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社会問題

丸川五輪相「感染拡大の原因にはなっていない」五輪との因果関係を否定

https://news.yahoo.co.jp/articles/6601a2a2745f888d89ee48d53c3c588c8926d6b2?tokyo2020

2021/8/10(火) 12:42 日刊スポーツ

丸川珠代五輪相(50)が10日、閣議後の会見で、新型コロナウイルス感染拡大の中で開催した東京オリンピック(五輪)について「五輪が感染拡大の原因にはなっていない」と因果関係を否定した。 【写真】五輪代表選手の相次ぐコロナ感染に米衝撃 地元紙「東京でカオス」と報道開会式やソフトボール女子決勝などは非常に高い視聴率を記録した。多くの方にアスリートの活躍をご自宅で観戦いただけたのでは」と推測。さらに「9日時点で、組織委員会によるとコロナ陽性者は151人、入院した人は4人、重症者は出ていないと伺っている」などと、感染拡大の原因になっていない理由を説明した。 また、競技会場20カ所で弁当13万食が廃棄されたとの食品ロス報道についても言及。パラリンピックも控えているだけに「組織委にしっかりと説明していただきたいと思っている」と話した。 1年延期もあり、組織委は赤字確実といわれる費用負担の問題が今後、大きな課題となる。東京都や組織委らと協議するかどうかについて「まだパラリンピックがあるので、パラリンピックの状況をみていきたい」と、慎重な構えを見せた。「まず、どういうところが結果的に支出が多くなったのか、無観客になったことでどうなったのかなどの精査を組織委にしていただきたい」と話した。

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感染症ニュース 社会問題

五輪選手村で連日“野外パーティ”の乱痴気騒ぎ動画 組織委も警察も制御不能の呆れた実態

https://news.yahoo.co.jp/articles/c8d345b0b70097999820569cd8bf5fd8a6ed72ad

2021/8/3 デイリー新潮

「夜の選手村はもはや無法地帯です。連日、深夜まで外国人選手たちは野外パーティーで大騒ぎ。いつクラスターが発生してもおかしくない状況なのに、組織委は彼らをまったく制御できていません」。こう告発するのは、ある大会関係者である。「デイリー新潮」が独自入手した動画には、警察が出動する飲酒トラブルが発生した現場で、マスクもせず、”密”に踊る外国人選手たちの姿が映っていた。 【写真】大音量のラテンミュージックが流れるなか、酒を煽りパーティーを楽しむ選手たち。密着する男女も……  ***

深夜1時に聞こえてきた「ハッピーバースデー」

パラレルワールド」。こんな表現で例えられる東京・晴海の選手村。出島のような形をした区域は厳重なセキュリティに守られ、関係者以外は一切立ち入れない。  8月2日深夜0時。選手村の様子を伺おうと、運河を挟んでおよそ100メートルの距離にある「豊海埠頭」に行ってみた。右手にはレインボーブリッジが浮かぶ東京湾の夜景が広がる。埠頭一帯は静まり返っているが、耳をすましていると、潮風に乗って対岸から人声が聞こえてきた。 「オーオッ! オーオッ!」「イエーイ!」「キャハハハ」  時々、闇夜に響く口笛。明らかに複数の男たちが屋外で騒いでいる。30分くらい様子を窺っていると、「ハッピーバースデートゥーユー」の大合唱が聞こえてきた。どこから聞こえてくるのか場所を特定したいが、建物に隠れてよく見えない。逆側の豊洲市場のある対岸にも回ってみたが、やはり確認できなかった。 「対岸からは消防署などの施設が邪魔して見えません。ドローンを飛ばすか、レインボーブリッジから超望遠カメラを使うしかありませんよ」  こう語るのは、選手村の事情に詳しい大会関係者である。 「彼らが騒いでいる場所は、選手村の中の海に面した晴海埠頭公園のあたりです。マスコミが取材できないのをいいことに、一部の選手たちが、毎晩、ここでどんちゃん騒ぎを繰り広げているのです。野外パーティーは開会式から4、5日経った27日頃から始まりました。毎晩、深夜まで公園内の至るところで行われています。おそらく競技が終わった選手たちが中心になってやっているのでしょう。今大会は、競技が終わった選手は順次、48時間以内に選手村を出ていかなければなりません。外に出歩くこともできない彼らは、こうして東京の”ラストナイト”を楽しんでいるのです」

デリバリーで酒を入手

 確かに5年の月日を捧げた試合を終え、息抜きしたくなる選手たちの気持ちもわからなくはない。バブル方式が採られた今大会では、一部に違反者が出ているが、観光も禁止だ。せっかく異国にやってきたのに、競技会場と宿舎の移動だけで即帰国というのもかわいそうではある。  とはいえ、コロナ禍で行われた異例の大会なのだから仕方あるまい。組織委も、選手村の中での飲酒自体を禁じているわけではない。選手村内でもデリバリーなどで酒を購入することは可能。そのかわり「部屋の中で一人で」(前出の関係者)というのがルールだ。  だが、関係者が提供してくれた数十秒間の動画には、お目こぼしなどでは到底済まされない乱痴気騒ぎが映っていた。

