カテゴリー
社会問題

「見出しや数字が独り歩きしている」ワクチン接種後に死亡したケースをめぐる大手メディアの報道に批判の声

https://news.yahoo.co.jp/articles/c05682fa3ceb605ad599deeb3400286125aa8c01

2021/6/15(火) 10:50配信 ABEMA TIMES

 世界に比べ遅れが指摘されていたが日本のワクチン接種だが、13日からは一部企業でも職域接種が始まり、先週10日時点では接種率が世界の平均を超えたこともわかった。 【映像】「仮面を被ってるだけ…」元朝日記者と考えるリベラルメディア  一方、大手メディアが厚生労働省の報告をベースに“因果関係不明”としつつも、「【独自】ワクチン接種後に X人死亡」「接種X日後に“飛び降り“ 厚労省報告」などと銘打って報じていることに対し、視聴者や読者の不安を煽るだけではないかとの指摘も多い。パックン

 パックンは「ワクチンの安全性の検証のためには、ありとあらゆる情報を集めるべきだし、もちろん遺族や長い間お付き合いしてきたかかりつけ医の話も聞くべきだ。その意味では、こうした報道も必要だと思う。ただし、ワクチン接種を進めなければいけない状況下で見出しだけが一人歩きし、恐怖を煽るような報道は避けるべきだ。それによってパンデミックの収束が遅れてしまうとしたら、責任は大きい。  例えば日本では1日に3000人以上の人が亡くなっているし、新型コロナ感染者で亡くなった人は去年1年間で3500人もいる。それに比べて、この196名というのは多いのかどうか。そもそもワクチンとの因果関係がはっきりしていない以上、前日の朝ごはんに食べたものを報じるのと同じくらい無責任ではないか。ものすごく長い見出しになりそうだが、“2000万人中196名死亡”だったら分母も分かるので、“なるほど”と思ってもらえるかもしれない」とコメント。堀潤氏

 元NHKアナウンサーの堀潤氏は「みんなどうしても見出しだけを見てしまうし、数字なども独り歩きしてしまう。また、テキストベースのメディアの場合、どうしても最初に数字が出てきて、最後に論評めいた言葉で着地することが多い。しかし、それでは不十分だと思う。今回のような報道で言えば、まずは丁寧に事実関係を並べた上で、“因果関係は分からず”と書くべき話だろう。  僕が研修の時に徹底的に教えられたのは、“人の生き死にに関わることは軽々と語るべきではない”ということ。こういう数字が出てきた時に、速報的にパッと伝えていい話なのか、踏ん張って、時間をかけてやる話だぞという線引きをする必要があると思う。日々の感染者数についても、どんな傾向があるのかを報じるべきだし、“短い尺しかないから、こっちの数字を出したほうがいいのではないか”といった話をすべきではないか」と指摘。  その上で、「テレビのニュース番組の場合、アメリカのCNNがそうであるように、ストレートニュース番組よりもディベート型ニュース番組のようにして、この数字をどう見るのかというのを議論する場を作ることが必要だ。その意味では、まさに公共放送は役割が問われていると思う。“これはある意味では政府広報に近いような時間帯だ“と明言した上でのディベート番組をやったり、検証するための時間帯だということで番組をやったりしてもいい。政府の方も、情報公開と合わせて専門家を交えた議論をライブで中継すれば、啓蒙にも繋がる」と訴えた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

カテゴリー
感染症ニュース 社会問題

たった4分でワクチン接種完了…トヨタが作った「豊田市モデル」のすごいやり方

https://news.yahoo.co.jp/articles/0a6f768f9b4e9b07482ddeee44470af64d3250e9

2021/6/16(水) 11:16 PRESIDENT ONLINE

ワクチン接種のスピードアップが日本全国で課題となっている。このうち愛知県豊田市は、トヨタ自動車などと協力して高速接種システムを作った。現地を取材したノンフィクション作家の野地秩嘉さんは「東京の大規模接種センターは30分かかったが、豊田市モデルは4分で終わる。やり方が根本的に違う」という――。 【図版】堤トレックのアリーナ・集団接種会場内のレイアウト ■続々と進むワクチン接種  日本の人口は約1億2500万人。6月14日までの新型コロナ感染者数は累計で77万6139人。亡くなった方の数1万4137人、退院者73万446人(NHK調べ)。国民のほとんどというか、圧倒的多数は感染していない。  新型コロナが世界を覆うようになってから1年以上、日本国民はステイホーム、マスク、手洗い、黙食などで冷静に対処し、効果を上げている。マスコミ報道を見ていると、みんながみんな路上飲みをしているように思えてしまうが、そんなことはない。日本国民は真面目だ。その真面目さが新型コロナに対しての最大の武器だ。  そこに効果の高いワクチンが加わった。感染と重症化を防ぐ有効性はファイザー製で95%、モデルナ製は94.1%である。マスクと手洗いを続けている人がワクチンを打てば安心感は増す。さらに日々平穏に暮らしていくことができる。  ワクチン接種は打った人だけがメリットを得るわけではない。なんといっても医療従事者の負担を減らすことができる。  接種が加速すればするほど、彼らは安心する。彼らのためにもワクチン接種はした方がいい。自分たちのためだけではない。 ■大手町の大規模接種会場に行ってみた  5月25日。大規模接種が始まって2日目。64歳のわたしは高齢者のひとりとして自衛隊が運営する東京・大手町の大規模接種会場へ向かっていた。  「64歳なのにワクチンを打つ?  けしからんな」などと叱られる筋合いはない。学齢では65歳だから、接種することができたのである。  予約した時間、午後4時よりも早く、東京メトロの竹橋駅に着いた。改札口を出ると、「自衛隊東京大規模接種センター」と書いた看板を持った案内係が立っていて、「あちらです」と促す。建物に着くまで、路上に立つ案内係が5人はいた。大規模接種には大勢の人が動員されている。  会場の入り口には列ができていた。定員は1万人だが、すべり出しのころは5000人だった。それでも列はできる。ただし、せいぜい数メートルで、入り口に入るまでに待つ時間は5分ほどだった。  周りを見わたすと、来場者は女性の方が多かった。女性は半袖もしくはノースリーブ。それに薄地の上着を羽織っていた。一方、男性は半袖ポロシャツにゴルフ用のパンツでコーディネートである。女性がグレースフルな装いで登場しているのに比べ、男性は画一的だった。

