カテゴリー
コロナ 社会問題

医師免許持っていたら専門家、日本のコロナ対策がダメな理由

https://news.yahoo.co.jp/articles/70b9044dbf03239b6d438eb84a8e66d1c4741708

2021/8/20(金) 6:01 JBpress

 8月12日、ちょっと目を疑う見出しが視界に飛び込んできました。  東京都の感染拡大「制御不能」な状況に  (https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210812/k10013196681000.html)  こう「専門家」が言っているというのです。  反射的に思ったのは「感染拡大を制御してこその専門家」だということ。制御できないなら、ただの素人のおじさんおばさんの集団でしょう。  早速「モニタリング会議」(https://www.youtube.com/watch? v=aq2rJlsu4ik)実物を確認して、非常に残念な納得がいってしまいました。  会議に出てきた「専門家」は、まず間違いなく、自分自身で取りまとめたのではない、スタッフが上げてきたパワーポイントとシナリオを読み上げる役で、その場で実質的な議論などなされることはありませんでした。  さらに、居並ぶ人々がどのような「専門家」であるか、検索して、もう一つ納得がいきました。  全員「医師」であること。またほぼ全員が「臨床医」(かそのOB)であること。  つまり、現役の基礎医学研究者や、一線の公衆衛生医、医師ではなく、都市防疫の観点からパンデミック収束を図るウイルス学の専門家などは一人もいないように見受けました。  東京都で拡大の一途をたどる感染を収束させるシビル・エンジニアリング、都市衛生の「専門家」が見当たらない。  「院内感染」などの専門である可能性はあると思いますが、そういう人たちが、複雑多岐にわたる一千万大都市で市中感染する新型コロナの拡大に「制御不能」と言っている。  つまり「制御可能な専門」ではない、別の専門家たちを専ら並べて、そこで「制御不能」と言わせている。

 中には精神科医も混ざっていました。確かに、こういう状況のなか、都民の心の健康はとても大事です。  でも、差し当たっての大問題は、どうやって感染を拡大させず、縮小させるかであって、それに積極的に役立つ専門の環境ウイルス学者などがおらず、「打つ手なし」と白旗で両手を上げてしまうのであれば、それはちょっと違うのではないか?   しばらく前に、Yahoo! で、私の連載は「専門家」のものではないので取り上げないという回があったようです。  ところが、プロフィールに東大の職位を載せると態度が変わるような薄っぺらい「専門」判断で、いったい何を峻別しているつもりなのでしょう?   都の専門家によるウイルスへの「全面降伏」さらには「これからは自分の身は自分で守る、感染予防のための行動が必要な段階」という、ある意味当たり前でもあり、また行政がこれを言うというのは、下手すると責任の全面放棄とも取られかねない、どうしようもない「モニタリング会議」になり果てていました。  いったいこれは何事か。首をかしげざるを得ません。 ■ シビル・エンジニアリング不在の都市防疫  それにしても、東京都の感染拡大は、本当に制御不能なのでしょうか?   そんなことはありません。院内感染の手法では、打つ手はないと思われるかもしれませんが、例えば2011年、新型インフルエンザの流行に対して、国土交通政策研究所がとりまとめた「通勤時の新型インフルエンザ対策に関する調査研究(首都圏)」(https://www.mlit.go.jp/pri/houkoku/gaiyou/pdf/kkk100.pdf)という研究調査報告書があります。  ここに示されたような方針を2021年の新型コロナウイルス対策に適用して、都営地下鉄や都バスなどに徹底的な「減便ダイヤ」が敷かれたりしているでしょうか?   あるいは、JRや私鉄各社に、徹底した間引き運転による人流削減の措置が講じられているか?   電車やバスだけではありません。自動車交通などについても、首都高の入り口閉鎖や料金設定など、人流を減らす「方法」は、山のように存在します。  これらを仮に、架空のシミュレーションで検討して、対策を講じるのであっても、まだ何もしないよりはマシでしょう。  ただ、飲食店の営業は8時までとか、酒類の提供は・・・といった、その効用に何の科学的根拠もない「時短」と同様、ザルの政策で伝染病を抑え込むことは困難でしょう。  病原体の方が、はるかに狡猾、かつ巧妙です。

 彼らのウラをかく、有効でサイエンスに裏付けられた、時々刻々変化する感染状況を反映する「実測値」に基づいた対策、例えば「人流制御」であり、「変異株対策」であり、さらには患者の絶対数増加によって引き起こされている「在宅加療」に即した諸政策であり・・・といったものが、十分に採られているだろうか。  およそ、採られていない。  打つ手はまだ、いくらでもあるのに、それに手が全くついていない。それが、日本社会がコロナに打ち勝つことができない大きな要因ではないかと指摘する専門家が何人もおられます。  日本のコロナは「専門家」のタコツボ縦割りで、身動きが取れないまま、状況が日々悪化していく。  イスラエルや英米のような、科学的に整合した全体像を持つコロナ対策など、この国には「夢のまた夢」に留まるのでしょうか?  ■ 新型コロナウイルス感染症の知識構造化  ここでよく挙げられる例えを引き合いに出しましょう。50年前なら、テレビが故障したというとき、街の電気屋さんが外装のカバーを外して、中の素子を取り換えて修理できました。  そう言って分かるのは中高年以上だけでしょう。いま「テレビ」が壊れたら一番早いのは「捨てて次を買う」という解決法でしょう。  次善の策として「いくつかの基板を取り換える」のがあるかもしれません。  いまやテレビを一人ですべて理解し、部品レベルから直せるという「電気屋さん」も「エンジニア」も存在しない。  それくらい、個別「モジュール」は深化・進化を遂げていて、すでに一人の「専門家」がカバーできる状態ではないわけです。  幾度も強調している基本ですが「新型コロナウイルス感染症」の専門家などというものが存在すると思っているまともな大学研究者はいません。

 医学だけで考えても、実験動物を相手に地味な仕事を積み上げる「基礎研究医」、病院で患者の命を預かる「臨床治療医」と、保健所や厚生労働省で公衆衛生行政に責任を持つ「保健衛生医」は全く別の仕事で、各々広大な領域があり、そもそも言葉からして違っています。  例えば、治療薬を服用して本来狙ったのと違う効果が出れば「副作用」ですが、ワクチンの場合は歴史的な経緯で「副反応」と呼ばれます。  この頃はトンデモ用語も飛び交っているようで「コロナの副作用」なる日本語を目にして仰天しました。 ■ 世間には「トンデモ医」発信の情報も  いつから「コロナ」は治療薬になったのか?   素人相手に何でも売れそうな意匠を並べて銭金を抜こうとする、卑しい了見は単にいじましいだけでなく、デマをまき散らすという観点からは純然と有害無益です。  そんなトンデモ医的なものは論外としても、基礎と臨床、保健行政との間にはおよそ埋めがたい溝があります。  また、すべての基礎医学者がコロナ生命科学の最も精緻な分子、原子レベルのメカニズムを理解しているかと問われれば、もちろんそんなことはありません。  日本のノーベル医学生理学賞を見ても、利根川進さんは理学部化学科卒でノンMD、つまりお医者さんではありません。  コロナ防疫の支柱というべきmRNAワクチンを実用化し、2021年度ノーベル医学生理学賞の本命と噂される、ビオンテック社の副社長、カタリン・カリコ博士もお医者さんではない。  分子生物学者は必ずしも医師ではないし、すべての医師が新型コロナの最前線研究を分子や原子、電子のレベルから理解しているわけでは全くない。  日本のメディアは、下手すると医者ではないという理由だけでカリコ博士を「専門家ではない」と区分する程度の水準にあります。

 また医師であるというだけで専門家認定された、おかしな芸風の人が、「コロナワクチン」で副作用が出る人と出ない人が分かるような売り方をしてみたりもする。  中心から周縁まで、相当ネジが緩んでいることを懸念しなければならなさそうです。  (言うまでもありませんが、特定のアレルギーなど例外を除いて、新型コロナ・ワクチンを接種した際、どの人にどのような副反応が出るかなど、科学的に予測などは一般にできません)  政策の中核に近い場所にいても、感染拡大に制御方法がなければ、その分野に関しては専門家ではなく単なる無策徒手の素人と変わりがない。  また医師免許を持ちながら、怪しげな商法で営利する者があれば、人道に悖る所業と言わねばならないでしょう。  日本はこうした「専門性」という建前で、相当国力を削がれている懸念が拭えません。  科学的に筋道の通った感染症対策のためには、「コロナ行革」でこうした空文化した状況を一新する必要があるように思われます。

伊東 乾

カテゴリー
コロナ 社会問題

コロナ収束の基準を決められない日本社会の「医原病」的症状

https://news.yahoo.co.jp/articles/1a91cddd7b2150ae4ee35cd082413c5181437870

2021/8/20(金) 6:01 DIAMOND ONLINE

● 緊急事態宣言さらに延長 日本社会は「医療化」  新型コロナウイルスの感染者数が連日のように過去最多を更新する中、政府は17日、東京都など6都府県の緊急事態宣言の延長と新たに7府県の対象追加を決めた。  その一方で、新型コロナを、感染法上の「第二類(結核やSARS等)相当」、部分的には「第一類(ペストやエボラ出血熱等)」並みの厳格な扱いをしていたこれまでの運用を改めて、季節インフルエンザ並みの「第五類相当」に変更することを厚生労働省が検討し始めたことも報道されている。  このことは1年以上前からさまざまな識者が提案していたことだが、これまで政府では積極的に議論されてこなかった。どうして今になって検討を始めたのか。  緊急事態宣言があてどもなく繰り返される要因として日本社会の「医療化」という問題に突き当たる。 ● インフルエンザと同じ「五類相当」に 変更しようという議論の意味  政府が感染症法上の扱いの変更を検討していることには、短期的な意味と、中長期的な意味がある。  短期的な意味というのは、陽性判明者がこれまでにないペースで増え、もはや「二類相当」の扱いを続けることが、医療や保険行政の面で人員的にも予算的にも限界に来ているということだ。