大音量のラテン音楽に乗って密着する男女

 レインボーブリッジの夜景が広がる野外で、両手を振り上げながら楽しそうに踊る30人くらいの男女。大音量のラテンミュージックが流れ、みなノリノリだ。傍らにはビール缶や酒瓶。はっきり顔までは確認できないが、白人や黒人が入り交じってパーティーを楽しんでいる。密着しながら腰を振るカップルも。全員がノーマスクだ。 「これは7月31日深夜に撮影されたものです。この後ここで、最寄りの所轄である月島署が出動する飲酒トラブルが発生しました。騒ぎは新聞、テレビでも報じられましたが、真相とはかなりかけ離れている。組織委や警察が事態を矮小化して発表し、メディアもそれを鵜呑みにして、小さく扱っているような気がしてなりません」(同)  例えば、「FNNプライムオンライン」は「選手村・飲酒トラブル」についてこう報じている。 〈東京オリンピックの選手村で、外国人選手が関わる酒をめぐるトラブルがあった。7月31日午前2時ごろ、選手村の路上で、複数の外国人選手が酒を飲んで騒いでいて、大会関係者とトラブルになり、警察に通報があった。選手村での酒をめぐるトラブルで警察に通報があったのは初めてで、警察官が駆けつけると、選手たちはいなくなっていたという〉(8月1日)  だが、大会関係者は「こんな報じ方では、選手村で起きている実態がまったく伝わらない」と憤る。 「動画に映っていたパーティーは、厳密には公園の脇で行われていました。この日、この集団とは別に、公園の中でも100人くらい、各国の選手たちがいろいろなグループに分かれて、どんちゃん騒ぎをしていました。月島署が出動したのは午前2時ですが、午後10時くらいからずっと。組織委の警備関係者も、選手村の警備担当である大阪府警の警官たちも、周囲を守っているだけで注意すらしなかった末に起きたトラブルだったのです」(同)

選手が組織委スタッフの足首を捻挫させた? 

 なぜ大阪府警が現場にいながら、月島署の署員が駆けつける騒ぎになったのか。複数の報道によれば、騒ぎを注意しようとした組織委の警備関係者と選手との間で、小競り合いがあったようだ。その際、職員が足首を捻挫したとの一部報道もあるが、 日刊スポーツによれば、騒動が収まった後の移動中に負った怪我で、飲酒した選手との関係はないという。 「いずれにしても、事件化するような大ごとにはならなかったのでしょう。でも、それをいいことにこの乱痴気騒ぎは表沙汰にならず、不問にされてしまったのです。その結果、夜の選手村は無法地帯のまま。騒ぎが起きているのが夜間、警備担当の語学能力、そして何よりも縦割りの組織運営に原因があると思われますが、こんな体たらくでは感染拡大を防ぐために作った『プレーブック』など意味をなしません」(同)  確かに冒頭で紹介した、記者が対岸から耳にした様子は、警察沙汰が起きた二日後のことだ。警察の目など外国人選手たちは意にも介してないのだろう。「これでは、閉会式までにいつ大規模クラスターが起きてもおかしくない」と大会関係者は訴えるのである。

組織委は取材に回答せず

 組織委に、警察沙汰になったトラブルの詳細、野外パーティーに対する見解などを聞いたが、期限までに回答はなかった。  開会式のごたごたに続き、炎暑対策の不備など次々と問題が噴出してくる東京五輪。もはや組織委は機能不全に陥っているのかもしれない。

デイリー新潮取材班 2021年8月3日 掲載

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感染症ニュース 社会問題

入国後の待機期間に健康確認など応じず、日本人3人の氏名を厚労省が公表

https://news.yahoo.co.jp/articles/ca01f1c637497da9fd918537d49c1c712b3ffe15

2021/8/2 読売新聞オンライン

 新型コロナウイルスの水際対策として、海外からの入国後の待機期間中に求めている健康確認などに一度も応じず、誓約書に違反したとして、厚生労働省は2日、20~30歳代の日本人3人の氏名を同省ホームページで初めて公表した。 【図表】ファイザー製ワクチンの副反応、予想以上に年代間で差

 発表によると、3人はいずれも先月21日に韓国や米国から入国し、空港検疫では陰性だった。3人は熊本、埼玉、東京の3都県を待機場所として申請している。

 政府は今年1月、感染力の強い変異ウイルス対策で、全入国者に対し、検疫法に基づいて14日間、自宅や宿泊施設で待機するよう要請。待機期間中はスマートフォンのアプリで健康状態や位置情報の確認、ビデオ通話での連絡に応じるという誓約書の提出を求めている。この誓約書に違反すれば、氏名公表に踏み切ることや、外国人であれば強制送還される場合もあるとしてきた。