■入場から会場を出るまで40分  来場者は入り口で4色のクリアファイルを渡され、緑色の人は4階の接種会場へ、赤の人は3階へといったように割り振られる。階上へ行く場合、引率者がグループ分けした数人を引きつれて、エレベーターで上がっていく。高齢の人たちのなかには杖をついたり、車椅子の人もいたりするから階段は使わせないようにしているのだろう。  階上の接種会場に着いたら、受付を兼ねた予診票の確認がある。次に医師が予診をして、その後に看護師、医師がワクチン接種を担当する。接種が済んだら、15分もしくは30分の経過観察をして帰宅する。  わたしの場合、入場してから会場を出るまでにかかった時間は40分だった。うち15分は経過観察の時間。待ち時間があったのは予診票の確認、予診、接種の前、いずれも5分くらいのものだった。  だからといって「遅いじゃないか。自衛隊は何をやってるんだ」と机をたたいて怒ることはしなかった。5分くらいの待ち時間はスマホでゴルフのレッスン動画や町中華のチャーハン調理動画を眺めていればすぐに過ぎてしまう。  自衛隊の大規模接種会場はしっかりと運営されている。 ■免疫は少しずつ形成されていく  同会場で使っているワクチンはモデルナ製だ。各地で21日から始まる職域接種で使うものと同じである。  ファイザー製との大きな違いは1度目と2度目の接種間隔だ。モデルナは4週間、空ける。一方、ファイザーは3週間。いずれも十分な免疫が確認されるのは2回目を接種してから14日、経った後だ。  免疫の形成に関して、接種担当の看護師に尋ねてみた。  「免疫は2週間後に突然、できるのですか?  それとも毎日、少しずつ増えていくのですか? 」  答え。  「少しずつです」  それを聞いて、少し安心した。接種した翌日あるいは翌々日であっても、少しは免疫は形成されるのだから。  また、1回、接種しただけでも効果は高い。5月29日のロイター電にはこうある。  「米疾病対策センター(CDC)は米ファイザー・独ビオンテック製と米モデルナ製の新型コロナウイルスワクチンについて、1回目の接種から2週間後に感染リスクが80%低減したという調査結果を発表した。さらに、2回目の接種を受けてから2週間後の有効性が90%だったことも示された」

■2回目の予約をしようとしたら…  さて、では、何の問題もなかったのか。  ひとつだけ、あると言えばある。それはワクチン接種の間隔だ。前述のように、わたしは大規模接種が始まって2日目に受けた。接種後、証明書を受け取り、次回の予約なのだけれど、「予約が満杯なので、あなたは5週間後」……だった。  「おいおい、ちょっと待って。だって、接種間隔は4週間後と書いてあるのに」  口には出さなかったが、これは「聞いてないよ」である。5週間後に2回目を接種したとすると、免疫ができるのはさらにその2週間後だ。  ファイザー製ならば1度目の後、3週間後に2回目が打てるようになっている。しかし、自衛隊の大規模接種の東京会場に限って言えば2回目は5週間後から。  また、東京会場は6月10日現在、「予約がガラガラ」という報道がある。それはワクチン接種が2回必要だからだ。大規模に人を集めれば2回目の接種が始まるまでに、どうしても空いている時期が出てしまう。6月28日を過ぎれば今度は2回目を打つ人たちがやってくるから、ずっとガラガラになるわけではない。  端境期というか、予約の空きがあるならば、会場にいる人たちがどんどん打って、大手町、竹橋で働く人たちも年齢に関係なく接種すればいいだけの話だ。  あらためて言うけれど、ワクチンを接種すれば医療従事者の体と心の負担は減る。 ■豊田市の「4分」で終わる接種会場  現在、大規模接種センターが各地にできつつある。ホームページを見ると、どこの会場でも接種にかかわる時間は入り口から出口まで経過観察も入れて「45分から1時間」が通例だ。  しかし、愛知県豊田市のトヨタ自動車とヤマト運輸がかかわる接種会場では「経過観察時間をのぞけば接種時間は4分」だという。  接種にかかわる時間がたった4分?  それでは、見に行かなくては……。  5月30日から豊田市は医師会、トヨタ、ヤマト両社と連携して大規模接種センターを運営している。ヤマトはワクチンの輸送を担当し、トヨタは工場内施設などを会場として提供、社内の医師、看護師も派遣している。  そして、接種システムの効率化のためにトヨタ生産方式を活用している。接種にかかわる時間が4分で済むのはトヨタ生産方式を下敷きにした接種のシステムを作ったからだ。  接種は午前10時から午後5時までで、うち1時間は昼休み。今のところは土曜と日曜が接種日になっている。初回は600人、2回目以降は900人以上と順次、増やしている。

■トヨタ生産方式を活用  豊田市の人口は42万人。うち、高齢者を含めた対象者は約25万人だ。接種会場は複数ある(現在7カ所)が、わたしが見に行ったのはトヨタの堤工場の敷地内にある厚生施設「堤TREC(トレック)」の会場である。  さて、運営に活用しているトヨタ生産方式とは同社独自の生産管理システムをいう。簡単に言えば「客が注文したクルマをより早く届けるためにもっとも短い時間で良品のみを効率的に造る」こと。  ワクチン接種にたとえれば、「来場者(客)が負担なく、もっとも短い時間で接種ができ、会場から出ていける」ことだろう。  待ち時間が少なければ来場者はストレスを感じない。会場がスムーズに流れていれば密になる心配もない。短い期間に大勢に接種することができれば地域の集団免疫の獲得も促進される。医療従事者もひと息つくことができる。  トヨタが運営を担当した狙いはそこにあるのだろう。  結果として、一般の大規模会場では30分はかかる接種が4分(いずれも経過観察の15分を除く)に短縮できたのである。  では、他の会場のシステムとトヨタのそれはどこが違っているのか。 ■1.「ひと筆書き」の短いルート  堤トレックのアリーナは高校の体育館くらいの広さだ。大規模接種の会場ではあるけれど、大空間ではない。そのなかに接種ルートを設定している。トヨタの施設には堤トレックのアリーナよりも広いところがあるが、彼らは大空間ではなく、接種ルート自体を短くするために、適正な広さの会場を選んだ。  そして、会場内のレイアウトは「ひと筆書き」になっていた。入り口から入った来場者は後戻りしたり、同じルートをたどったりすることなく、一本のルートで出口まで行くことができる。ただし、ひと筆書きルートについていえば、おそらく日本中のどの大規模接種会場でも、同じようなレイアウトにしているだろう。常識的に考えて、後戻りさせるようなルートを設定する人間はいない。  トヨタのひと筆書きルートの特徴は短いことだ。全体をコンパクトにして、来場者が歩く距離を減らしている。だから、接種を短時間で終えることができる。 ■2.人の滞留を起こさないくふう  2番目の特徴は予診票確認、予診、接種などの各ブース前で滞留が起きないしくみを導入していること。  接種の前には袖をまくり上げて、注射する腕を露出させなければならない。自衛隊の会場では接種ブースの前に椅子を用意し、椅子に座ってから、「袖をまくってください」と指示していた。  一方、トヨタの会場ではブース前に椅子はあるものの、袖まくりは歩きながら行うように誘導される。思えば袖をまくるためにいちいち椅子に腰かけなくともいいのである。だが、そんな細かいところまで動作を研究して、カイゼンするのがトヨタ生産方式なのである。  そこでは袖まくりだけでなく、動作に対しての細かい誘導があった。

