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売れぬ五輪グッズに“かん口令”? メーカー悲痛「大量のゴミと化すことを覚悟」

https://news.yahoo.co.jp/articles/d0eff397230c44400d44dccd34da67bf262aa577

2021/06/24(木) 8:00 AERA.dot

 東京五輪の開幕が約1か月後に迫っているが、新型コロナウイルスの感染拡大が収束せず開催への異論が渦巻く中、公式グッズの売れ行きは厳しい。なかには東京五輪の組織委から「売れ行きに関する話を外部に出さないように」などと“かん口令”を敷かれたメーカーも。「大量に売れ残ってゴミと化すことは覚悟しています」。業者からは悲痛な声が漏れる。 【写真】「居酒屋のユニホーム」と酷評された東京五輪表彰式衣装はこちら

 東京五輪・パラリンピック組織委員会とライセンス契約を結び、公式グッズを製造するメーカーは約90社ある。  メーカーは小売価格の5~7パーセントをロイヤリティー(権利使用料)として組織委員会に支払う仕組みだ。実際に売れた数ではなく、製造数に応じたロイヤリティーが生じる。さらに小売価格の2パーセントを、販売促進支援のための経費として支払う。  複数のメーカーに売り上げの現状を尋ねたが、厳しい状況をにおわせつつも「組織委を通して許可を得てからではないと、取材に応じられません」「話せないことになっている」などと回答を控える担当者が多かった。  匿名を条件に答えてくれたあるメーカーの担当者は昨年の春ごろ、組織委から連絡を受け「グッズの売れ行きに関することは外部に言わないように」という趣旨の“かん口令”を敷かれたという。「突然の連絡でしたし、文書で通知を受けたわけではなく口頭だったので真意は図りかねますが、時期も時期でしたので、五輪に関してマイナスなことは言わないようにという『口止め』のような印象を受けましたね」  この担当者はグッズの売れ行きについて、暗い見通しを口にする。 「弊社では数万点のグッズを準備しましたが、当初目標の3分の1でも売れてくれれば万々歳だと思っています。ただ、海外からの観光客が見込めず、国内でもこれだけ五輪反対の人が多い中では3分の1ですら難しいでしょうね。詳細な数字は明かせませんが、大量の売れ残りが出てゴミになることは覚悟していますし、相当な額の赤字が生じることは確実です」  として、「公に言えないだけで、メーカーさん皆が同じ状況に頭を抱えていると思いますよ」と話す。

 別のメーカーの担当者も、「うちも従業員が、組織委から売り上げに関する情報を出さないでくれという趣旨の連絡を受けた」と明かしつつ、 「この状況では隠したって仕方がない。売れ行きは全然だめです、本当にだめ。どのくらい売れてないか数字が出せないくらい売れていません。このままでは廃棄が数万点にのぼるかもしれない」と危機感を募らせる。  そして、 「契約前にあらかじめグッズの製造数の概算を出し、このくらいのロイヤリティーが支払えると見積ったうえで契約しており、ロイヤリティーはすでに組織委に支払っています。コロナなんて誰も見通せなかったし、こちらも利益が出ると見込んで契約を希望したので仕方がないことですが、たとえ五輪が中止になっても1円も返ってきません。売れないとメーカーの赤字が膨らむだけなんです」  とこぼした。  事実、6月19、20日の土日に都内や近県の公式グッズを扱う店舗を訪れたが、どこも客足はまばらだった。趣向を凝らした衣料品や食器、文具や工芸品など多種多様なグッズが並ぶが、手に取る人は少なく、ぬいぐるみたちもどこか寂しげだ。 「応援グッズなどが少しずつ売れてきてはいますが、なかなかお客さんに来てもらえません。大会が始まったらもう少し上向くと期待してはいますが……」  と店員の表情はさえない。

 マスクを購入した40代の男性の思いは複雑だ。 「選手たちを応援したいので、ランニングの時に使おうと買いました。ただ、電車だとか公共の場では着けないと思います。これだけ反対論が強い中で、五輪を応援しているってオープンにはしづらいし、もし医療従事者の方が見たらどう思うだろうかって考えてしまいます」  日用品を購入ついでに小学生の長男とたまたま立ち寄った30代の主婦は、さらに手厳しい。 「かわいいグッズが多いので売れ残っちゃったらかわいそうですよね。ただ、五輪やるなら子どもの運動会も自由にやらせてよって、納得がいかない思いも持っています。首相や小池さん(都知事)たちが『五輪をやらせてください』って頭を下げるなら、支えようかなって思う人も出るかもしれませんけど、いろんな声を無視して勝手に突き進んでいる感じですし。周りのママ友も反対の人が多いので、何を買うか買わないかはまた考えたいと思います」  五輪が始まったら少しは売れてほしい、メーカーの思いは切実だ。別のメーカーの関係者はライセンス契約上、自由な宣伝活動ができないことになっていると説明した上で、こんな希望を口にする。 「廃棄は避けられないとはいえ、少しでも減らしたいのが本音です。五輪終了後は商品の宣伝を自由にしたり、大幅な値引き販売を許可するなど、組織委には柔軟な対応をお願いしたい」  こうした問題についても、組織委には「見えないふり」をしないことを求めたい。 (AERA dot. 編集部・國府田英之)