 これは、今月初旬にその解釈をめぐって物議を醸した、重症者や危険性が高いと判定された人以外は、原則自宅療養にするという政府方針の延長線上にある考え方だ。  ワクチン接種が進み、特に医療従事者の接種がほぼ完了しているのと、ウイルスがすでに日本中にかなり蔓延し、無症状者の隔離にあまり意味がなくなったと推測されることから、限界状態にある医療資源を集中しようというわけだ。  この考え方には一定の合理性があると思われるが、こうした当面の事態を回避するような対応には、「無策の果てに国民を見捨てるのか」といった批判が強まるのは必至だ。  オリンピック・パラリンピックのために準備した施設を中軽症の患者の収容施設として使えばいいといった声も上がっている。  中長期的な意味というのは、コロナの感染や被害が一定の範囲に収まったら「収束」とみなし、特別な扱いをせず、季節性インフルエンザと同等の扱いにしようということだ。  もともと、何をもって「収束」とするかをはっきりさせておけば、休業や営業自粛要請、ワクチン接種で国民の協力も得やすくなると考えられる。  しかし政府はこれまで具体的な数値でゴールを示そうとしてこなかった。数値を出してしまうと、「経済を回すために○○人以下だと見殺しにするのか」という批判が起こる可能性があるので、それを怖れたのだろう。 ● もともと国家の政策は 功利主義的性格を帯びる  現代の政治家は、少数の人を見殺しにすると言われるのを強く怖れる。  「最大多数の最大幸福」という考え方で知られる功利主義は、多数の人の幸福のために少数派を犠牲にすることを含意しているようにも受け取られる。だから、政治家や官僚、知識人の多くは世間から功利主義者と思われることを嫌う。  「○○人の□□という大きな利益のために△△人に犠牲になってもらう方が合理的だ」と取れるような発言をしたら、徹底的にバッシングを受け、キャリアが台無しになってしまうと思うからだろう。  しかし、ダムや堤防、廃棄物処理場などの建設にしろ、道路の拡張工事にしろ、都市の区画整備にしろ、公共事業は何らかの形で多数の住民のために少数の住民に犠牲を強いる行為だ。生活・経済環境の変化で職を失ったり、中には追いつめられ命を失ったりする人もいるかもしれない。

 医療資源の再分配政策として、都道府県ごとの病院や医師の配置を替えたり、ある病気についての診療・研究を縮小し、別の病気の対策にその分を再投資したりすることも、そうである。  ある人たちの命が助かる確率が上がる一方、別の人たちのそれは下がる。国家の政策は、科学研究の成果を踏まえて費用対効果を上げようとすればするほど、功利主義的性格を強く帯びることになる。 ● 新型コロナに対する 国民の“特別”のデフォルト  だがコロナ禍以前から、緊急搬送先が見つからず亡くなる人や、近くに専門的な病院がないためがんなどの発見が遅れて亡くなる人はいた。旧型コロナウイルスやインフルエンザで亡くなる人の中にも、早く治療を受けていれば助かったはずの人もいたかもしれない。  しかしそうした問題について、マスコミはそれほど取り上げず、SNSなどでも話題にならなかった。  どうやってインフルエンザや風疹の陽性判定をすべきか、誰が重症化しやすいか、どこで療養すべきかを、本気で気にする人はあまりいなかった。  いわば医療体制が不完全なために亡くなる人がいることは、多くの国民にとって「デフォルト(定番、普通のこと)」になっているといってもいいのではないか。  仮に当該の病気の治療のための予算を大幅に増やしても、別のところにしわ寄せが行くので、あまり深掘りしたくないのかもしれない。  新型コロナの場合は、初期の段階で、「『外』からやってきた未知の病原体であり、国民の生命にとって脅威であり、徹底的に封じ込めねばならない」というのがむしろデフォルトになってしまい、従来の疾病とは次元が異なる、国民の強い関心の対象になった。  だから、他の感染症への従来の対応と具体的に比されることもなく、(たとえ無症状の人が多く含まれていても)陽性判明者の数が増えることにパニック的な反応が起きるのだろう。  「五類相当」の対応にしたら、どうなるのか検討することさえ拒絶反応を起こす人が多い。  感染症で発症するとどうなるのか、何人くらいに感染させる可能性があるのか、致死率はどれくらいか、入院できるのか、といったことに国民が関心を持つのは悪いことではない。  しかし、あらゆる病気に、今の新型コロナと同じ程度の関心を持ち、心配し続けたら日常生活は送れないし、どれだけ医師や看護師、保健所職員がいても足りず、未来永劫“医療崩壊状態”が続くことにならざるを得ない。

 こうした新型コロナへの“特別な反応”は、行動経済学で言うところの、フレーミング効果が働いている、つまり同じものでも情報のどこに焦点や関心が当てられるかで認識が違うということなのかもしれない。 ● 日本人の医療的な管理政策を 受け入れやすいメンタリティー  だが私は、より深い問題として、日本人の多くが、自分のたちの日常生活に医療・生命科学が入り込み、「健康」について専門家の言うことを過剰に意識し、(マイナンバーカードや機密情報保護法等には徹底的に反対する人でも)医療的な管理政策を受け入れやすいメンタリティーになっている、ことがあるのではと思う。  社会学者のイヴァン・イリイチは『医療の限界』(邦訳タイトル『脱病院化社会』、1975年)で、「健康」に関係するあらゆる問題が、医療専門家によってコントロールされるようになった結果(医療化)、さまざまな新たな“病気”が生み出され、人々は常に何らかの健康不安を抱え、医療的な措置を必要とする状態に置かれていることを、「医原病 iatrogenesis」と呼んで問題視している。  例えば、受動喫煙を防止するための禁煙やメタボ判定のための職場での定期健康診断の義務化はデフォルトになった。健康診断を受けないと、大学への入学や就職ができないというのも、医療化の帰結である。  コロナでも、政府がワクチン接種は義務でないと強調しているにもかかわらず、多くの大学が、学生や教職員が新型コロナワクチンを接種している。表向きは対面授業を行うためとしているが、これも医療化の帰結であろう。  これによって、新たな「医原病」が生み出されるかもしれない。 ● 自宅療養のコロナ感染者が 亡くなることへの批判の正体は?  医原病には、(1)臨床的医原病、(2)社会的医原病、(3)文化的医原病の3つの種類がある。  臨床的医原病とは、治療する必要がない、あるいはその療法では効果がないと分かっているにもかかわらず、医師の判断で過剰な投薬や不要な手術を行い、かえって深刻な病気を引き起こしてしまうような事態だ。  子宮頸がんワクチンの予防接種の深刻な副反応によって障害を負ってしまうことなどはその最たる例だが、新型コロナワクチンについても、すでに同様のことが議論になっている。

 社会的医原病というのは、血圧測定や心電図の測定などを含む各種の定期健診、人間ドック、寝たきりになりがちの老人に対するシームレスなサービス、カウンセリングなど、生活全般が「医療化」され、全ての人が潜在的な患者として扱われるようになっていることだ。  医師が健康のさまざまな側面をチェックする機会が増え、その際のアドバイスに逆らうことが、心理的、制度的に難しくなり、例えば、病院以外で亡くなるのは、医療制度上、異常なこととして扱われる。  コロナで自宅療養中の感染者が自宅で亡くなるのが異常事態として注目を集めるのは、医療崩壊の深刻さを示すだけではなく、そうしたメンタリティーが一般人にとっても常識になっているからかもしれない。  そして文化的医原病というのは、人が病やけがで苦しみに耐えながら生きることや、一緒に住んでいる家族の中に死に近づいている人がいることには、いかなる積極的な意義も見いださず、痛みや死を日常生活から隔離しようとする価値観が浸透し、心理的な対応を含めて医者の手を借りざるを得なくなっているということだ。  その結果、慢性的な「痛み」があれば、たとえ命に関わるほどのものではなく、我慢すれば何とか仕事や日常の用事をこなせても、「治療」を受けるし、不安があれば検診を受ける。  死に近づいている人がいれば、入院して緩和ケアを受けさせ、苦しみや不安を感じている状態を他人に見せず、本人にもなるべく意識させないようにするということになる。  いわば、「死」それ自体が非日常化し、伝統的な社会において人々が死を迎えるために行っていた儀礼や身振りは失われていく。  病や死に対する伝統的な向き合い方が失われてしまったことを嘆いても仕方ない。イリイチもそこには必ずしもこだわっていない。  問題なのは、自分は今現在「健康」なのか、この程度の痛みや不安であれば、耐えていけるので、(医者の助言に逆らったとしても)自分でどうにかしよう、それで取り返しのつかないことになったとしても自分の責任だ、などと考える自己決定能力が育っていない、むしろ欠如しつつあることだ。 ● 弱まる社会の自己決定能力 政治指導者は責任を自覚すべき  現代的な医療では、患者が自己決定するための条件としてインフォームド・コンセント(IC)が重要だと言われ続け、重要な疾患に対する手術など具体的治療の決定に際しては、今では細かくICを行うことが通常になっている。  しかし最も肝心の「私は『健康』かどうか」、「健康維持のためにどの程度の予防をすべきか」といった自己決定がないがしろにされ、専門家に任せるべき、という風潮が社会全体で強まっている。

 そのためいつのまにか「日常の医療化」が進み、日本社会に「医原病」的症状が蔓延しているように思う。  欧米では、ワクチン接種が進んでいるとはいえ、日本とはケタ違いにコロナ感染者がいる状況で、マスクなしの日常に戻っている国もいる。「緊急事態宣言慣れ」が言われる中でも、緊急事態宣言があてどもなく延長され、そのたびに首相が“専門家任せ”の他人事のような発言を繰り返すのを聞くにつけても、そう思わざるを得ない。  私は別に、新型コロナはたいしたことはないので、すぐに「五類相当」にすべきと言いたいのではない。一般の病院でも治療できるよう徐々に措置を緩めていけばいいと思う。  ただ、どれくらいのリスクや社会の痛みであれば許容すべきか決めるのは、感染症の専門家でも公衆衛生の専門家でもない。彼らは、決定する権限を持った人たちが正確なデータに基づいて判断できるよう情報提供するだけだ。  政権を担う政治家たちは、たとえ非人間的な功利主義者とののしられても、自分たちが収束の基準を決めねばならないことを自覚すべきだ。

(金沢大教授 仲正昌樹)

