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メダルとコロナの「Wラッシュ」で、日本に起こる3つのこと

https://news.yahoo.co.jp/articles/955e7e2594b0c1a094bc936b4e0134f7d856a267

2021/7/30 DIAMOND online

● 五輪の盛り上がりとコロナ感染者の急増 これから東京はどうなる?  連日、オリンピックでの日本勢のメダルラッシュで東京は沸いています。日々金メダルが増える一方で、同じタイミングで発表される新型コロナの感染者数も急増しています。過去最大の感染者数が報告されるような状況となり、これから東京はどうなってしまうのでしょうか? 【この記事の画像を見る】  私は経済に関する未来予測が専門です。実はここ数カ月、いろいろなメディアで予言してきた未来予測どおりの状況になってきています。  そのとおりになった未来予測を整理しておきたいと思います。  (1)政府は2021年の春は経済より五輪を優先する形で緊急事態宣言を延長し続ける (2)東京五輪は予定通り開催される (3)選手村ではパンデミックは起きないが、五輪開催中に都内では第5波が拡大する  ここまでは予測が的中しました。心配なのはこの後だと思います。実はこの先についても企業向けに以下のような未来予測をしています。  東京にこれから起きることを整理するとこのようなことになります。  (4)2021年夏、感染者数は大幅に増えるが死者数が低い状態にとどまるだろう (5)変異種のデルタ株が猛威をふるう可能性は高いが、その被害も限定的に収まるはず (6)結果として日本経済はこの夏を境にアフターコロナに向かうだろう  これは何度も繰り返しお伝えしていることですが、私の予測はあくまで統計学的な証拠から得られた未来予測です。医学的な予測とは手法や判断基準が異なる点はご了承ください。

● 感染者数と死者数の推移から考える ワクチンの威力  ひとことでまとめると、東京五輪がきっかけで東京では新型コロナが爆発的に増加し、医療崩壊に近い状態に達する可能性があるのですが、死者数という指標で見ると被害が限定的になることが予測されます。そして、そのメカニズムが広く理解されるようになることでコロナは怖れる病から共存する病へと変わる。こうしてこの夏以降、アフターコロナ社会が始まるという予測です。  まず根拠となるデータを見ていただきましょう。最初に見ていただきたいのが世界最大の感染者数を出したアメリカ合衆国の感染状況のグラフです。  大谷翔平選手の活躍に沸くMLBの試合を見ていらっしゃる方はお気づきだと思いますが、アメリカの球場ではマスクをしない観客が大量に押し寄せて大声で大谷選手を応援しています。日本人からすれば、「こんなことで大丈夫なのか?」と思うのですが、グラフを見ていただくとほぼほぼ大丈夫な状況になっていることがわかります。  きっかけは明らかにワクチンです。アメリカではバイデン新政権が発足早々に「100日で1億回接種」の方針を打ち出し、その目標はわずか59日で達成されました。3月末段階で国民の3分の1が接種を終え、この時期以降、感染者数グラフは急速に減少し、低い水準で推移しています。  直近でアメリカの100人あたりの接種回数は102回です。ひとり2回接種が必要なことを考えると、完全に免役ができている人はまだ人口の半分程度になるわけですが、「ワクチン接種が広がることで、社会はアフターコロナに移行できる」というのは事実だといえます。  先ほどの予言(3)で「選手村ではパンデミックは起きないが、五輪開催中に都内では第五波が拡大する」と予測したのはこのワクチンの接種率が根拠です。

