期間は11月18日〜12月2日で、案内を送付した約8000人の疫学者のうち700人から回答を得た。4分の3が学術機関所属。新型コロナに部分的にでも関連する研究を行っている回答者の割合も、全体の4分の3を占めた。

一般国民に対する感染対策の呼びかけが十分に効果を上げていないこと、またアメリカ国民の間で科学不信が高まっている現状に失望や怒りを感じていると答えた疫学者は多かった。マスク着用や外出規制といった対策が政治のおもちゃにされてしまったことで、悪影響が長期に及ぶことを疫学者は恐れている。

「専門家としても、一個人としても、このウイルスには自らの至らなさを思い知らされた」と、スタンフォード大学のミシェル・オッデン准教授はコメントした。「アメリカという国の対応が、ここまでぶざまなものになるとは夢にも思わなかった。課題は山積している」。

コロナ後に残る「長期的な影響」とは

今後の見通しについては、ワクチンのおかげで来年夏にはどこかの段階で以前の生活を部分的に取り戻せるようになる可能性がある、とする回答も見られた。ただ、極めて効果的な治療薬が開発されない限り、現在の予防策は一定程度維持される必要がある、との回答もあった。大多数の疫学者が今後も必要な措置として言及しているのが、マスクの着用だ。

「公共の場で大人数が密になって集まったり、飛行機などの公共交通を利用したりしたときに(科学者の)私が個人的に安心できるような状態になるまでには、まだ数年かかると思う」(ノースイースタン大学のベス・モルナー准教授)

新型コロナが身体に与える危険性が後退したとしても、ほかの面で長期的な影響が残ると警告する疫学者もいた。

「メンタルヘルス(心の健康)のケアは今後も極めて重要な問題であり続ける」との回答を寄せたのは、ペンシルベニア大学でポスドク研究員を務めるダニエル・ヴェイダー博士だ。「世の中のストレスは高まっている。コロナによって引き起こされた不安や悲しみに、多くの人々が生涯悩まされ続けることになる」という。

(執筆:Margot Sanger-Katz記者、Claire Cain Miller記者、Quoctrung Bui記者)
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