カテゴリー
コロナ 社会問題

「自宅放置死」が急増中…コロナ患者を救うため、国・自治体・病院にまだできる「これだけのこと」

https://news.yahoo.co.jp/articles/96eb4c2b15b4c73e0f44f70936205666bab4d828

2021/8/20(金) 8:01 現代ビジネス

「自宅放置」で亡くなってしまう

〔PHOTO〕Gettyimages

 8月18日、東京都の小池百合子知事は、新型コロナウイルスに感染して自宅で療養中だった夫婦と子どもの家族3人のうち、糖尿病の基礎疾患がある40代の母親が12日に亡くなったことを明らかにした。 【写真】 新型コロナ、日本の満員電車で「クラスター」が起きない「意外なワケ」  母親はワクチンを接種しておらず、咳や発熱の症状から10日に陽性と判明。11日に保健所が健康観察を行ったが、都の入院調整本部に入院の調整依頼はなかったという。母親のPCR検体を取って陽性と伝えた医師、保健所とも軽症とみて自宅療養と判断したようだ。糖尿病は「重症化リスク」といわれるが……。  12日に自宅で倒れているのを夫が見つけ、死亡が確認された。事実上、療養はされておらず、「自宅放置」による悲劇であった。  小池知事は、記者団の取材に対し、「いま、家庭内感染が多いという状況にあって、コロナは急激に悪化する例がある」「酸素ステーションを3か所、まずは準備をして、そういったおそれのある人が入院するまでの間の環境を整えるということで至急、進めていく」と言った。酸素ステーションは、救急搬送できない患者を一時的に収容し、酸素投与や健康観察を行う応急救護所のような施設だ。無いよりはいいが、焼け石に水であろう。  すでに東京都では、数名の基礎疾患のない30代の男性が、それぞれコロナに感染し、自宅で死亡している。なかには初回のワクチン接種から8日後に亡くなったケースもある。軽症から中等症、重症と悪化しているのに医療にたどり着けず、死亡する。この医療崩壊を食い止めるには至急、何をしなくてはいけないのか。医療の最前線では、症状を悪化させないためにどのような治療が求められるのか。  名古屋大学医学部附属病院(1080床)の救急・内科系集中治療部医局長、山本尚範氏にインタビューをした。名大病院では、昨春から約100人以上のコロナの重症患者を受け入れてきた。山本氏は、コロナ急性期の病態の変化や治療、医療体制に詳しい。

無症状・軽症でも50人に一人は中等症になる

 ――在宅で手遅れのまま亡くなる方が出てきました。いま、必要な治療の全体像を、どうとらえていますか。  「5万人ぐらいの感染者のデータ分析をしてわかったことがあります。 いま、治療の焦点となっている 若い世代に関していうと、 PCR検査で陽性が判明した時点で、既に中等症になっている人が、20代で2.01%、30代で4.01%、40代で7.1%、50代で10.3%です。これらの方々が、すぐに入院できず、自宅にいたら重症化のリスクが高まります。  また、40~50代の無症状および軽症の方が、中等症以上(重症含む)に進行する割合は約2%。20~30代はもっと低い。ざっくり50人に1人は中等症になるという構えで診る必要がある。  仮に重症になっても50代以下なら時機を逸さず集中治療(ICUでの人工呼吸器管理など)すればほぼ救命できます。しかし、中等症が重症に急変しているのに集中治療が遅れたら致命率は上がります。まずは、重症化させないこと。  中等症Ⅰ(息切れ・肺炎所見・酸素飽和度94~95%)にはレムデシビルと抗体カクテル療法のロナプリーブ、中等症Ⅱ(呼吸不全・酸素投与必要 酸素飽和度93%以下)には酸素療法とレムデシビル、ステロイド剤のデキサメタゾンの処方を徹底すれば、重症化はかなり防げます。  ただし、ロナプリープはいい薬だけど、添付文書にあるように500人に1人はインフュージョン・リアクション(輸注反応)というアナフィラキシー・ショックに似た過敏反応が起きる。場合によっては、躊躇せず、アドレナリンの筋肉注射をしなくてはならない。判断が重要です。このようなバックアップ体制の面からも入院での注射か救急搬送がすぐに出来ることが条件です」  ――医療提供体制について、お聞きします。東京都は、さかんに酸素ステーションの設置をアピールしていますが、思わず、「この状況でそれですか」と言いたくなります。いま、どんな施設が必要だとお考えですか。  「広い地域に点在している自宅療養の方を、診療所の先生が診て回るのは難しい。効率も悪い。1日に10人診るのも大変ですよ。重要なのは、大勢の軽症・無症状の人のなかから中等症以上に進行する人を早く見つけ、しっかり対応すること。  そのためにコロナの急性期を診ている病院が、基礎疾患があり、発熱が3日以上続くハイリスクの軽症者や中等症Ⅰの方が入るホテルの宿泊療養を管理・運用すればいい。少ない医療者で大勢の患者さんをケアできます。もう実践しているところがあります」  ――静岡県掛川市の東横イン掛川駅新幹線南口のホテル療養がそうですね。静岡県が99室を賃借して、近くの中東遠医療総合センター(500床)から看護師が派遣され、入っている方々のお世話をしている。1日に2~3回、電話やアプリで感染者の健康観察をし、症状が不安定な人については、看護師さんが防護服を着て対面でケアをしているとか。  「そうなんです。やはり看護師が直接、対応すると患者さんは安心しますね。もしも症状悪化の兆候がみられたり、急変したりすれば、看護師から中東遠医療センターの医師に連絡が入り、オンライン診療につなげる。いま、なぜホテル療養がいいかというと、50代以下の感染者が圧倒的に多く、みなさんオンラインでやりとりできる。  過去の第1~4波では高齢者が多くて難しい面もあったけど、若い人が増えてやりやすくなった。コロナの急性期を診ている医師、看護師がかかわれば、ホテルでの中等症Ⅰの治療は可能でしょう。抗体カクテル療法も視野に入りますね。中等症の増加が著しければ、臨時コロナ病院が必要でしょう」

マンパワーをどうするか

 ――臨時コロナ病院は、神奈川県が藤沢市の湘南ヘルスイノベーションパークで展開しているコロナ仮設病棟(180床)がいい見本ですね。病棟はプレハブ1階建ての5棟で、中等症の患者さんを収容しています。個室も19室あって、重い精神疾患があるコロナ患者の方も受け入れている。  あそこは、徳洲会の湘南鎌倉総合病院ががんばって運用していますが、問題はマンパワー。既存の施設を使って臨時コロナ病院をつくるにしても、医療スタッフをどう集めますか。  「現在、大災害並みの感染爆発が起きていて、一刻も早く対応しなければならないのなら、病院の負担を減らし、その分のマンパワーを臨時コロナ病院や、ホテル宿泊療養に振り向けてはどうでしょう。主体は、コロナの患者さんを診てきた大学病院や、市中の基幹病院のスタッフだと思う。  ご存じのようにコロナの症状は急変します。大事なのは『変化』『悪化の兆し』を見逃さないこと。高熱が続いたらおかしい。頻呼吸も要注意。脱水症も急性腎不全の恐れがある。呼吸苦の自覚症状がない感染者は多いので聞き取りだけではわからない。酸素飽和度は一時的な数値だけでなく、移り変わりを注視しなくてはいけません。  さまざまな予兆は、コロナ患者を診てきた病院の医療者のほうが察知できやすい。経験値が高い」  ――では、いかにして大学病院や市中病院の負担を減らし、マンパワーを振り向けますか。  「政府の病院への補償を前提に、一定数の入院患者さんに一時的に退院していただく。大きな病院のなかには手術や検査の前後の日数に余裕をもって入院している患者さん、入院期間を短縮できそうな患者さんがいらっしゃいます。事情を説明して、そういう入院患者さんに一旦、自宅に帰っていただき、医師と看護師のマンパワーにゆとりをつくる。  その人たちに、中等症を診る臨時コロナ病院や、ホテル療養に回ってもらう。やや極端かもしれませんが、中等症の治療は酸素療法と薬剤投与でやることは決まっています。既存の病院に新たな患者さんを受け入れるよりも、臨時施設に人を出したほうが効率的に大勢を診られます」

在宅ではできないことも多い

 ――自宅療養という名の自宅放置状態の人がどんどん増えて、在宅での酸素療法にもスポットが当たっています。圧縮型の酸素ボンベや、携帯酸素スプレーが売れているようですが、酸素療法とはどのようなものでしょうか。  「若い方は、肺野の一部に炎症が起きていても、残りの健常な部分がカバーして、呼吸機能がしっかり保たれていることがあります。CT撮れば肺炎だけど、呼吸機能はいい。そういう状態でギリギリまで呼吸が保たれていて、突然、限界に達し、坂道を転がり落ちるように悪化する。ここが難題なのです。重症化リスクのファクターは、高血圧や糖尿病などの基礎疾患と、肥満です。気管挿管で人工呼吸器までいった人は、圧倒的に肥満の方が多い」  「中等症Ⅱの酸素療法は、基本的に在宅で行ってはいけない。あくまで窮余の策です。たとえば、朝、酸素飽和度が落ちて、鼻から酸素3リットル/分の投与を始めたところ、瞬く間に悪化。夜、気管挿管したケースもあります。ギリギリまで呼吸機能が維持されていて、突然、悪くなったのです。  最近は、ハイフローネーザルカニューラで、30~40リットル/分の高流量の投与を、ICUやHCUで実施するケースも出てきました。人工呼吸器の一歩手前の酸素治療ですが、急性肺炎なので悪化の恐れがあります。酸素療法は入院が大原則です」

山岡 淳一郎(ノンフィクション作家)

カテゴリー
コロナ 社会問題

「とうとう、ここまで…」やまぬ感染拡大に追い込まれる医療現場 医師2人が「実態報告」と「切実提言」

https://news.yahoo.co.jp/articles/dcfa645b94f9fc25565b1d20a5ff58aeff3427c9

2021/8/19(木) 21:16 YTV

新型コロナ感染 過去最多をまた更新

8月19日、全国の新規感染者は初めて2万5000人を超え、2万5156人(NNNまとめ)と2日連続で過去最多を更新しました。病床のひっ迫が深刻となる中、どんな対策が有効なのでしょうか?  【18日】近畿で新たに4238人感染 2日連続で過去最多更新 大阪、兵庫、奈良、滋賀で最多を更新 神奈川県のコロナ対策リーダーで、医療危機対策統括官を務める阿南英明(あなん・ひであき)医師と、日本ワクチン学会理事で小児科医の長崎大学大学院・森内浩幸(もりうち・ひろゆき)教授が、現在流行しているウイルスとどう対峙すればいいのか、提言しました。

想定を超え、増え続ける患者 通常医療との両立は限界

神奈川県医療危機対策統括官・阿南英明医師

Q.神奈川の病床使用率は全体で85%、重傷者100%でかなり厳しい状況ですね? (神奈川県医療危機対策統括官・阿南英明医師) 「年末年始の第3波で非常に苦しい思いをして、この時にいろんな仕組みをさらに強化して作ってきました。その時に、あの倍ぐらいの患者さんが発生してもなんとか耐え得る、そういう強化策をいろんな仕組みの中に入れてきたんですが、今の患者さんの増加は、「倍」をはるかに超えてしまった、我々が用意していた上限をはるかに超えてしまった。そういう中での戦いになっています。」神奈川県の感染ステージと療養状況