 医師との予診を終えたら、接種レーンに足を向ける。接種ブースに入るまでの9メートル間に次の4つの動作を行うよう誘導される。誘導は口頭ではない。イラスト入りの大きな表示だ。大きな紙の表示は至るところに設置されてあり、しかも、日本語、中国語、ポルトガル語、ベトナム語の多言語表示だ。  豊田市内には外国人も暮らしている。高齢者の次には一般接種が始まるから、それに備えて、当初から多言語表示にしたのだという。目先だけではなく、将来を見据えた準備だ。 ■動作にかかる時間を何度も計測して…  さて、話は戻る。  接種ブースに向かう9メートル間には4つの動作を行う。標準的には55秒かかる。  ①左右どちらの腕にするかの確認を行う(15秒) ②上着を脱ぐ(30秒) ③腕まくり(10秒) ④待機(0秒)  トヨタのスタッフは用意動作を4つに分け、ストップウォッチで計測してから標準計画を作った。計測は一度ではない。自分で何度も腕まくりをして、最適な腕まくり時間を設定したのである。  たとえ、本業でなくとも、彼らは徹底的にやる。そこまでやらなければ接種を4分で終わらせることはできない。  なお、2回目の予約だが、ファイザー製を使っているため、接種後にはきっちり3週間後の予約が完了する。 ■「会場の改善は仕事の一部にすぎないのです」  接種の支援プロジェクトにかかわっているトヨタ生産調査部主査、高橋智和は「会場のレイアウト改善と接種にかかわる動作の標準化と寄り添い(気配り、目配り、心配り)は私たちの仕事の一部にすぎないし、これは学びの場なのです」と言った。  「ワクチン接種では豊田市、医師会、ヤマトと協力して豊田市モデルを作ることにしました。当社は3つのチームで応援しています」  3つのチームとは接種チーム、輸送チーム、増産チームだ。  接種チームは会場内のルート設定、案内板の掲示といったものを担当する。レイアウトをカイゼンし、滞留の起こらないくふうをする。  輸送チームはヤマト運輸が手掛けるワクチンの輸送カイゼン。増産チームは超低温冷凍庫の生産支援だ。  「ふむ」  会場カイゼンは分かる。しかし、輸送、増産とは何か?   高橋は言った。  「ワクチンは冷凍で輸送、保存しなくてはなりません。ワクチンの品質を保証することと余りが出ないようにすることも、会場設営とともに重要なポイントなんです。ヤマト運輸さんの志、大小を問わない配布先にしっかり寄り添ったきめ細かな物流と品質管理はわれわれトヨタと全く同じ考え方であり、それを豊田市、医師会の皆さんからは初めから受け入れていただきました」  ワクチンの品質保証もまたトヨタ生産方式の考え方からきたものだ。同方式は異常が発生したら機械がただちに停止して、不良品を造らないという「自働化」と、各工程が必要なものだけを、流れるように停滞なく生産する考え方「ジャスト・イン・タイム」が2本柱とされる。

■ミスが起きるなら、冷凍庫を使わなければいい  ワクチンの品質保証とはしっかりと冷凍保存をすることであり、廃棄しなくてはならないような余分を出さないことで、こちらは「自働化」の考えから派生したものだろう。  各地で接種が始まって以来、ワクチンを無駄にする事故が起こっている。冷凍庫のコンセントが抜けていた、あるいはドアを開けたままにしていたら庫内の温度が上がってしまった……。いずれもうっかりミスである。だが、うっかりミスはいくら注意しても起こることがある。  トヨタのチームは、うっかりミスが起こらない方策をとった。  高橋は言う。  「ヤマト運輸さんとトヨタは、冷凍庫でワクチンを保存するのではなく保冷剤にしました。クーラーボックスに保冷材を入れて、そのなかにワクチンのバイアル(注射剤の入った容器)を保管し、必要な数量だけをセットにして、必要な時間に確実に配送することにしたのです。  保冷剤と言ってもスーパーでもらってくるやつではありません。今回使用しているのはマイナス120度の保冷材。静岡県沼津市のADD(エイディーディー)という会社から入手しています」  ワクチンはアメリカのファイザー社からドライアイスの入った保冷ボックスでやってくる。日本に着いたら、冷凍倉庫に保管された後、ヤマトの中部ゲートウェイセンター(豊田市)までドライアイスの保冷ボックスでやってくる。  そのままトヨタの会場まで運べばいいのに、とわたしが言ったら、高橋は首を振った。  「いえ、ヤマト運輸さんと私たちはドライアイスから脱却したかった。なぜならドライアイスは二酸化炭素そのものだし、1回しか使えません。脱炭素の時代にそぐわない。今回、私たちが使用している保冷材は50回近く循環して使えますし中身は塩水です。廃棄するにしても環境にダメージを与えることはありません」 ■マイナス120度冷凍庫の増産支援へ  冷凍庫を各会場に設けることはできる。しかし、うっかりミスをなくすことはできない。その点、保冷ボックスなら電源はいらない。また、クーラーボックスなら蓋が閉まっているかいないかは一目で分かる。  「ただし、問題がありました。保冷剤をマイナス120度にするには冷凍機がいります。ADDの製造工場にはマイナス120度にする冷凍機があるのですが、それを大量に入手するには増産しなくてはなりませんでした。当初、『1日1台しか作れない』と言われたので、それで増産チームを派遣して、1日に10台、生産できるようカイゼンしたのです」

