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「コロナワクチンにマイクロチップ」陰謀論になぜだまされてしまうのか? 心理を医師が解説

https://news.yahoo.co.jp/articles/6c7afb6a7ecee4e9a9db8a6c7a9ec52584b8740b

2021/6/25(金) 7:00配信 AERA.dot

 インターネット上で展開されるさまざまな陰謀論。冷静に考えればうそとわかるはずなのに、信じてしまう人がいます。どうして単純な陰謀論に引っかかってしまうのでしょうか? 近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授の大塚篤司医師が、自身の経験をもとに解説します。 【写真】「ウイルスが来るわけではない」と五輪について発言し反論の声を受けた芸能人はこちら

*  *  *  新型コロナウイルスやワクチンに関しては、インターネット上でさまざまな陰謀論が展開されています。「人々の生活を監視するためにコロナワクチンにはマイクロチップが含まれている」この陰謀論も冷静に考えればうそとわかるはずなのですが(そもそも注射液に含まれ、注射針を通過できるほどの微小なマイクロチップは作製できない)、アメリカでは約9%の人が信じているというデータもあります。  どうしてこんな単純な陰謀論に引っかかってしまうのか、みなさんは不思議に思うかもしれません。実は陰謀論はとても魅力的で、知ったときの「自分だけが世の中の真実に気がついてしまった」と感じる高揚感や「真実に目覚めた」優越感は何者でもなかった自分を特別な存在に変えてくれます。  かくいう私もかつて、陰謀論にどっぷりハマった時期があります。それは小学校5年生のときでした。  いつも通う近所の理髪店のおじさんが、お客さんがいなくなった店内で神妙な面持ちで話しはじめました。 「大塚くんは秘密を守れるか?」  小学生の私はその質問だけでドキドキしました。  誰にも言わないと約束した内容はまさに陰謀論でした。 「アメリカの米軍基地にはUFOの着陸場所がある」 「その証拠に、誤ってUFOが着陸した場所にミステリーサークルができている」 「UFOは人間の魂を運んでいる」  あの時、自分だけで世界の真実を知ってしまったという高揚感は今も忘れられません。自分は選ばれた人間になってしまったのだ、心からそう感じました。  本当に信頼している友人にだけ、その秘密を教え「自分たちだけが世の中の真実を知っている」優越感を味わいました。

 ときに「近所の理髪店のおじさんが国家秘密など知っているわけがない」という真っ当な反論をしてくれる友もいましたが、小学生の私は陰謀論をうそと否定されることはすなわち「自分が普通の人である」と言われているように感じました。  年齢とともにその陰謀論は常識的にうそだと理解できるようになりましたが、数年間は世の中の全ての出来事がその陰謀論とつながっているような錯覚に陥りました。  おそらく、理髪店のおじさんも、無知だった小学生の私をだまそうと陰謀論を語ったわけではないでしょう。おじさん自身が陰謀論を信じていたからこそ、私に教えてくれたに違いありません。  うそやデマ、陰謀論などがまことしやかに世の中にあふれ、真実と区別がつかなくなる状況をインフォデミックと呼びます。インターネットが普及した現代社会では、人々は簡単に陰謀論にたどり着きます。自分では深く勉強していると思って、結局のところデマの情報ばかり集めてしまっている人も見かけます。  先の「ワクチンにマイクロチップが含まれている」という陰謀論は、反ワクチンを指導する団体や一部の医者(とても残念ですが)がインフルエンサーとなって広まっています。 「国や製薬会社は私たちをだまそうとしている。真実に気がついた私たちが声を上げよう」と。  実は陰謀論を語る人の背景には、お金や名声を得ようとする陰謀が存在していることに多くの人は気がつきません。  最近の調査で、アメリカのSNSの81万件以上の投稿を分析した結果、12人の反ワクチン主義者が反ワクチンコンテンツの3分の2を生み出しているということがわかりました。驚くべきことに彼らは、少なくとも3600万ドル(40億円弱)の収益を毎年生み出しているようです。  反ワクチンはすでに大きなビジネスになっています。  自分の恥ずかしい経験を振り返ってみると、陰謀論とは楽して特別な存在になれる薬のようなものでした。陰謀論に酔うのはとても気持ちが良いものです。

「簡単にもうかる」とうたう情報商材や「身につけるだけでモテる」という広告と同じように、ちょっと考えればうそとわかるものであるにも関わらずだまされてしまうのは、努力をせずに特別な自分になれた高揚感があるからでしょう。ワクチンに関してはさらにやっかいなことに、「人々の健康を守るために」という正義感が生まれやすく、ますますインフォデミックを拡大させてしまいます。  職業柄、研究をやっていて感じることは、簡単には真実にたどり着かないということです。普通の生活を送っていて、ある日突然、自分だけに真実が降ってくることはありません。また、一般の人がインターネットだけで真実にたどり着くことはほぼないでしょう。高揚感を得るような健康情報には十分に注意しましょう。