(神奈川県医療危機対策統括官・阿南英明医師) 「今はもう本当に、低酸素の方々が自宅・宿泊療養で発生してしまっている。そういう方々が入院できない…こういう現実を踏まえるならば、現場は、『酸素の低い方』を優先するというふうに変更しました。そうせざるをえない現状を追認というか…」 「『これまで普通にやってきた医療を極力維持しながら、コロナをやろう』ずっと、これをコンセプトにして来たが、限界にきてしまった。そうであるならば、延期できるものを延期してください。その分、空いたベッド、あるいは医療スタッフ、こういったものを回してコロナ対応をしましょう。そこまで追い込まれている状況です」

使いたくなかった「酸素ステーション」

通常医療 すでに限界も…

Q.どういう想定で酸素ステーションを立ち上げたのですか? (神奈川県医療危機対策統括官・阿南英明医師) 「年末年始の第3波が非常にきつかった。あれがずっと続いて、もう本当にひどくなるんだったら、これは病院で収容しきれない事態になる。そこを想定して酸素ステーションを1月に考案し、態勢を整えました。この考え方は『災害医療』の考え方です。災害時には本当に病院がいっぱい、あるいは救急車も運べないような、まさに今のコロナと似たような状況になるので、その時に、『応急救護所』を立ち上げるんですね。この応急救護所で一時、命をつなぐ治療をして、病院に何とか運び込む…という発想です。ですので、実際には『酸素ステーション』は使いたくないという思いがすごく強かったです。第3波、第4波では使いませんでしたが、とうとう使わなければいけないところまで来たということなんです」

(長崎大学大学院・森内浩幸教授) 「阿南先生たちが1月の段階で、既に酸素ステーションの設置に着手されていたというのは本当に素晴らしいことだと思います。それが国のレベルで、今になって動いているというのは、あまりにも先を読んでないのかなっというところは大変辛いなと思います。そもそも在宅酸素療法というのは、慢性的な呼吸不全に用いるものであって、酸素が必要になっている人を自宅で行うというのは、本来の医療が全く行われていない、そういう状況だっていうことをやっぱり頭に置いておかなきゃいけない。あくまでもこれは繋ぎだっていうことは、皆さん十分に理解しておく必要があると思います」

日本医師会が提案した臨時の医療施設「野戦病院」 効果は?

日本医師会の提案

Q.日本医師会が提案した「野戦病院」については? (神奈川県医療危機対策統括官・阿南英明医師) 「我々は、昨年の5月の段階で、もう臨時医療施設を作っているんですね。180床の臨時医療施設を運営しています。全国で一番最初に作り、一番大きいものだと思いますが、難しいのは、いかに医療者を運用するかというところです。」 「わが国においては、建物を作って、そこにベッドを入れて、酸素を供給することは、すぐにできます。しかし、臨時医療施設は、病院を作るのと同じことですから、患者さんに看護師さんがどういうふうに当たるのか、お医者さんがどう当たるのか…という仕組みが大事なんです。この仕組みを突然ポッと作れますかというと、作れないんですね。我々は酸素ステーションの運営あるいは臨時医療施設をやっていますが、なかなかこの医療スタッフを連れてくること自体も難しい。酸素ステーションでは全国からの支援をお願いしていますが、なかなか来ないんですよ。だから我々こういったものを作るハードだけじゃなくて、ソフト面の重要性を、ちゃんと見極めて作っていく、こういった視点を必ず忘れないでやっていただきたい」

切実な提言「患者をこれ以上増やさない具体策を」

(神奈川県医療危機対策統括官・阿南英明医師) 「今、災害の様だと例えらていますが、皆さん災害って地震とか津波とか我々があらがえない力でワーッと来るものに対して、どういうふうに対応するかという事で考えますよね。今、このコロナっていうのは、確かに災害の様なんですけれども、本当に我々がどうすることもできない力なのかということを、もう一度見直していただきたい。」 「感染症はヒトからヒトにうつるので接触なんですよ。この接触を絶つということに関して、単に緊急事態宣言だけではもう止まらないってことは、皆さんもうお分かりですよね。これよりも、もうちょっと踏み込んだ『何か』ということを、本当に法律上問題があるという事は分かっていますけれども、であるなら、そこの議論を早急に着手して、これ以上増えないようにするという具体策を打たないと。医療もさすがに限界があるので。是非、早急な議論をお願いしたいと思います」

「子ども間での感染は、間違いなく増える」

長崎大学大学院・森内浩幸教授

また、小児科が専門の長崎大学大学院・森内教授は… Q.東京で10代の感染者数が増えている要因は? (長崎大学大学院・森内浩幸教授) 「社会の中で、流行は、まず若い大人たちから、そして最終的に家庭に持ち込まれ、親から感染する。場合によって、保育施設や教育施設でも、教職員と保育士さんから感染する。流行が進めば子どもにも感染が及ぶ。前はそこで終わっていたんですけれども、感染力が強くなって、以前は非常に珍しかった『子ども同士の感染』も、結構起こるようになってしまった。今後、やっぱり子どもたちの間での感染は間違いなく増えると思います。子どもたちが重症化することは、極めてまれであることは間違いないんですけれども、新たな変異をしてきているということで、そこは注意して見ていく必要もあると思います」

学校閉鎖なら「大人もステイホーム」

(長崎大学大学院・森内浩幸教授) 「学校閉鎖っていうのは、子どもの心や体の健康、それから発達にものすごく大きな影響を与えてしまいます。小学校を学校閉鎖したとしても、親が普通に仕事に行っていたら、学童(保育)に預けることになるんですね。学校閉鎖という、子どもたちの『ロックダウン』をするのであれば、それは大人のロックダウン、つまり大人はリモートで家庭に居るということがあくまでも条件だと私は思います。その時期に私は今来ていると思いますので、親と一緒に子どもも家庭にステイホームの状態でいてほしいと思います」

子どもにワクチンは必要か?

(長崎大学大学院・森内浩幸教授) 「今は12歳以上にしかワクチンの適用はありませんが、もし順番を聞かれたならば、健康な子どものワクチン接種は、一番最後だと思います。今でも死亡につながる人たちというのは、やっぱり高齢であったり、基礎疾患を持っている大人たちであって、その人たちがワクチン接種が終わっていない中で、健康な子どもたちに先にする必要はないと思います。でもその順番が回ってきた場合には、ワクチンのメリットは十分にあると思いますし、デメリットも当然ありますので、十分理解した上で、考えていただくということになると思います」 Q.親が感染したら、子どもはどうすればいいですか? (長崎大学大学院・森内浩幸教授) 「これ多分、ケースバイケースで、ずいぶんパターンは変わってくると思います。親が感染し、子どもさんの感染も確認された場合に、親御さんと子どもさん併せて、家庭でみるという選択肢もあるし。いっしょに宿泊施設に行くということもあるでしょう。親が入院しなきゃいけなくなった場合に、子どもさんをどこでどういう形でみるかも、その地域で準備してある所の状況や家族の構成とか、いろんなものによってみんな違ってくると思います。総論的なことを決めるのは簡単ですが、1つ1つ、お一人お一人の事例に関しては、その都度、ベストの態勢を考えるような仕組みを作っておいて、決めていくしかないと私は思っています」

(情報ライブミヤネ屋 8月19日放送)

カテゴリー
コロナ 社会問題

「病床があるはずなのにコロナ患者が入院できない」政府が見落としている医療体制の問題点

https://news.yahoo.co.jp/articles/d9fe5c7c7d815819c7b32af93efc34b4206dd45f

2021/8/19(木) 15:16 PRESIDENT ONLEIN

新型コロナウイルス拡大で、病院への救急搬送を断られるケースが増えているという。だが、この患者の「たらい回し」は、コロナ禍以前から起きていた。一橋大学経済学研究科の高久玲音准教授は「救急患者を受け入れるキャパシティがないにもかかわらず、診療報酬欲しさに急性期医療に手を出す病院が多いのも原因の一つだ」という――。 【この記事の画像を見る】 ■コロナで入院するには相当な幸運が必要  新型コロナウイルスの感染拡大が続いている。その結果、医療機能は逼迫しており、コロナに感染した際に入院できるのは既に相当な幸運が必要だと言われている。東京都によると、都内では「自宅療養」は2万2226人、「調整中」は1万2349人となっている(8月18日時点)。  医療現場での混乱も続いているが、第1波の頃とは明らかに異なる点がある。多くの病院の経営は順調なのだ。  突然の流行で混乱を極めた第1波では政府のコロナ対策補助金が整備されておらず、病院は軒並みかつてない減収を記録した。未知の感染症に対する医療従事者の英雄的な奮闘にもかかわらず、ボーナスを削減せざるを得ない病院も多かった。  その後、コロナ対応のための補助金が整備され、2020年度全体でも黒字の病院が増えている。全国自治体病院協議会の調査では6割の自治体病院が黒字となっており、少ない患者数にもかかわらず、例年より黒字病院が増えていることが報告されている。

■通常の医療ができなくても「儲かる」からくり  筆者がとりまとめた東京都の病院を対象とした経営状況調査でも、赤字の病院はあるものの、コロナ患者の受け入れが期待されている都内の急性期病院は2020年度全体で億単位の黒字だ。多くの通常医療がキャンセルされた中での黒字は、病院に対する補助金がいかに潤沢だったかを示している。  コロナ患者の受け入れが少ない、もしくは受け入れていない病院は通常医療の縮小の結果赤字が続いているが、受け入れが可能な病院が金銭的理由で受け入れを増やせないという状況ではない。なお、急性期病院とは、急性疾患または重症患者の治療を24時間体制で行う病院のことを指し、救急患者の受け入れなどもそうした病院が担う重要な機能となっている。  黒字のカギは政府が設けた空床確保料にある。コロナ患者を診るためには、他の患者と隔離するために多くの空床を事前に準備する必要がある。空床を確保するには通常の患者の診療を停止する必要があり、そうした機会損失を補塡(ほてん)する補助金が設けられた。  政府はコロナ患者を診る体制が盤石であることを示すために、急ピッチで病床の確保を進めていた。そのため、かなり潤沢な空床確保料を設定しており、その結果として多くの通常医療がキャンセルされた上に病院の経営難が緩和された。  具体的には、ICU(集中治療室)では1床当たり最大で43万6000円/日、HCU(高度治療室)では21万1000円/日、それ以外の病床では7万4000円/日が支給される。  ※編集部註:初出時、「ICU」と「それ以外の病床」の支給額をそれぞれ30万1000円/日、5万2000円/日としていましたが、正しくは最大で43万6000円/日、7万4000円/日でした。2020年9月に引き上げられていました。訂正します。(8月19日18時40分追記)  この空床確保料には問題も多く、例えば、もともと稼働率の低い病院が、患者のいない病床をコロナ患者のための「空床」として申請して儲けているケースもある。 ■救急患者のたらい回しが増えたワケ  多額の補助金は配られたが、残念ながら医療提供体制は改善されていない。典型的な例は、搬送困難事例の増加だ。  感染が拡大するにつれて、都市部の救急搬送機能は麻痺状態に陥っており、数多くの搬送困難事例も報告されている。日本における「救急搬送困難事案」には決まった定義があり、それは「医療機関への受け入れ照会回数4回以上」かつ「現場滞在時間30分以上」というものだ。言い換えれば、3つ以上の病院に受け入れを断られて初めて「救急搬送困難事案」となる。