 なお、会場でクーラーボックスに入れたワクチンは30時間くらいまではマイナス60度以下で保つことができる。会場に持ってきたワクチンが余ったとしても、もう一度、ヤマトや豊田市の倉庫へ戻せばいい。倉庫には超低温冷凍庫があるからそこで保管できる。  だが……。  会場で支援に当たる豊田市やトヨタの人たちはまだワクチンを打っていなかった。  余りが出たら、打つことができたのに。高橋にそう伝えたら「いや、僕らは順番が来るのを待ちます」とのこと。  やはり、生真面目な人たちなのである。 ■「ベター、ベター、ベター」にしていく  豊田市の大規模接種会場における接種時間が他よりも短いのは会場レイアウトだけではなく、ワクチンの保冷管理までさかのぼって計画したからだ。  これもまたトヨタ生産方式にある「真因の追求」だ。ミスや滞留を防ぐにはその場の処理で済ませてはいけない。ミスや滞留が起きないように真因を追求し、それを解決すること。  それにしても、彼らはいったい、いつからワクチン接種を準備していたのか?   高橋はこう言った。  「新型コロナに対する危機管理、医療機関などへの支援は昨年の3月から始めていました。当初はフェイスシールド、車両や病院内で使う感染防止のアクリルボードの製作、医療用防護服の製造支援、そして、消毒液を足で踏んで出す「しょうどく大使」の生産でした。そういった支援の後、昨年の終わりから、次はワクチンだなと研究を始めたのです」  スタートが早かったから、会場だけの準備ではなく、真因まで追求し、それに対しての備えを構築することができたのである。  わたしが見学に行ったのは初回の大規模接種が終わった後だった。高橋たちは2度目以降に備えて、受付のデスクを増やしたり、掲示物を増やしたりしてカイゼンを続けていた。  トヨタ生産方式はベストを追求する仕組みではない。ベター、ベター、ベターで効果を上げていこうとする。  そのため、初回は5分だった接種時間が、今や最短4分に短縮されたという。彼らはカイゼンをやめないのである。

———- 野地 秩嘉(のじ・つねよしノンフィクション作家 1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。著書は『トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力』(プレジデント社)、『高倉健インタヴューズ』『日本一のまかないレシピ』『キャンティ物語』『サービスの達人たち』『一流たちの修業時代』『ヨーロッパ美食旅行』『ヤンキー社長』など多数。『TOKYOオリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。noteで「トヨタ物語―ウーブンシティへの道」を連載中(2020年の11月連載分まで無料)

カテゴリー
マスク情報 対策

マスク、医療用と一般用にJIS基準…素材限定せず一定の性能で

https://news.yahoo.co.jp/articles/f4c63e409cb46e9905fd7b1f04323deee6d63a12

2021/6/16(水) 9:23配信 読売新聞オンライン

 政府は医療用と一般用のマスクについて、性能の目安となる日本産業規格(JIS)を制定する。新型コロナウイルスの感染拡大で需要が増えており、品質や性能に問題がある製品の流通を減らして利用者の安全確保に役立てる。 【図表】ワクチン副反応、2回目のほうが多い

 市販のマスクと医療機関や介護施設などで働く人が使う医療用マスクに、それぞれ性能基準を設ける。メーカーは、業界団体「日本衛生材料工業連合会」の認証を得た製品に専用のマークを表示できる。早ければ今夏に市場に出回る見通しだ。経済産業省

 いずれもウイルスやバクテリア、大気汚染物質をとらえる性能や通気性などに一定の基準を設け、これを上回る製品を認証する。素材は限定せず、布製やウレタン製も認める一方、一般用で洗濯による再利用を想定する場合、洗濯後に品質基準を満たすことを条件にする。

 これまで日本のマスクは、粉じんを想定した産業用を除いて規格が設けられていなかった。コロナ禍で需要が急増したマスクの生産に異業種の参入が相次ぎ、品質を管理する必要があると判断した。2020年度のマスクの国内出荷量は一般向けだけで100億枚を超え、前年度の約2倍に増えた。

カテゴリー
社会問題

コロナ感染死した大阪市消防局救急隊員の同僚が激白「過酷な勤務と“命の選別”に直面する辛さ」〈dot.〉

https://news.yahoo.co.jp/articles/8f073856d602d5a37b6702db98e03a280b78b57c

2021/6/15(火) 9:00 AERAdot.

大阪市消防局の救急搬送を担当していた50歳代の男性救急隊員が6月2日、新型コロナウイルスに感染して亡くなったことがわかった。男性は5月3日の勤務後にノドの痛みを訴えた。5日に症状が悪化し、抗原検査を受け、新型コロナウイルスの感染がわかった。男性は1回目のワクチン接種を終えていたが、2回目を受ける前に感染し、帰らぬ人となった。 【写真】「憎っくきコロナだよね」という言葉を残した女優も帰らぬ人に…

「職場の先輩が亡くなったと知り、残念で驚くばかりです。明日は我が身ですね」  こう話すのは、男性と同じ大阪市消防局で救急搬送を担当している30歳代のAさん。コロナウイルスの感染拡大で「第4波」に突入して以降、勤務は過酷になったという。 「大阪府で新規感染者数が1日あたり1000人を超え始めた4月初旬からは、ひっきりなしに出動の要請がありましたね。1日の死者数が20人とか重症者が増え始めると、さらに増えました。コロナ禍でなければ、1人を搬送してまた次となります。しかし、病床が逼迫しているので、受け入れ先を探すのにとても時間がかかる。コロナ前なら長くても20分くらいで病院が見つかった。しかし、コロナ禍となって、2、3時間かかることもありました。そう簡単に次の搬送にとりかかることができません」  救急隊員はコロナ禍となり、防護服などこれまで以上の重装備になったとAさんはいう。1人を搬送すると、救急車を消毒し、防護服などを着替え、また出動の準備をする。 「防護服を着ると、大量の汗をかきます。サウナの中にいるようで、暑くなって汗をかくというより、噴き出すという表現の方がいいかな。これまでの2倍から3倍くらい、体力を消耗しているように感じます」  5月になると、大阪府では死者が50人を超えるような日が続いた。救急搬送を必要とする患者はますます増えた。Aさんはこう危惧する。 「自分が経験した例で言えば、搬送先を探すのに5、6時間かかったことがありましたね。患者さんのご家族から『熱が39度近くで、3日以上続いている。なんとか助けてほしい』『病院の廊下、受付でもいいので入院させてくれないか』と涙を浮かべて、懇願されたこともありました。実際に患者さんもハアハアと苦しそうにされている。こっちも必死で探すのですが、ほとんどがダメ。電話すらつながらないこともよくありました」  受け入れ先が見つからない時は見つかるまで車内で患者に酸素吸入を続けるという。 「時間がかかるので、救急車に搭載している酸素が無くなり、新しいものを取りに戻ることも何度かありました。また、入院先が見つからない時に備え、救急車で酸素吸入を長時間、できるよう準備して出動することもありました。細心の注意と対策をしているのですが、コロナの患者さんと接する時間が一気に長くなり、どうしても感染の確率が増えているような気がします」  中には病院が見つからないことで、患者やその家族が国や大阪府のコロナ対応のまずさに対する怒りを救急隊員にぶちまけることもあった。返答に困ることもしばしばあったそうだ。そんな中、Aさんは実質的な「命の選別」を強いられている高齢者にかけられた言葉が今でも忘れられないという。 「酸素吸入した女性高齢者の受け入れ先を必死で探していた時です。『コロナの人がたくさんいる。私のようなおばあちゃんに構わず、若い人を助けてあげて』とおっしゃられました。2時間ほどで病院が見つかった時も『私は最後でいいから…。ベッドが足りないのでしょう』『こんなおばあちゃんにありがとうね』と息も絶え絶えで感謝の言葉を伝えられました。なんで、こんなにひどい状況になってしまったのか。これは人災ではないかと思うと怒りが込み上げました。救急医療のぜい弱さを思い知らされました」  大阪市消防局によれば、これまで職員がコロナに感染したのは100人を超えるという。大半が感染経路は不明。亡くなった男性も、同様だという。職員のワクチン接種状況は、5月31日段階で医療従事者に該当する3500人のうちで1回目を終了したのは2404人、2回目の終了は1271人だった。Aさんもすでにワクチン接種2回を終えているという。 「今回、お亡くなりになられた先輩は、1回目を受けていたにもかかわらず、感染した。すごくいい先輩だったと聞いています。自分は2回目を終えて正直、ホッしています。6月になり、状況は落ち着いてきましたが、インド株などの変異種はこれまでと感染力が違うという報道があります。これまで以上に気を引き締めたい」 (AERAdot.編集部 今西憲之