● 五輪中の第5波拡大が避けられない 構造的な理由  オリンピック選手は8割がワクチンを接種していてPCR検査も受けています。それでも一定数の感染者は出ていますが、そもそものワクチン接種率が高く、(ルールが緩いことが危惧されているとはいえ)バブル方式で隔離もされているので、お互いから感染する確率は実はそれほど高くはない。選手村の部屋の中でどんちゃん騒ぎをしている声がするという報道はありますが、クラスターリスクはそもそもそれほど高くはない集団なのです。  一方で、東京都民は違います。日本もワクチン接種回数はリカバリーを始めていますが、それでも100人あたりの接種回数はまだ61回。ワクチンを2度打ち終わった人を多めに見積もっても、まだ3割の集団免役率でしかありません。その大多数に相当するのは優先接種した3800万人の高齢者ですから、絶対数として見れば若者にはまだワクチン接種を完了した人が少ないのです。  そのような状況でも、五輪のメダルラッシュで沸いて、ついつい浮かれて人々が外に出てしまいます。いくら「五輪は家で観戦しましょう」と政府が呼びかけても、トライアスロンや自転車競技、ウインドサーフィンなど屋外で行われる競技では、一目見ようという観客が大挙して訪れます。  ブルーインパルスが飛行すれば大勢の人が撮影に出かけ、金メダル獲得の瞬間を目にした後は感動にひたるためにお酒を買いに外出する。そもそも、オリンピックを地元・東京で開催しながら、都民全員が家に閉じこもるというのは想定上無理があるのです。  そのことから私は「ひとびとの外出が増えることで五輪期間中に第5波は大幅に拡大する」と予測したのですが、結果はその通りになりました。しかし、私は同時に「その際の第5波の死者数は実は少ない」とも予測しました。  背景となる要因が二つあります。一つは昨年夏の第2波を見ても分かるとおり、感染者数が多くても夏のコロナは死のリスクが低い。これがひとつめの要因です。そして二つめの要因は、ワクチン接種率が低いといっても高齢者の多くがすでにワクチン接種を終えているという事実です。  図を見ていただくと分かります。図2は日本の感染者数のグラフです。さきほどのアメリカのグラフと異なり、図表の中で赤線で印をつけた今年2月の段階では、まだワクチン接種は医療従事者への先行接種がようやくはじまったばかり。一般の高齢者への接種が本格化したのは5月以降です。  グラフを見るとまさにそれを裏付ける状況となっています。2月に緊急事態宣言がいったん解除されたあと、3月に第4波が襲い、感染者も死者数も第3波と同じ水準で立ち上がります。ここで、図表の下側の死者数のグラフに注目してください。3月から4月にかけて増加傾向にあり、2度目の危機が訪れていたのです。しかし、ワクチン接種が進んだ5月以降、日本の死者数は激減していきます。  実は、日本の新型コロナの死者の95%は60歳以上が占めていました。そしてファイザーとモデルナのワクチンは2度接種することで95%の感染予防効果が実証されています。つまり高齢者層にほぼ100%の比率でワクチン接種を行うと、日本全体で9割の死亡リスク(つまり95%×95%)は理論的に減らすことができるのです。  そして、死者数のグラフを見ていただくと分かるのですが、この7月、東京で第5波が急激に拡大している中でも、死者数は収束に向かいつつあります。これが4番目の予測である、「2021年夏、感染者数は大幅に増えるが死者数が低い状態にとどまるだろう」の根拠です。  ここで若い人に注意していただきたいのですが、死なないとはいえワクチンを打っていない20代、30代の感染者は爆発的に増加していますし、重症者もそれに比例して増えています。  若い人は死ぬ確率は低いのですが、免役を持たない新型の伝染病ですから感染すれば発症する確率は高いです。中症化ないしは重症化することで高熱が出て呼吸の苦しい日が続き、かなりつらい思いはするわけです。この理解が不足しているので、若者の無防備な外出はあいかわらず止まりませんし、医療現場の苦労は続いているというわけです。

● デルタ株はどこまで拡大する? 日英の感染状況を考察  さて、そのような状況下で猛威をふるう変異種によって、未来がさらにどうなるのか、新たな不安を覚える人もいらっしゃると思います。そこで5番目の予測、「変異種のデルタ株が猛威をふるう可能性は高いが、その被害も限定的で収まるはず」についての根拠を見てみましょう。  デルタ株はインドで広まって、インドの旧宗主国であるイギリスにも広まりました。イギリスの感染状況は以下のグラフの通りです。  アメリカと違い、イギリスではワクチンで収束したはずの新型コロナが5月になって急拡大しています。この急拡大分の大半を占めるのがインド発祥の変異種・デルタ株です。  ロックダウンが徹底されたイギリスで、なぜここまで変異種が広まったのか?イギリスの専門家によれば、渡航者の多さがイギリスのデルタ株パンデミックの原因になったといいます。ワクチン接種が進み、ビジネスに関する海外渡航のルールが緩和された時期と、デルタ株の流行が始まった時期が重なっているからです。  そして、このことは東京にとっても非常に悪いニュースです。なぜならこの7月、東京には世界中から五輪関係者が集まってきているからです。  私は「選手村は大丈夫だ」と言いましたが、問題は大会会場を埋め尽くしている大会関係者です。言い換えればジャーナリストとスポンサーということになるのですが、こういった方々は選手とは異なり、組織委員会もその行動をコントロールすることは実質的に不可能な状態になっているのは読者の皆様もご存じの通りです。  すでにデルタ株は東京の発症でも3割まで増加してきていて、そのリスクは五輪開催で当然のことながら急上昇しています。  問題はワクチンが効くかどうかですが、報道によるとイギリスで変異種に感染した人の中には、ファイザー以外にアストラゼネカのワクチン接種者も多いようです。2度の接種でファイザーがデルタ株に対して88%の有効性であるのに対して、アストラゼネカは60%の有効性にとどまるといった研究結果もあります。このあたりワクチンメーカーの構成が違う(ファイザーとモデルナ)東京の場合、デルタ株の被害はイギリスほどにはならない可能性はあると思います。  そして、私が一番重視しているのは、デルタ株がまん延し始めたイギリスのグラフでも死者数は収束している点です。これから先、デルタ株についていろいろなことが分かってくると思いますが、報道によればワクチンを接種している場合、感染はしても中症化も重症化もしにくいという研究発表があり、その点については東京にとって明るい予測要素になりそうです。  実は「ワクチン接種が進むことでコロナの死亡リスクが大幅に減る」ということは、コロナ対策の前提条件の変化を意味します。これまでは「免疫がないために感染しやすく、感染すると死亡リスクが大きい」という前提で新型コロナは新型インフルエンザ等感染症に指定されています。  法定の感染症であるがゆえに、治療現場では医療関係者の負担が高くなっています。しかし、医療関係者も入院患者の多くもワクチン接種が進んだという新しい前提下では、この対応の見直しを早めたほうがいいかもしれません。なぜなら医療現場では新型コロナの第5波拡大にともない、「それ以外の救える可能性がある命が救えなくなる」という危惧が高まっているからです。  日本はコロナという病との共生を考えるべき段階に来ていると、とらえるべきではないでしょうか。