 どのような患者が受け入れを断られているのかというと、まず「コロナ疑い」の患者の搬送が困難になっているようだ。自宅療養中に症状が悪化した患者でも搬送段階ではPCR検査の結果が出ておらず、陽性が確定していない場合がある。そうした患者は通常の患者と同じように、コロナ対応していない病院も含めて搬送先が選定される。当然、「もしもコロナだったら……」と考える病院は受け入れを断ることになる。  一方、陽性が確定している患者の受け入れはいわゆる「重点医療機関」を中心に担われている。重点医療機関とは、新型コロナウイルス感染症患者あるいは疑い患者用の病床確保を行っている病院のことで、確保しているすべての病床で中等症の患者を積極的に受け入れることが期待されている。重点医療機関は空床確保料をもらっていることもあり、基本的にコロナ患者の受け入れを断らないことが想定されているが、実際には「直前まで診ていた一般診療の患者のベッドをすぐに開けられない」等の理由で断るケースもある。 ■救急患者を断れる日本、断らないアメリカ  コロナに限らず、「緊急の患者を断れる」というのは、平時から続く日本の医療提供体制の特徴でもある。例えば、平時から東京では1%程度の搬送が搬送困難事例となっている。医療事故が相次ぎ診療報酬も削減された2006年前後には、患者のたらい回しが社会問題化し「医療崩壊」と呼ばれた。  「患者を断る病院」という報道に長い間慣れきっていると、救急医療とはそういうものかと思ってしまうが、患者の「たらい回し」は海外では日本のような社会問題には発展はしてない。  最も有名な例は米国だろう。米国では1986年に制定されたEmergency Medical Treatment and Active Labor Act(EMTALA法)で、病院が救急患者に対して適切な診療を行わない場合には罰則の対象となっている。当時米国では、無保険者が民間病院に救急搬送の受け入れを拒否されることが社会問題化しており、EMTALA法はその解決策として制定された。  なお、EMTALA法は救急車内にいる病院搬入前患者の搬送要請には適用されていないので、「ベッドが満床なので断る」ということは依然として可能だ。そのため、日本の上記のような搬送困難事例の解決策として考えるのは必ずしも正しくないが、「どんな救急患者でも受け入れる」という救急医療提供体制はER型(北米型)と呼ばれており、近年日本でも地域的に導入するところが増えてきている。  例えば、東京ベイ・浦安・市川医療センターでは「24時間365日断らない」ことを救急外来のポリシーとして掲げている。こうした強固な救急医療体制の整備は、延び続ける搬送時間の短縮にも有効だ。筆者がER型を日本で実施している医師たちと2019年に共同で行った研究では、浦安・市川や鎌倉といったER型が実施されている地域では、搬送時間が隣接地域と比較しておおむね5分程度短かった。

■報酬目当てで急性期医療に手を出す病院も  コロナ患者、および疑い患者の搬送困難事例が伝えられる中で、平時から救急搬送受け入れの義務化を通じて「24時間365日断らない」病院を整備・支援していくということは必要に思える。加えてそうした方向性には、救急搬送の問題のみならず、長らく医療提供体制の課題だった、病院の機能強化・分化を促す面もあるだろう。  現在の日本の医療提供体制では中小規模の民間病院が乱立しており、救急医療に携わる急性期病院であっても救急専門医が1人しか常駐しない病院もある。また、看護配置の高い病院に手厚い診療報酬を設定していたこともあり、実際には急性期の患者の診療実績が乏しい病院まで急性期医療に参画してしまっている。  地域医療構想における「高度急性期」および「急性期」の病床割合は約6割にのぼっており、急性期の医療機能が集約化されていないこともたびたび指摘されている。言葉は悪いが、困難な患者の受け入れは断ってしまえるので、多くの病院が診療報酬上のメリットを目当てに急性期医療に手を上げているという実態もあるだろう。 ■乱立する中小民間病院の統廃合が必要だ  一方、ER型で実施されている「24時間365日断らない医療」のためには、人材を含めて多くの医療資源をその病院に集中する必要があり、弱い機能の病院では難しいことから、おのずと医療機能の分化が進む。既に高い水準にある医療者の労働負担を下げながらこうした強い病院を作ることは集約化なしには難しく、多すぎる病院の統廃合も実際には必要だろう。少なくとも、搬送を断らない病院は日本国内に既にあり、そうした病院のノウハウや知見がもっと広く共有され、診療報酬上も高く評価される必要がある。  加えて、病院の機能分化・強化を進める政策は、そのまま未知の新興感染症への対策にもなる。コロナ禍では急性期の医療機能が分散されているために、強力に患者を受け入れる病院がなく、そのために医療連携がすぐに困難になってしまった。  例えば、重症化した患者を診る大規模病院であっても、コロナ対応の集中治療室が10床程度であれば感染拡大に伴いあっという間に満床になってしまう。そうなると近隣の中等症を受け入れる病院も、重症化リスクの高い患者を受け入れることに躊躇してしまう。結果として医療システム全体が逼迫し、患者が必要な医療を受けられないケースも出てしまった。

医療崩壊は金銭的インセンティブだけでは解決しない  コロナ禍という非常事態では、病院が患者を受け入れないという事実がクローズアップされた。こうした事態を避けたいのであれば、平時から医療者の過度な負担なしに「24時間365日断らない医療」が実現できるような仕組みが指向される必要がある。また「24時間365日断らない医療」に過度に依存しない、国民の良識ある受診行動も大切になるだろう。平時にできていないことを有事に実行することは不可能だ。  政府は病院にコロナ患者を受け入れてもらうために、空床確保料という潤沢な金銭的インセンティブを与えることで対処してきた。膨大な公金が投じられた一方で、国際的には少ない感染者数にもかかわらず医療システムはすぐに逼迫してしまっている。この事実は個々の医療従事者の献身的な取り組みとは全く別に、全体的なシステムとしてわれわれの医療提供体制が大きな問題を抱えていることを示唆している。  急性期の医療機能の分化の問題とともに、緊急事態宣言下における医療従事者の義務とは何か、将来に向けて明らかにされる機会も必要だろう。飲食店における営業の自由をはじめ、多くの人の基本的権利が感染抑制のため長期間制限される中、医療従事者には強制力を伴う診療協力や米国で行われているような病床拡大の義務化ではなく、病院によっては大幅黒字になるほどの強力な金銭的誘導が行われている。これはバランスを欠いているのではないだろうか。  ワクチンの普及とともにこれ以上の自粛の継続は難しくなっており、医療機能の強化という下支えのもとに経済を徐々に回していく局面に差し掛かっている。今回取り上げた救急医療体制の課題は医療提供体制全体の一部でしかないが、さまざまな面で、コロナ禍で浮かび上がった課題をポストコロナの医療に生かしていく必要があるだろう。

———- 高久 玲音(たかく・れお) 一橋大学経済学研究科准教授 1984年生まれ。2007年に慶応義塾大学を卒業し、19年から現職。専門は医療経済学、応用ミクロ計量経済学。東京都地域医療構想アドバイザーも兼任。 ———-

一橋大学経済学研究科准教授 高久 玲音

カテゴリー
コロナ 社会問題

テレ朝“宴会問題”の真相 8年ぶりの快挙に社内がお祭り騒ぎ、スポーツ局はとんだ勘違い

https://news.yahoo.co.jp/articles/8e9314dd0ca5d0267bb62c86d69fb7ec6d30ef9b

2021/8/13(金) 13:15 デイリー新潮

 8月8日に幕を閉じた東京2020オリンピック。その夜から翌日未明にかけて、五輪中継に関わったテレビ朝日スポーツ局のスタッフ10名が“打ち上げ”と称した飲み会を開き、うち1名が転落事故を起こしていたことが発覚した。テレ朝は平謝りしているが、実は同じような飲み会は、他にも行われていたという。しかも、その目的は打ち上げではなく、祝勝会だったというのだ。 【写真2枚】この記事の写真を見る  ***

 ことの次第は、8月10日に発表された「当社社員の緊急搬送事案について」と題した、テレ朝の謝罪文が分かりやすい。 《今月8日夜、東京オリンピックの当社番組担当スタッフ10名が緊急事態宣言下における東京都の要請及び社内ルールを無視して打ち上げ名目の飲酒を伴う宴席を飲食店で開き、翌9日未明退店する際に当社スポーツ局社員1名が誤って店の外に転落し、負傷して緊急搬送されました。当該社員は現在入院中で、事案の詳細は確認中です。  当社では従前より、新型コロナウィルス感染拡大防止の観点から宴席等を禁ずる社内ルールを設け、その遵守を徹底してまいりました。  しかしこの度、不要不急の外出等の自粛を呼びかける立場にありながら著しく自覚を欠く行動があったことは大変遺憾であり、深く反省しています。緊急事態宣言下で尽力されている皆様をはじめ、関係各位に多大なご迷惑をおかけしたことを深くお詫び致します。》

報道局も無視できず

 業界関係者が言う。 「コロナ禍と猛暑の中、2週間以上に及ぶ五輪の生中継は、各局とも2年がかりで準備した放送でした。8月24日から始まるパラリンピックまでの小休止として、飲んで騒ぎたい気持ちは正直言ってわからなくもない。実際、テレ朝スポーツ局の上層部も、ニュースにさえならなければ問題視するつもりはなかったようです。今回の10人以外にも、個別での打ち上げは行われていたそうですから。しかし、転落事故を起こし、通行人からは110番通報され、病院に救急搬送までされてしまった。さすがに報道局も無視できなくなり、テレ朝のニュースでも扱うことになったそうです」  テレビ局の飲み会は、酒量も多く、ハメを外す人間も少なくないと聞く。 「しかもスポーツ局は、体育会系出身者も少なくありませんから。ただ、やはり緊急事態宣言中の飲み会はマズい」  それにしても、明け方までよく飲んだものだ。