カテゴリー
社会問題

ワクチン否定派の声「打ちたくない人はいないはずという風潮が怖い」

https://news.yahoo.co.jp/articles/faf98b79c65060f4f65f864b1684026d9d365f88

2021/6/14 NEWSポストセブン

「誰かに(ワクチンを)回してあげたい」、「66年間、一回もないんですよ。ここでワクチンを打つと、体が変わってしまうのでぼくは打たないつもり」──。ようやく新型コロナウイルスワクチンの接種が始まったばかりの日本で、ワクチンをめぐる有名人のコメントが波紋を広げている。冒頭の発言は明石家さんま(65才)によるもの。自身がパーソナリティーを務めるラジオ番組での発言だった。 【別画像】コロナワクチン接種後に死亡が確認された事例

「新宿区では20~30代を優先的に開始」「職域接種は1000人以上の企業から」。ワクチンをめぐる状況は刻一刻と変化する。しかしそれは、あくまでも「打つ人」に限った話だ。この狂騒のなか、「打てない人」の声がかき消されている。大学病院に勤務する40代の看護師は、こう胸の内を明かす。 「個人の打つ・打たないの選択に批判が出るのはおかしいし、何より“打ちたくない人はいないはず”という風潮がつくられてしまうことが怖い。私が勤めている病院も同様で、接種時期や順番について説明があったときに、『副反応が怖いからという理由で、接種を拒否することは許されない』と遠回しに言われました。つまりこの病院にいる限り、選択肢は“打つ”一択ということ。  ですが死亡例があったり、将来的にどんな異変が起きるかわからないことを考えると、接種はもう少し後にしたかったし、何より“打たない”と言えない雰囲気に耐えられなかった。3月いっぱいで退職して、ワクチンが回ってくる順番の遅い別の病院に移ることを決めました」  また、別の病院に勤務する看護師は、悩んだ末に接種を受けることを決めた。 「病院から『ワクチンを打つか打たないかは個人の問題じゃない。人類を救うためだ』と言われました。確かに、集団免疫がつけば感染が早く収束することは明確です。とはいっても、私たち一人ひとりの意思は尊重してもらえないのかと、悲しい気持ちになったのも事実です。

 同僚の看護師の中には、『やっぱりどうしても副反応が気になるからワクチンは受けない』と言って、離職した人もいます。ただでさえ忙しいのに、人が減って大変です」  医師で医療経済ジャーナリストの森田洋之さんのもとにも、同様の相談が届いているという。 「ある20代の看護師は、ワクチンを打つか辞めるかの二択を迫られている状況でした。彼女は『将来どんな影響が出るかわからないから、もう少し打つのを待ちたい』と。彼女の不安はもっともですが、職場を失うリスクにさらされている。  上長からの指示に従わざるを得ない若い人からの相談が圧倒的に多いです。クラスターを出したくない管理職と、コロナに罹患しても重症化しづらいが、ワクチンの副反応は出やすい若手との間に溝が生まれているようにも思えます」(森田さん)  新潟大学名誉教授で医師の岡田正彦さんも、ワクチンには懐疑的だ。自身は打たない決断をし、辞職する覚悟で、職場に意思を伝えたと明かす。 「私の場合は運よく経営者に理解があって、意思を受け入れてもらえました。でも医療現場では、同じようにはいかずに退職せざるを得なかったスタッフも珍しくない。特に若い人は免疫が活発であるため、ワクチンを打つことで発熱などの強い副反応が起こりやすい。あまりのつらさに『もう二度と受けたくない』という声も耳にします」(岡田さん) ※女性セブン2021年6月24日号

カテゴリー
感染症 感染症ニュース

新型コロナが「ただの風邪」ではない理由 コロナ病棟医師の見解

https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20210613-00242752/

2021/6/13 倉原優 | 呼吸器内科医

新型コロナワクチンの接種がすすんでいます。当初接種スピードが遅いのでは・・・と懸念していましたが、どこの自治体も頑張っておられ、子どもや職域の接種まで開始されることになりました。

第4波も落ち着きつつあるためか、「新型コロナはただの風邪」「基礎疾患がない人は軽症で済むのだから騒ぎすぎ」という意見を再びよく耳にするようになりました。

若年者や基礎疾患がない患者さんの大部分が軽症で終わることは間違いありません。その人たちにとっては、結果的に「新型コロナはただの風邪だった」と言えます。

同様の感染性を持つインフルエンザでは、国をあげてこれほど議論されることはありません。そのため、「騒ぎすぎ」という意見が出てくることも、よく理解できます。

しかし、新型コロナはただの風邪ではありません。改めて、以下にその理由を述べます。

理由1:重症化率が違う

医療従事者として実感される差は、「重症度」です。肺炎を起こす頻度が高いのです。私は長らく市中病院で呼吸器内科医をやっていますが、インフルエンザ肺炎で入院する人は、年に数えるくらいしかいません。コロナ病棟を有しているとはいえ、1施設で1年間に400例以上のウイルス性肺炎を診るというのは、異常事態です。