● 夏を境に日本経済は コロナと共生する「アフターコロナ」へ  さて最後にもう一つ、事実関係はさておいて興味深いグラフをご覧いただきたいと思います。インドの感染状況です。  インドはアメリカに次ぐ世界2位の感染者数を記録した国です。しかもアメリカとは異なり全人口に行きわたるワクチンの量が確保できず、大半の国民はワクチンも治療薬もないまま新型コロナのパンデミックを迎えました。  一時は死者の埋葬も間に合わないというほどの被害だったインドですが、5月に入り、感染者数が急速に減少していることがグラフから分かります。  この原因については、あくまで医学的な事実は分からないと申し上げておきます。しかしNHK BSのドキュメンタリーで興味深い現地報道をしていましたので紹介したいと思います。要するにワクチンが手に入らないインドの国民は、代わりに薬局で安価に手に入るイベルメクチンを飲んで自衛を始めたというのです。  イベルメクチンはノーベル賞を受賞した大村智博士が開発に関わった抗寄生虫薬です。用途がまったく違う治療薬なのですが、新型コロナが出現した当時、既存の薬の中で新型コロナに対抗できる薬がないか広く探された中で、イベルメクチンに治療薬としての効果があるのではないかと注目されました。  そこで、陰謀論的に興味深いことが起きています。アフリカやアジアなどワクチンが入手できない国で自衛的にイベルメクチンを飲む人が増えた一方で、世界保健機関(WHO)、米食品医薬品局(FDA)、米感染症学会のいずれもがイベルメクチンをコロナに適用しないように勧告したのです。  そもそもイベルメクチンは多くの国々で処方箋なしに購入できる、いいかえると副作用のリスクが非常に少ない薬です。それでもそれらの機関では危険性を広く注意喚起して、先進国ではこれから治験をした後でその有効性を確認しようという態度をとっています。  状況を勘繰れば、特許の切れた市販薬がコロナに効くとなるとビジネスモデル的に困るひとたちが一定数いて、それらのひとたちの政治力がかなり大きいようだというようにも見える政治的な展開です。  公的機関は「世界各国でイベルメクチンを飲んだことでコロナから回復した人がたくさんいる」という事実は「治験による信頼性とは異なる」と意見表明しています。医学研究者の立場としてはそうなのでしょう。ただ経済学的には、これら貧しい国々を中心にイベルメクチンの需要はこの先、急拡大すると思います。  医学で権威のある人たちが認めなくても、統計学の観点で図4を見ればイベルメクチンとインドのコロナ収束に「相関傾向がない」と考える人は少数派のはずです。そして多くの製薬会社にとって残念なことなのかもしれませんが、イベルメクチンは実質的に新型コロナ治療薬として、それらの国々に広まっていくはずです。  結局、これらの事実を見ていると最後の予測、「結果として日本経済はこの夏を境にアフターコロナに向かうだろう」という希望が見えてきます。  ワクチン接種は、ワクチンが思ったほど届かないという問題を抱えつつも、高齢者中心にワクチンがいきわたるところまでは到達できました。状況はこのあと、さらに良くなるでしょう。  新型コロナのもうひとつの問題である「治療薬がない」という問題も、科学者の努力か経済原理かどちらが原動力になるかは分かりませんが、それほど先ではない時期に解決されることでしょう。  繰り返しになりますが、予測としては東京のコロナ感染者数はこの夏、急増すると予想されます。しかしそのコロナがおよぼす意味が、この夏を境に変わる。そして世界経済はコロナにおびえてこもる段階を過ぎて、コロナと共生しながら前に進む時期へと変化するだろうと私は予測しています。  (百年コンサルティング代表 鈴木貴博)  訂正 記事初出時より以下の通り表記を改めました。 40段落目:新型コロナは2022年1月末まで指定感染症にされています→新型コロナは新型インフルエンザ等感染症に指定されています 41段落目:法定の指定感染症であるがゆえに→法定の感染症であるがゆえに 41段落目:治療現場では防護服の着用など医療関係者の負担が高くなっています→治療現場では医療関係者の負担が高くなっています 41段落目:この指定の見直しを早めたほうがいいかもしれません→この対応の見直しを早めたほうがいいかもしれません (2021年7月30日14:41 ダイヤモンド編集部)

鈴木貴博