三冠王の金メダル

「実は五輪打ち上げのほかにも、飲み会をやりたい理由があったのです。テレ朝は五輪中継で、2週連続して週間視聴率三冠王を獲得、しかも7月の月間視聴率三冠王まで取ってしまいました。これは13年6月以来の快挙なんだそうです。ですから今、テレ朝局内には“三冠王獲得!”と書かれたポスターがそこら中に張り出されていますよ」  テレ朝が三冠王を獲得したことは、デイリー新潮「『東京五輪』中継でテレ朝が一人勝ち くじ運とSNS戦略が大当たり」(8月5日配信)で報じた。8年ぶりの快挙とあっては、お祭り騒ぎにもなるだろう。 「それもこれも五輪中継のおかげですからね。五輪中継に関わったスタッフは、まるで自分たちが金メダルでも獲得したような気持ちになり、何をやっても許されると勘違いしてしまったんじゃないですか」  それでも、繰り返しになるがコロナ禍である。 「報道部フロアでは『コロナ重症者が病院に受け入れてもらえないニュースを流しているときに、何てことをしてくれるんだ!』と怒号が飛び交い、報道スタッフの間では『足を骨折ってウソでしょ。一体何をやったの?』と状況を把握できないまま、朝のワイドショーでニュースとして報じることになったそうです。『羽鳥慎一モーニングショー』ではテレ朝社員の玉川徹氏が頭を下げて陳謝するハメになった。社内では五輪中継の関係者一同に金一封なんて話もありましたが、もちろん立ち消えとなったそうです」  まだ問題は残っているという。 「テレ朝上層部が頭を悩ませているのは、24日から始まるパラリンピック中継に今回の宴会に参加したスタッフを加えるのかどうかということ。報道局の幹部が『世間の目が厳しい中、担当させるべきでない』と言えば、スポーツ局の上層部からは『ケガをした社員以外の9名を中継業務の担当にしなければ、替わりがいない』という声が。オリンピック中継チームは取材パスも含め、そう簡単には代替スタッフを用意できませんからね」  今回の不祥事で、テレ朝のオリンピック中継で大成功は一転した。 「コロナ禍の折、大ヒンシュクを買うことになったテレ朝のパラリンピック中継を見てくれる人はいるのか。民放の監督官庁である総務省から、何らかのペナルティを課されるのではないか……テレ朝は戦々恐々でしょう」

デイリー新潮取材班 2021年8月13日 掲載

カテゴリー
コロナ 社会問題

「在宅放置でコロナ死する人をもう増やしたくない」長尾医師が”5類引き下げ”を訴える本当の理由

https://news.yahoo.co.jp/articles/5d88f080fe70a8342a32ee03ba35900cc80b99b0

2021/8/19(木) 16:05 PRESIDENT ONLINE

■「2類相当」のままでは、命を守れない  新型コロナウイルスの感染症法の扱いを、季節性インフルエンザ並みの「5類」に引き下げる――。これは、いま私たち日本人にとっての最重要事項だ。「2類相当」のままでは、コロナ患者は保健所の管轄となり、地域の開業医が診ることはできない。これではコロナから命を守れない。 【写真】長尾和宏医師  病床が足りず、入院できない人が増えている。これは「自宅療養」と呼ばれているが、正しくは「在宅放置」だ。いまの仕組みでは、初期時の医療行為は行われず、重症化するまでひたすら放置されている。  自分たちの命を守るため、そして医療を守るため、国民は現行システムの問題点を理解し、声を上げるべきだ。そして“コロナの専門家”といわれる方々に私は問いたい。なぜコロナを「2類相当」にとどまらせようとするのか、と。 ■「これは医療じゃない。治療ネグレクトだ」  最近、テレビではこんなニュースをよく見かける。  病床が逼迫し、コロナ陽性と診断されても入院できない。だから患者は自宅で療養せざるを得ず、横になって、苦しそうに顔をゆがめる。その模様が「大変な事態」として画面いっぱいに映し出される。  「これは医療じゃない。治療ネグレクトだ」――東京都内の開業医がテレビを見てそう憤っていた。  その時はピンとこなかったが、私も1週間前にそのような事態に遭遇し、「治療ネグレクト」の真の意味を理解した。  知り合いの東京都在住の40代男性がコロナ陽性と判定された。CTに映った肺は真っ白だった。つまり「肺炎」を発症している。保健所からは「通常であれば入院させたいが、ベッドがいっぱいで難しい。毎日体温などの報告を」と言われたという。「そうは言っても苦しいし、不安だ」と、本人から電話がかかってきた。  血中酸素濃度をたずねると「96%」という。基礎疾患はなく肥満でもない。それでは入院できないだろうと思った。東京都が血中酸素濃度の基準値を「96%未満」と厳格化して入院患者を抑えるという方針を打ち出したところだったからだ。その時は「血中酸素濃度には特に気をつけて」と言って電話を切ったが、心配だった。  1週間後に連絡すると、彼は国立病院に入院していた。私との電話の4日後くらいに血中酸素濃度が90%まで下がり、保健所に必死に訴えたところ、やっと入院できたとのことだった。  「点滴をしてもらい、薬をもらって、ずいぶん楽になりました。自宅では解熱剤と咳止めの処方だけだったから」  時折咳き込みながら、彼は電話でそう話してくれた。  その時に「治療ネグレクト」の意味が私はわかったのだ。

■今は患者の多くが入院するまで治療を受けられない  「それって言葉をかえると『重症化を待っている』ということなんです」  長尾和宏医師(兵庫県尼崎市の長尾クリニック院長)が言う。長尾クリニックではコロナ発生当初に発熱外来を立ち上げた。そこでコロナと診断した人はこれまでおよそ600人、入院できず在宅療養を24時間態勢でフォローしてきた患者は300人を超える。  「現状の体制ではコロナの感染判明から入院先が見つかるまで合計1週間もかかってしまう。その間にハイリスク者は死ぬし、重症化の可能性も高くなる。大切なのは治療までの時間。コロナは“時間との闘い”なんです。けれど今は診断された患者の多くが、入院先が見つかるまで“治療を受けられない”(=治療ネグレクト、放置)です」  どういうことか。  コロナは現在、保健所を通して入院勧告や隔離、就業制限を行い、濃厚接触者や感染経路の調査が必要な「2類相当」(正確には「新型インフルエンザ等」のため、実質それ以上に厳しい)に分類されている。  つまりすべてが「保健所の管轄」になる。患者側が直接「医療機関とつながる」ことができないのだ。かかりつけ医がいれば電話で相談は可能なものの、かかりつけ医をもたない人が発熱症状などあれば、保健所を通じて検査を受けるしかない。治療も保健所の管轄下で進められる。インフルエンザ流行時によくあるような、ちょっと具合が悪いし熱が高いから近所の病院へ行って薬をもらう……とすぐに動けないのが、現在の2類相当である。 ■5類に引き下げれば、放置される患者がいなくなる  これにより「(コロナ)発症から治療までタイムラグが生じる」と長尾医師は訴える。  当初、長尾医師は悩んだ。本来、保健所の管轄である患者を診てもいいのだろうか。しかし一方で、医師法19条には「診療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合には、正当な事由がなければこれを拒んではならない」という応召義務がある。目の前の患者が熱が出て苦しいと叫んでいるなら、これを助けたい。コロナもほかの病気と同様に、自分が治療を請け負う。そう決意を固めたのだった。  コロナと診断した患者に対し、長尾医師は自身の携帯電話の番号を教え、毎日やりとりをしながら本人の体調が回復するまで24時間態勢でフォローしている。  「早期発見し、即治療。これは医療の原則で、そのほうが救命率も高くなるのは明らか。コロナに治療法がないという声がありますが、初期治療に使える薬はいくつかあります。僕はコロナ患者には全員、抗炎症剤を、ハイリスク者にはステロイドと在宅酸素を処方します。実はすでに昨年4月の時点から、肺炎を起こしているコロナ患者には肺炎診断時にステロイドを投与してきましたよ。みなさんどんどん良くなっていった。ですから町医者が一刻も早くコロナに感染した患者の治療にあたれば、コロナ死はゼロに近くなるでしょう。ただ僕だけでコロナ患者全員をみるのはもちろん無理なので、それぞれの地域の開業医総出でやりましょうと言っているんです。保健所を介さず、地域の開業医がコロナ患者を請け負える5類にすれば、放置される患者がいなくなるのです。今は“コロナだけが通常医療を提供できない”状態です」

■「開業医が診ていたら手遅れになる」という大誤解  だが、コロナをインフル並みの5類に落とすというと、2つの指摘がよくなされる。  ひとつは、「軽症患者ならそれもいいかもしれないが、中等症以上の患者では開業医が診ていたら手遅れになる」というものだ。  長尾医師は「最初から重症な人はいない」と指摘する。  「みんな“最後の砦”ばかりみていますが、“最初の砦”が重要なんですよ。そこでいかにスピーディーに治療して重症化させないか。大病院の先生から『長尾先生と僕たちが診ているコロナの患者は違う』と、よく言われます。たしかに違いますよ。がんにたとえると、僕は早期がんを発見して内視鏡で治療しているんです。大病院では末期がんを診ているようなものですから、コロナの恐怖をより強く感じるという側面もあるでしょう。だから違うのは当たり前です」  もし患者の立場なら、保健所に毎日体温や血中酸素濃度の報告をするくらいなら、自分を知る近所の医師に24時間フォローしてほしいと私は思う。「自宅療養」でも、必要な医療を受けられる。これは実際に「在宅医療」を経験した人は理解が進みやすいだろう。政府はもっと丁寧に国民に説明するべきだし、在宅医療を見下す医師は現状を知ってほしい。  在宅医療は医療機関より格下の医療行為ではない。自宅で肺炎を治すことだってできるし、人工呼吸器管理も行える。できる医療行為はかなりあるのだ。しかし保健所を介する現行の2類相当では、在宅医療ではなく、在宅放置である。 ■「感染しても大丈夫」ができれば、コロナ禍は終わる  そしてふたつめのよくある指摘は、5類に落として開業医が診られるようにすることで、感染対策がゆるんで、感染が拡大してしまうのではないか、ということ。これは、これまで通りの感染対策を続ければいいだけのことだ。  「万が一、クラスターが起きたら(今も起きていますが)、それも早期診断・即治療です。今の2類相当は“感染しないための分類”なんです。5類にすることで、地域で治療できるので“感染しても大丈夫”という空気が作り出せます。放置されて重症化した人は激減するので、重症病床は余裕ができます。感染しても大丈夫という政策を打ち出して実行することが“コロナが収束する”ということでもあるでしょう」  むしろ医療機関では2類相当であることで、“過剰な”厳重装備が足かせになっている。  多くの病院が今もフルPPEと呼ばれる防護具を身につけている。この着脱に要する時間も医療効率を下げている、とコロナ治療にあたる複数の医師の声がある。  私が密着取材した日本で最も救急患者を受け入れている湘南鎌倉総合病院の救命救急センターでは、通常はゴーグルとマスクのみで、感染リスクが高くなる場合の手技を行う際にPPEを義務づけていた。それでも院内クラスターは発生していない。長尾医師もほとんどが平服で、医療処置を行う看護師がPPEを身につけているという。