「周りに感染している人なんて誰もいない」という意見もあります。2021年6月12日時点での累積感染者数は約77万人なので、確かにインフルエンザほどは身近に新型コロナ感染者を目にしないはずです。しかし、もしインフルエンザと変わらないくらいの重症度なら、入院が必要な人はもっと少なくなるはずです。

「新型コロナだから入院閾値を下げている」というのは正しくなく、パンデミック初期は確かにそのような対応をしていましたが、最近は必要なケースのみにしぼって入院を引き受けています。

そのため、肺炎を起こした新型コロナ患者さんが、これだけたくさん入院しているというのは、ウイルスそのものの毒性が強いからに他なりません。

入院を要した新型コロナ患者さん8万9,530人と、季節性インフルエンザ患者さん4万5,819人を比較したフランスの研究では、死亡率はそれぞれ16.9%、5.8%という結果でした(1)。同様に、入院を要した新型コロナ患者さん3,641人と、季節性インフルエンザ患者さん1万2,676人を比較したアメリカの研究では、死亡率はそれぞれ18.6%、5.3%でした()(2)。入院を要した患者さんだけをみているのでいずれも死亡率が高いですが、インフルエンザよりも新型コロナのほうが重症化しやすいことが分かります。

季節性インフルエンザと新型コロナの違い(文献2より引用)
季節性インフルエンザと新型コロナの違い(文献2より引用)

病院の医療従事者は、普段から入院が必要な患者さんばかりを診ているので、現場でインフルエンザとの違いを感じることができます。

しかし、それ以外はやはり軽症ですから、一般の人には「ただの風邪」としてうつってしまいます。たしかに「大部分は軽症」というのは決して間違いではないのですが、重症化リスクや死亡リスクが高いということがこれまでのウイルスとは違うところです。

理由2:集中治療用ベッドが逼迫する

「理由1:重症化率が違う」によって次に起こることは何でしょうか。そう、ケアを要する入院患者さんの数が増えるのです。入院しなくてもよい患者さんは、自宅やホテルで療養していただきますが、酸素飽和度が下がって酸素療法が必要になったり、食事が摂れなくなったりすると、入院が必要になります。

「日本にはたくさんベッドがあるんだから、それを新型コロナ用に転用すればよい」という意見もありますが、感染対策を講じながら診ていける急性期病床を無限に生み出せるほど、日本の診療体制は充足していません。

もし、「頑張って感染対策をしなくてもよい」とすると、諸外国のようにケタ違いの感染者を生み出すことになります。上述したようにインフルエンザよりも重症化率が高いため、これにより重症者の絶対数が増加します。

ここで、病床逼迫に陥った大阪府の第4波を見てみましょう。大阪府には、600床あまりの集中治療用ベッドがありますが、新型コロナに使えるのは多くても224床というのが当初の試算でした。待機手術などを遅らせて捻出しても、せいぜい350床くらいではないかと思います(その他は救急患者や手術患者に使用されるため)。

この状態で、2021年5月4日に449人の重症患者さんが発生していました。重症病床に転院できない人がたくさん発生し、の黄色の部分は軽症・中等症病床で診療せざるを得なかった重症患者さんをあらわしています。集中治療用ベッドの8割を一疾患が占めるというのは、通常の診療では考えられないことなのです。

大阪府の重症患者数(筆者作成)
大阪府の重症患者数(筆者作成)

通常診療で使用している集中治療用ベッドのほとんどをあっという間に埋めてしまう感染症は、どう考えても「ただの風邪」ではありません。

■参考記事:新型コロナの「重症化」とは? 人工呼吸器を装着したら、実際どうなるのか?(URL:https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20210504-00235518/

「稀な現象も起こってしまえば1分の1」

「どれだけ低い確率でも、副反応が起こってしまえば、その人にとっては1分の1になる」ことから、新型コロナワクチンに対して不安に思われる気持ちはよく分かります。

しかし、「新型コロナのほとんどが軽症で済む」という事実の裏に、「どれだけ低い確率でも、重症化してしまえばその人にとっては1分の1」という致死的な新型コロナ患者さんも存在します。

自分より年下の新型コロナの患者さんに人工呼吸器を装着しなければならなかったとき、これは他人事ではないなと痛感しました。

保険に加入している人が多いと思いますが、保険というのは、「事象が発生する確率は低いが、万が一発生してしまうと損失が大きいもの」に対してかけるという鉄則があります。ワクチンにもこういう保険的側面があって、「たぶん感染しても私は大丈夫だろうけど、万が一にそなえて打つ」という感覚を私は持っています。

そして、個人の加入する保険とは異なり、これが集団免疫という大きな盾になり、社会や国の利益につながります。

(参考)

(1) Piroth L, et al. Lancet Respir Med . 2021 Mar;9(3):251-259.

(2) Xie Y, et al. BMJ . 2020 Dec 15;371:m4677

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

カテゴリー
感染症 感染症ニュース 社会問題

蚊によってコロナは広がるのか?

https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20210605-00241501/

2021/6/5(土) 10:39 忽那賢志
感染症専門医

だんだんと暖かくなり、蚊が増えてくる季節になります。

蚊は日本脳炎やデング熱、マラリアなどを媒介することで感染症を広げる節足動物ですが、新型コロナウイルスを媒介することはあるのでしょうか?

蚊媒介感染症とは?

The World's Deadliest Animals(Gates Noteより)
The World’s Deadliest Animals(Gates Noteより)

こちらは各生物が1年間に人間を死に至らしめている数のランキングです。

日本で生活していると、蚊に刺されることで感染症を意識することはあまりないかもしれません。

しかし、世界では未だに蚊が媒介する感染症は脅威であり、人類を最も死に至らしめている生物は蚊であり、年間80万人が蚊が媒介する感染症で亡くなっているとされます。

日本で発生しうる主な蚊媒介感染症とその特徴(筆者作成)
日本で発生しうる主な蚊媒介感染症とその特徴(筆者作成)

日本国内で今も流行している唯一の蚊媒介感染症は日本脳炎です。

と言っても近年は報告者数は年間10例未満となっていますが、これはワクチン接種によるものであり、日本脳炎ウイルスを持った蚊は西日本を中心に今も分布しています。

デング熱は主に熱帯地域で流行している感染症であり、日本では輸入感染症として年間300例程度が診断されていますが、2019年は海外渡航者が激減したことから年間45例にとどまっています。

国内では流行していませんが、デングウイルスを媒介する蚊(ヒトスジシマカ)が国内に分布しているため、海外でデング熱に感染した人が日本に帰国し、国内で蚊に吸血をされると国内流行につながる可能性があります。

2014年には70年ぶりのデング熱の国内流行が代々木公園を中心に起こったことは記憶に新しいところですし、2019年にも沖縄と東京で国内感染例が報告されています。

デング熱のヒト→蚊→ヒトへの伝播(筆者作成)
デング熱のヒト→蚊→ヒトへの伝播(筆者作成)

マラリアも主に輸入感染症として国内では診断されています。

年間60例程度が報告されていますが、昨年は20例にとどまりました。

デング熱とは違って、マラリアを媒介する蚊が国内にはほとんど分布していないので、国内で流行することはないと考えられています(ただし三日熱マラリアを媒介するシナハマダラカは国内分布しています)。

新型コロナは蚊によって広がるのか?

このように、特定のウイルスや原虫などの微生物は蚊を介して広がっていきます。

では新型コロナウイルスも蚊で広がることがあるのでしょうか?

結論としては、その可能性は極めて低いと考えられています。

新型コロナが蚊媒介感染症として成立するためにはいくつかの条件があります。

1. ヒトが感染した際に新型コロナウイルスが血液中に検出される

2. 新型コロナウイルスが蚊の体内で増殖される

3. 蚊からヒトの血液に注入された新型コロナウイルスがヒトの体内で増殖される

まず1についてですが、蚊が吸血した際に、血液中にウイルスが存在しなければ蚊の体内に入ることができません。

ヒトが感染した際に新型コロナウイルスが血液中に検出されるかどうかですが、205人の新型コロナ患者から採取された307の血液検体から新型コロナウイルスが検出されたのは3検体(1%)のみだった、という報告があります。

また、軽症・中等症では血液中に新型コロナウイルスが検出されることは稀です。

2については、「蚊の体内で新型コロナウイルスは増殖しない」ということが複数の研究で確認されていることが挙げられます(12)。

蚊媒介感染症の条件として、蚊の体内で微生物が増幅されなければいけませんが、それはどうやら起こらないようです。

3の「ヒトの血液に注入された新型コロナウイルスがヒトの体内で増殖される」ですが、これは証明が難しいものの、例えば実験室で新型コロナウイルスを扱っていた方や病院内で新型コロナの検体を扱っていた方が針刺しをしてしまって新型コロナに感染した、というような事例があれば血液を介しての感染が起こり得るということになります。

しかし、現時点では針刺しで新型コロナ感染したという事例は報告されていません。

以上から、新型コロナが蚊を介して広がるということはほぼほぼないだろうと考えられます。

新型コロナの感染予防のためには、蚊の対策よりは、マスク着用、3密を避ける、こまめな手洗いを行うという基本的な感染対策を行うことが重要です。

ただし、蚊に刺されても新型コロナになることはないと思いますが、日本脳炎、デング熱など他の蚊媒介感染症には罹患する可能性があります。

ご自身の予防接種手帳に日本脳炎ワクチンの接種歴(通常4回)が記載されているかをご確認し、もしなければ接種を検討しましょう。

また日頃から虫除けなどを使って蚊に吸血されないようにしましょう。長袖長ズボンなどで肌の露出を出来るだけ避けるようにし、露出した部分には虫よけを塗布するようにしましょう。

虫除けはディートまたはイカリジンという成分を含むものが望ましいとされます。

カテゴリー
社会問題

「爆発的に襲来、医療の限界超えた」 大阪の看護師が見た第4波

https://news.yahoo.co.jp/articles/e63042d8218dba7d5530041256067ff9948fac91

2021/6/5(土) 18:07配信 毎日新聞

 新型コロナウイルスの第4波で、大阪は全国的に見ても最悪の感染状況となった。新規感染者数は徐々に減少しているが、英国株より感染力が強いとみられるインド株による感染も府内で確認され、予断を許さない状況だ。大阪市内のコロナ患者受け入れ病院で患者と向き合ってきた看護師に現場の状況を聞くと、「疲れ果ててとっくに限界を超えた。不十分な受け入れ態勢の中で多くの方が亡くなっていく状況を目の当たりにし、初めて看護師になった事を悔やんだ。府市は、ずれたコロナ対策とずさんな保健医療体制をしいた責任を免れない。コロナ対策を自治体に丸投げした政府も悪い」と吐露した。【田畠広景】 【次々に誕生する変異株】感染力、ワクチンの有効性は?  30代の女性看護師が働く病院には約20床のコロナ病床があり、女性は救急外来や発熱外来で働いてきた。「3月初めから静かに増え、4月上旬になると爆発的に襲来した感覚だった」。3月末には約15床が使われるようになり、4月中旬にほぼ全床が埋まった。4月末には、救急車の到着から1分も空かずに次の救急車が来る、ということも相次いだ。朝から日付が変わるまで対応したり、昼食を取る暇もなかったりすることが続き、1カ月で5キロ痩せた。  医療が窮状に陥る前に何があったのか。変異株の脅威は、現場では1月の時点で話題になっていた。2月には来院の可能性がある現実的な問題として考え始めていたが、府は3月7日までの予定で発令中だった緊急事態宣言の前倒し解除を政府に要請。2月末での解除が決定された。同時に府内の即応重症病床も215床から150床に縮小。医療現場から見ると、世間のコロナへの警戒感は薄く、行政の動きも鈍く思えた。  第4波では、中年男性が検査を待つ間に倒れる現場も見た。既存株ではあまりなかったが、30~50代でも急激に症状が悪化することがある。人工呼吸器は数に限りがあり、高齢患者への積極治療ができず、救急車で来院した数日後に納体袋で覆われ、ひつぎに納められて搬送されるのを、つらい気持ちで見送った。  ◇行政の対応に怒り  4月中旬には中等症までしか受け入れないはずの病院で、複数の重症患者が行き場をなくしていた。一方同じ頃、吉村洋文知事はまだ「マスク会食」を呼び掛けていた。保健所が逼迫(ひっぱく)する中、飲食店の「見回り隊」を発足させ、府市職員の会食調査をする対応にも、現場との意識のずれを感じた。「誰も責任を取らない状況で、行政は命や健康を軽視していないか」と怒りを覚えた。  女性は「経済を回すなら徹底したゼロコロナを目指すべきだ。変異株の感染力が高いと見込んだ時点で疫学調査を強化し、検査ももっと拡大しなければいけなかった」と指摘する。第4波は検査と隔離の能力を超える勢いで、感染者が1人出ると家族全体に広がるなど拡大が止まらなかった。大阪市保健所では、陽性者への疫学調査を始めるまでに1週間程度かかることも。入院できない在宅死も激増した。3回目の緊急事態宣言が出た4月25日以降、6月4日までの1カ月余りで、大阪では2万5161人が感染し、1051人が亡くなった。  「混乱の原因は、政治の誤った判断だと思う。知事は府民一人一人の命に向き合うべきだったし、対応を丸投げした医療現場でバタバタ重症化する患者を見に来るべきだった」と女性。「いつどこで感染症対応が滞り始めたのか、行政の失敗を検証してほしい。ワクチンの普及も重要だが、変異株の流入に対抗できるよう、保健所の人員を拡充し、検査や疫学調査の体制強化を」と訴える。  府対策本部会議の専門家の発言にも首をかしげる。「ある医師が第1~3波の経験を『成功体験』と話していたが、驚きしかない。死者を増やしてきたこれまでを成功と評価するなら、第4波を招いた責任は対策会議にもある」。国の対応も疑問だ。医療従事者はせき込んだ患者の飛沫(ひまつ)や嘔吐(おうと)物を浴びても検査してもらえないのに、「五輪では何回も関係者を検査すると聞いて、悔しさがある」と困惑する。  4月末、コロナ病床でまた一人の患者が亡くなった。するとその病床もすぐ次の患者で埋まり、挿管することになった。「患者に十分、向かい合えていないのではないか」――。やりきれない思いで、看護師になったことに後悔の念が浮かんだ。その日は大阪で44人の死亡が発表された日だった。しかし朝から続いた雨が上がると虹が見え、「頑張りや」と言われている気がした。高齢の親族が書いてくれた「コロナ頑張れ。腐るな」というメッセージにも励まされた。「一日も早い収束を願って頑張っていきたい」。過酷な現場に消えそうな気力を、ぎりぎりのところで奮い立たせている。