■「10日間の在宅主治医制度」でオンライン診療する  現在東京都を中心とする関東では、第5波でパニックになっているが、人口比で考えると関西の第4波(GW近辺)はこれ以上であったそうだ。その波を乗り越えるため、関西では実質5類相当になりつつある。コロナに対応する開業医が増えて、オンライン診療も普及している。  それでは5類に落としたとして、具体的にはどのように医療体制を整えるか。  長尾医師は「10日間の在宅主治医制度」を提案する。地域のコロナ対応開業医のリストを医師会が公開し、コロナと判定された人は、そこから自分で主治医になってほしい人を見つけて連絡をとる。在宅主治医をお願いされた医師は、その患者に対してすぐにオンライン診療を開始して重症度を判定して必要な薬を処方し、24時間、メールで相談できる体制を構築する。  「一案ですが、医師の診療報酬は10日間の包括払いで3~5万円程度に設定するんです。医師会内のコロナ診療医のグループでシェアしてもいいでしょう。本来5類ですと自己負担になりますが、特例的に年内は公費扱いにしたらいい。それでも国の財政から考えて、安いものではないでしょうか。現在は入院したら100万円、重症化でエクモ装着となれば1000万円コースなのですから。また開業医にとっても、10日間、コロナの患者の管理を請け負うことで診療報酬を得られるなら、引き受ける医師も増えるでしょう。普段はヒマな町医者でも冬に増えるインフルエンザ患者を多数診ることで、経営を成り立たせてきた歴史もあるんです。もちろん患者に重症化の兆しがみえたら、主治医が感染症指定病院に直接、入院交渉を行います。2類相当の現状ではこれもできません。入院調整は保健所しかできないのです」  5類に落とすことで、開業医と感染症指定病院の医師間で“直接の”やりとりが可能になって、医療効率が改善するというわけだ。 ■本当に「専門医だけが診るべき病気」なのか  長尾医師はこうも言う。  「ビルの中で診療している小さなクリニックなどは、制約があるので発熱外来を掲げることは難しいかもしれません。しかし、かかりつけの患者さんが感染し、自宅療養となれば、携帯電話を用いたオンライン診療が可能です。診察ができれば、治療も、その後の24時間管理もできます。ちなみに僕の自宅療養者の管理は、9割方、メールや電話でのやりとりです。携帯電話も一台あればじゅうぶんです。薬は家族に取りに来ていただいたり、看護師や薬剤師に届けてもらいます。地域の訪問看護ステーションにお願いするという手もあります」  メディアでは呼吸器専門医が足りない、感染症専門医が足りないと、しばしば報道された。本当に「専門医だけが診るべき病気」なのだろうか。コロナ発生から1年半、300人のコロナ患者の自宅療養を支援してきた長尾医師は、自宅でのコロナ看取りは一例も経験していない。

■重症化や死を防げた可能性をどう考えるのか  長尾医師は「患者の命を救うための医療が完全に抜けている。だから効率的に命を救える体制に早急に変える必要がある」と言う。5類に落とし、町医者がインフルエンザと同様に診断と治療することができれば、死亡者を格段に減らせるはず、と繰り返す。今の2類のままでは保健所経由となり、早期の直接治療ができない。だから放置され、命を落とす人が出てくるのだ。  在宅で“放置されている”患者に、診断とほぼ同時に、医療を、治療を施す。そのために保健所が介在しない5類に落とす。なんとわかりやすい提言だろうと私は思う。  それでも2類相当でないと、という専門家が大半だが、私は問いたい。  “最初の砦”をどう考えているのか。早期に治療をしっかり行えば、診断されたばかりの患者の“重症化や死を防げた”可能性について、どう考えるのか。

———- 笹井 恵里子(ささい・えりこ) ジャーナリスト 1978年生まれ。「サンデー毎日」記者を経て、2018年よりフリーランスに。著書に『週刊文春 老けない最強食』(文藝春秋)、『救急車が来なくなる日 医療崩壊と再生への道』(NHK出版新書)、『室温を2度上げると健康寿命は4歳のびる』(光文社新書)など。新著に、プレジデントオンラインでの人気連載「こんな家に住んでいると人は死にます」に加筆した『潜入・ゴミ屋敷 孤立社会が生む新しい病』(中公新書ラクレ)がある。 ———-

ジャーナリスト 笹井 恵里子

カテゴリー
コロナ 社会問題

新型コロナを”戦争”に例えた国ほど、封じ込めで悪戦苦闘している納得の理由

https://news.yahoo.co.jp/articles/1bbd705f2da75039620441f0faa7764349c5f66b

2021/8/19(木) 9:16 PRESIDENT ONLINE

世界的なパンデミックで、各国のリーダーはさまざまな「言葉」を国民に投げかけてきた。では日本の政治家の言葉はどうか。ジャーナリストの池上彰さんは「日本のリーダーには、言葉に力がある人が少ない」と指摘する。東京工業大学リベラルアーツ研究教育院長の上田紀行さんと、東京工業大学未来の人類研究センター長の伊藤亜紗さんとの鼎談をお届けしよう――。 【この記事の画像を見る】  ※本稿は、池上彰・上田紀行・伊藤亜紗『とがったリーダーを育てる 東工大「リベラルアーツ教育」10年の軌跡』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。 ■理系の学生にこそ「言葉で伝える」経験が必要  【上田】新型コロナウイルスの流行という未曾有の事態に、各国のリーダーはそれぞれ対応を迫られました。言葉の力で国民の共感を醸成した人がいたいっぽうで、はたして指導力を発揮できているのかと厳しい視線が向けられている人も見受けられます。いまこそリーダーの真価が問われていますが、その評価はさまざまです。  これからの時代のリーダー像を考える上で、これまでの議論をふまえ、意見交換の場を持つことが重要だと気がつきました。  【伊藤】本日はよろしくお願いします。私は池上さんが、「言葉の力」を理系の学生にこそ知ってもらいたいと書かれたことに注目しました。あらゆることを数式で表現しようとする東工大生に、「言葉で伝える」という経験が必要なのだと。そこに大切なことがあるように思います。  東工大では、新入生全員がスタートとなる科目が「立志プロジェクト」です。まさに、受験勉強に明け暮れた新1年生を入学直後に容赦なく言葉の世界に飛び込ませる科目だと思います。  そもそも「立志」とは聞きなれない言葉ですが、すごく面白い。「立志」とは、一見すると主語は「自分」で、「自分が志を立てるんだ」というふうに聞こえます。でも、実際に立志プロジェクトの授業を受けると、主語は決して自分ではないことに気がつきます。社会にとって必要なことは何か、人間のみならず生命界全体を考えたときにどうすべきか、数百年後の地球を考えたときにいま自分がすべきことは何かと、他者の視点から問うことが求められるからです。 ■リーダーたちが使った「戦争」というメタファー  【伊藤】そうすると、「立志」の主語は「自分」から、「自分ではないもの、自分のまわりの大きな世界」に替わる。この主語の転換は、学生らにとってインパクトは大きいようです。それまでどっぷりと漬かってきた受験という自己本位の発想から、周囲の世界に自分を向ける発想へと、視点の転換が行われる。「立志」には、じつはこんなスイッチが仕込まれているのだと、面白いなと思いました。  【池上】それは、自分中心ではない、新たな視点の獲得でもありますね。  【伊藤】はい。そんなところから、リーダーと言葉の力について考えてみました。いま私は、指導者たちがさまざまな場面で使うメタファーが気になっています。言葉の力というとき、このメタファーの力は大きく、重要だと思うのです。  たとえば今回の新型コロナで、リーダーたちが使ったメタファーでもっとも頻繁に聞こえてきたのは「戦争」という言葉でした。「これはコロナとの戦争である」と。そこから戦略を立て、戦術を考え、コントロールしていこうとする。そんなリーダーが多かったのですが、そのメタファーは正しかったのか。そもそも新型コロナウイルスとは、人類が戦うべき敵なのかということです。

■コロナは「戦争」なのか、「難民」なのか  【池上】マッチョな政治家ほど「戦争」と言いたがりましたね。アメリカのトランプ前大統領は「戦時大統領(wartime president)」と名乗り、フランスのマクロン大統領は「我々は戦争状態にある」と言いました。中国の習近平国家主席はこの闘いを「人民戦争」と称しました。  「戦争」をメタファーにした途端、「戦争には犠牲がつきものである」という話になる。そうなると「死者が出ても仕方がない」といった意識が出てくる。感染して亡くなった人は「戦死」、感染してしまった人は「敵方の捕虜」のように思われて、感染者に罪はないのに「ごめんなさい」と謝ったり、周囲から差別を受けたりする。これらはみな、「戦争」のメタファーによって喚起される意識や感覚です。  【伊藤】イタリアの小説家、パオロ・ジョルダーノは『コロナの時代の僕ら』(早川書房、2020年)の中で、コロナは結局のところ「難民」なのだと言っています。コロナにかぎらずウイルスはみな、自分たちの本来の住(す)み処(か)――たとえばコウモリやハクビシンの体――があるのですが、人間の環境破壊によって宿主の動物も本来の場所に住みつづけることができなくなって、新しい住み処を探すうちに人間の生活圏にどんどん進出してきているというのです。コロナもそうやって行き場を探している「難民」なんだと。だから今回のパンデミックも、「難民が引っ越しをしているんだ」と彼は言うわけです。 ■NZ首相にとってのコロナ対応は「思いやり」だった  【伊藤】コロナを「戦争」の敵と捉えるのと、住み処をなくした「難民」と捉えるのとでは、対応は大きく変わるはずです。そう考えたとき、世界のリーダーたちが示した「戦争」のメタファーは、はたして正しかったのか、大いに疑問です。  目の前の状況をリーダーがメタファーで語ることとは、世界観を提示することにほかなりません。そのことにリーダーはもっと自覚的であってほしいし、私たちもその使用に慎重に向き合わなければならないと思います。  【池上】そのいっぽうで、ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相は、「私たちに必要なのは思いやりです。みなさんにお願いしたいのは助け合うことです」と言いました。彼女にとってコロナへの対応は、戦争や闘いではなく、「思いやり」や「助け合い」によってなしうることだったのですね。これは大きな違いです。  「男は」とか「女は」とか言うつもりはありませんが、世界を見渡すと、マッチョなリーダーが戦闘モードを打ち出したところでは、コロナ対策はあまりうまくいかなかったように見えます。それに対してニュージーランドや台湾など女性がリーダーのところでは、比較的うまくいっている傾向があるのではないでしょうか。「戦争」というメタファーで表現した先に、何か綻びが生じるのではないかと私も思います。