カテゴリー
社会問題

尾身氏「普通はない」発言、自民幹部反発「言葉過ぎる」

https://news.yahoo.co.jp/articles/6713595110e5220a51a380185dc2aa0dcb296033

2021/6/3(木) 20:26配信 朝日新聞DIGITAL

 東京五輪をめぐり、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長が3日に「パンデミックの所でやるのは普通ではない」と発言したことが、与野党に波紋を広げている。 【写真】「五輪まで60日を切り、幸運も尽きかけているように見えます」と語る教授  尾身氏は2日にも国会で、「普通は(五輪開催は)ない。このパンデミック(世界的大流行)で」と指摘。「そもそも五輪をこういう状況のなかで何のためにやるのか。それがないと、一般の人は協力しようと思わない」と注文をつけていた。  与党内には受け止めの温度差が見られる。公明党の北側一雄・中央幹事会会長は「ご指摘はその通り。菅首相は五輪の意義を国民に改めて説明していただきたい」と語った。一方、自民幹部は「ちょっと言葉が過ぎる。(尾身氏は)それ(開催)を決める立場にない」とし、「(首相は五輪を)やると言っている。それ以上でも以下でもない」と不快感をにじませた。  野党側は尾身氏の発言を評価。共産党の志位和夫委員長は「大変重要な発言だ。目をつぶったまま国民を崖から突き落とすようなやり方は容認できない」と政府を批判する。国民民主党の玉木雄一郎代表も「感染拡大の可能性が高いなかで(五輪を)開くことは考えられないのは当然だ」と述べた。(鬼原民幸)

カテゴリー
対策 社会問題

【独自】感染症即応へ医療体制見直し…骨太の方針原案判明

https://news.yahoo.co.jp/articles/fda40bd3ce877f9618d1861868de58d7234987fb

2021/6/4(金) 5:01配信 読売新聞

 政府が今月中旬にも閣議決定する「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」の原案が判明した。新型コロナウイルスの感染拡大で病床の逼迫(ひっぱく)などが課題になった医療提供体制の見直しや、米中対立で重要性が増している経済安全保障の強化が柱となる。 【写真】ワクチン希望率、説明の仕方でこんなに変わる首相官邸

 原案では、今後の感染症対策について「緊急時対応は、より強力な体制と司令塔の下で」進めると強調した。

 今後、感染症が短期間で急拡大する場合には「昨冬の2倍程度を想定した患者数に対応できる体制に緊急的に切り替える」とした。受け入れ可能な病床を増やすため、「国公立、民間病院がともに病床を活用できる仕組みや都道府県を超えて患者を調整する仕組み」を整えることを盛り込んだ。患者を受け入れる医療機関向けに、減収を穴埋めする制度も示した。患者の受け入れで一般外来の診察が制限され収入が減ることへの不安を和らげる。

 また、ワクチンの承認手続きに時間がかかったことを踏まえ、「緊急時の薬事承認のあり方について検討する」と明記した。対応が後手に回らないよう、緊急時の対応を見直す方針だ。

 経済安全保障分野では、中国を念頭に、先端技術などの流出防止策を打ち出した。日本企業に対する買収や出資への警戒を強めるため、外国為替及び外国貿易法(外為法)による「投資審査・事後モニタリング(監視)」の体制を強化する。

 留学生や研究者の受け入れ審査を厳格化し、国内での留学生らへの技術提供について、2022年度までに外為法上の管理を強化する方針を明記した。研究者に対し研究資金の申請時に外国の資金を受け入れているかといった情報の開示を求めたり、安全保障に関わる特許出願の内容を非公開にしたりする制度の導入を進める考えも掲げた。

 また、半導体など重要な技術の開発や生産能力を国内産業が維持できるよう支援するため、「中長期的な資金拠出等を確保する枠組み」を早期に作ることを目指すとした。

 国際秩序の変化やデジタル化、脱炭素化の進展に対応する経済・社会構造を作るため、経済財政諮問会議に専門調査会を設置し、「21世紀半ば頃を見据えて、将来のあるべき経済社会に向けた構造改革・対外経済関係の基本的考え方をとりまとめる」ことも掲げた。

骨太の方針のポイント

 【感染症の克服】

 ▽緊急時対応は強力な司令塔の下で推進。昨冬の2倍程度を想定した患者数に対応できる体制に

 ▽感染症患者を受け入れる医療機関に対し、診療報酬で減収分を補充

 ▽国公立、民間病院ともに病床を活用できる仕組みや都道府県を超えて患者を調整する体制をつくる

 【経済安保】

 ▽投資審査、事後モニタリングの体制を強化

 ▽日本国内で武器などに転用できる技術を外国人に提供する外為法上の「みなし輸出」の管理を2022年度までに強化する

 ▽留学生、研究者などの受け入れ審査を厳格化