■今こそ「人間的な深み」が求められる  【上田】ほんとうにそのとおりですね。「戦争」や「敵」というメタファーは、「敵と私とはまったく別物」とか「敵のせいで私は不利益を受けている」という、分断線に基づく表現ですよね。ところが人類史を振り返ってみれば、私たち人類の遺伝子にはウイルス由来のものが多いわけです。そしてその遺伝子がなければ人類が人類となっていないものもたくさんあります。例えば、人の胎盤にある特殊な膜のおかげで母親と胎児の血液型が異なっていても母子は共存できるんですが、その膜の遺伝子がウイルス由来のものだと最近分かったんです。となると、ウイルスに感染していなければ哺乳類も人類も生まれていなかったということになります。われわれは実はウイルス由来なんですよ。ウイルスはわれわれの外に存在しているとともに、既に我々の中にある。我々自身の一部でもあるわけです。  もちろんコロナウイルスの感染の予防、治療対策は重要です。しかしそもそもウイルスとは何かという生物学的な素養や、私とは何か、どこまでが私なのか、私の中にある他者も私なのではないかといった哲学的な深みのある教養があれば、単純な戦争や敵のメタファーには陥っていかないのではないか。こういう時だからこそ、私たちには人間的な深みといったものが求められているように思います。 ■「同調圧力」を利用して自粛を呼びかける政治家たち  【伊藤】日本でも、「戦争」のメタファーは使われてはいませんでしたが、お互いを監視する雰囲気や、感染者を攻撃するような空気を強く感じました。感染した人から「感染した自分が悪い」とみずからを責める言葉が出てくるのを聞くたびに、それほど思いやりのない扱いを受けているのかと、気持ちが沈みました。  【池上】自粛警察が出てきて、戦時下の隣組や江戸時代の五人組のような互いの監視が行われました。国の方針に従わないと非国民と謗(そし)る、あるいは他県ナンバーの車が入ってくると石を投げたり傷をつけたり、太平洋戦争中の日本での「非国民」を思わせる行為もショックでしたね。  麻生太郎副総理は、日本は他国に比べて民度のレベルが違うのでロックダウンしなくても感染拡大を防げるのだと言いましたが、それは要するに自粛しない者は非国民だという社会の空気によって、皆が行動を規制し合うことで結果的に感染拡大がなんとか抑えられているということが背景にあります。日本の政治家たちは、そうした同調圧力を前提にして、むしろそれを利用して自粛を呼びかけている、そういう面が次第に顕わになっていきました。

■日本のリーダーには言葉に力がある人が少ない  【上田】そうですね。東工大のリベラルアーツ教育が「自由にする技」を強調するのは、まさに日本社会の同調圧力が我々から自由を奪っているという、強い認識がありますよね。空気を読んでそれに従うだけでは「志」なんかいらないわけです。むしろ「志」なんか邪魔ですよね。そして自分の言葉を持つこともまったく要らなくなってしまいます。  【池上】日本のリーダーには、言葉に力がある人が少ないと思いませんか。菅義偉総理の会見を見ても、言葉で人を説得しようとか寄り添おうとか、そういうことが感じられません。官僚が書いた原稿を棒読みするだけです。菅総理だけではありません。日本の政治家のなかに、言葉に魂を込めて人を奮い立たせて、いろいろな困難を乗り越えていこうといった熱量をもった人は本当に見当たらない。なんとなく空気を読んで、阿(あ)吽(うん)の呼吸で渡ってきた人が多いからです。 ■失言を生み出す、“わきまえて”黙っている空気  【池上】政治家の失言を見ていると、周囲の人が何も言わず皆“わきまえて”黙っている空気の中から半ば自然と失言が生まれてくるものだとわかります。日本ではこれまで、リーダーがみずからの言葉の力を磨くことがおこなわれてこなかった、そういう場もなかったのだと私は考えています。  これからのリーダーはそれでは務まりません。海外のリーダーと対話もできない。西欧のリーダーが言葉を武器にする背景には、ギリシャ・ローマ時代からのリベラルアーツの伝統があり、多様な人種、多様なバックグラウンドや主義主張を持つ人々を説得し動かすには言葉を駆使するしかないという歴史の積み重ねがあります。日本では、これまでは多くを語らずとも伝わるという暗黙の了解が成立していたかもしれませんが、時代は変わり、そんな了解は通用しなくなりました。インターネットとグローバリズムによって社会が分極化し、負の側面をさらけ出していますが、社会がバラバラになり、人々の興味関心もどんどん多様になるほど、言葉の運用力が求められるのです。

———- 池上 彰(いけがみ・あきら) ジャーナリスト 1950年長野県生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHK入局。報道記者として事件、災害、教育問題を担当し、94年から「週刊こどもニュース」で活躍。2005年からフリーになり、テレビ出演や書籍執筆など幅広く活躍。現在、名城大学教授・東京工業大学特命教授など。計9大学で教える。『池上彰のやさしい経済学』『池上彰の18歳からの教養講座』など著書多数。 ———-

———- 上田 紀行(うえだ・のりゆき) 東京工業大学 リベラルアーツ研究教育院長 1958年東京都生まれ。文化人類学者。東京工業大学教授リベラルアーツ研究教育院長。東京大学大学院博士課程修了(医学博士)。東工大学内においては、学生による授業評価が全学1200人の教員中1位となり、2004年に「東工大教育賞・最優秀賞」(ベスト・ティーチャー・アワード)を学長より授与された。 ———-

———- 伊藤 亜紗(いとう・あさ) 東京工業大学 未来の人類研究センター長 1979年東京都生まれ。東京工業大学 科学技術創成研究院 未来の人類研究センター長、リベラルアーツ研究教育院教授。東京大学大学院博士課程修了(文学博士)。専門は美学。著書に『目の見えない人は世界をどう見ているのか』『どもる体』など。『記憶する体』はサントリー学芸賞を受賞。 ———-

カテゴリー
コロナ マスク 社会問題

テレ朝「モーニングショー」マスク未着用で乗車拒否された男が運転手暴行映像…玉川徹氏「運転手さん大変」

https://news.yahoo.co.jp/articles/cfcbbf617b48c9769a48ee713268b9c2325dac80

2021/8/20(金) 8:57 スポーツ報知

 テレビ朝日玉川徹氏が20日、コメンテーターを務める同局系「羽鳥慎一モーニングショー」(月~金曜・午前8時)にリモート生出演した。  番組では、18日午前5時過ぎ、東京・六本木交差点付近でマスクの着用をしていない男性3人組のタクシーへの乗車を運転手が拒否し、男性が運転手を小突くなど暴行した映像を放送した。  映像では運転手が乗り込もうとする3人組を「マスクないとダメです」と断ると、1人の男性が車を蹴り、運転手が降車し3人組へ抗議した。その後、男性に小突かれた運転手が警察へ通報。警官が駆けつけ、運転手と男性3人組は麻布警察署で事情を聴かれたという。  タクシーについては運送約款が変更され、昨年11月国交省に申請し認可されれば、正当な理由なくマスク着用に応じない客の乗車拒否が可能になった。被害にあったタクシーも断ることができる事業者のひとつで窓にシールを貼り着用を呼びかけていた。  番組の取材に被害を受けた運転手は弁護士に相談し来週にも警察に被害届を提出する方針で、車を蹴られた修理費用は20万円にのぼるという。  玉川氏は今回の問題に「六本木で夜中に飲んでいる人にマナーとか言っても通じないんでしょうね。六本木でそんなことが分かっている人間が…今、外で酒飲むわけないじゃないですか外で」とした上で「運転手さんは稼ぐためには、夜こそ一番の稼ぎ時なんでしょうからね。リスクは分かっているけど、行かざるを得ないっていう、運転手さんたちのつらい立場を一番感じました」とコメントした。  その上で「運転手さんたち大変だな、頭下がるなという感じです」と繰り返していた。

カテゴリー
コロナ ワクチン 社会問題

香港、韓国のワクチン接種証明書を認めず…米国・日本など36カ国は認定

https://news.yahoo.co.jp/articles/d7f00a4cdda839183b433e9d1396c6d0613dceb8

2021/8/20(金) 8:59 朝鮮日報

 香港政府が20日からの規定強化に伴い、韓国で発行する新型コロナワクチン接種証明書を認めないことを決めた。 ■韓国はコロナ時代に住みやすい国5位…TOP10は?

 駐香港大韓民国総領事館は19日、「香港政府が新型コロナワクチン接種証明書の認定基準を強化すると発表した」「強化された規定に基づき、20日0時から韓国で発行されたワクチン接種証明書は認められなくなる」と明らかにした。  観光客など香港に居住していない人々は韓国でワクチンを接種していても入国のため必ずビザを取得しなければならない。ビザを所持していないと入国が禁止される。入国後も3週間、香港政府が指定したホテルで隔離されることになる。  香港政府はデルタ変異株を遮断するため20日から入国制限措置を強化、香港・中国・マカオと世界保健機関(WHO)が認定する先進規制機関国家36カ国で発行された新型コロナワクチン接種証明書のみを認めることにした。  WHOが認める先進規制機関国家とは、オーストラリア・オーストリア・カナダ・ドイツ・日本・スイス・米国・ノルウェーなどだ。先進規制機関国家36カ国はWHO事務局と「エイズ、結核、およびマラリア撲滅のためのグローバル基金」が医薬品調達決定を案内するため開発された基準だ。選定基準は製薬関連の国家能力などで、新型コロナ流行が拡大しているかどうかやワクチン接種率などはあまり関係ない。  これを反映するかのように、香港政府は今回の強化措置でハイリスク国15カ国を新たに分類したが、これに韓国は含まれていなかった。逆に、先進規制機関国家の米国・フランス・スペインなどはハイリスク国に分類された。  韓国外交部関係者は「香港が一方的に韓国のワクチン接種者の隔離を免除していたのに、撤回したケースだ」「当初から香港でワクチンを接種した人々は韓国では隔離対象ではなかった」と説明した。