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感染症ニュース

自宅療養が3万人に急増 6都府県、10日余りで3倍に

https://news.yahoo.co.jp/articles/4e2f2e4de171dde47a1e9540203a954f6cb94da2

2021/8/2 KYODO

 緊急事態宣言が発令された6都府県で、新型コロナウイルスに感染して自宅療養している人が約3万人に上ることが2日、分かった。先月21日時点では約9千人で、わずか10日余りで3倍に急増した。感染力の強いインド由来のデルタ株による「第5波」で感染拡大に歯止めがかからないことが背景。自宅療養者がさらに増える可能性があるほか、医療提供体制の逼迫も懸念される。 政府、肺炎など中等症も自宅療養 原則入院を転換、重症者に限定

 緊急宣言下の埼玉、千葉、東京、神奈川、大阪、沖縄の6都府県が公表した、今月1日時点(神奈川は7月31日時点)の自宅療養者数をまとめた。6都府県の合計は3万275人。

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感染症ニュース 社会問題

入院患者以外は原則自宅 政府、宿泊療養を限定 感染増加地域

https://news.yahoo.co.jp/articles/edd30c6822606bf8869572c6ddb5906922e957c1

2021/8/2 毎日新聞

 新型コロナウイルス感染症への対応で厚生労働省は2日、感染者の多い地域では原則、入院対象者を重症患者や特に重症化リスクの高い人に絞り込み、入院しない人を原則自宅療養とすることを可能とする方針を公表した。東京都を中心に感染者数が急増し、医療現場が逼迫(ひっぱく)しているためで、宿泊療養も事情がある場合などに限定する。 【世界の5つの変異株】感染力、ワクチンの有効性は  これまで「原則」だった入院や宿泊療養が自宅療養に変更され、事実上の方針転換になる。重症化リスクの高い高齢の感染者の減少や、デルタ株の広がりに伴う感染者増を背景に、病床逼迫を避ける狙いがある。ホテルなどでの宿泊療養も「家庭内感染の恐れや事情がある場合に活用」と対象者を絞り込むことになる。  ただ、入院となる「重症化リスク」の基準などは明示されず、自治体など現場の裁量に委ねられ、線引きでの混乱も予想される。政府関係者は「このままではベッド、宿泊療養施設の数が足りなくなる」と語った。  今後、中等症患者をはじめ、自宅療養者の状態の把握や容体の急変への対応が課題となる。自宅療養者の把握についてはパルスオキシメーターの配布や自宅療養者への往診、オンライン診療などを通じ強化する。そのため、自宅・宿泊療養者への往診について、医療機関の収入となる「診療報酬」を加算。同時に、症状が悪化した場合は速やかに入院できる体制を確保するとしている。重症化を防ぐ治療薬「抗体カクテル療法」についても50代以上や基礎疾患がある人、在宅患者に活用を進める構えだ。  菅義偉首相は2日夕、西村康稔経済再生担当相らと関係閣僚会合を開き、「感染者数が急増する中で医療提供体制を機能させることが最大の課題」と述べた。  確保病床の利用率は1日現在、東京都で49%のほか、埼玉57%▽千葉53%▽神奈川52%▽大阪36%――と首都圏を中心に高まっている。

【神足俊輔、川口峻】

◇  本記事では、当初「重症者については入院のための病床を確保するが、中等症や軽症者に関しては自宅療養を基本とする内容」としていたのを「入院対象者を重症患者や特に重症化リスクの高い人に絞り込み、入院しない人を原則自宅療養とすることを可能とする方針」と修正しています。取材の過程で、中等症の人を一律自宅療養とするわけではないことが判明したためです。

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感染症ニュース

接種70%でも集団免疫は困難との見通し 尾身氏が発言

https://news.yahoo.co.jp/articles/fe895139e37ef977f61ac06cf52beadf869ba58b

2021/7/29 朝日新聞DIGITAL

 免疫をもっていない人にも予防効果が及ぶ「集団免疫」について、政府の新型コロナ分科会の尾身茂会長は29日、衆院内閣委員会の閉会中審査で、「仮に国民の70%に(ワクチン接種を)したとしても、残りの30%の人がプロテクトされることでは残念ながらないと思う」との見解を示した。 【データで見るコロナワクチン】日本の接種状況は? 都道府県の状況も一目でわかる  理由として、尾身氏は「直面しているデルタ株(インドで確認された変異株)の感染力が強いので、30%の人々の中で伝播(でんぱ)が継続する」と話した。  さらに、ワクチン接種後の免疫の持続期間については「数カ月後ぐらいになると、だんだん減少してきて、また感染するということがある」とも述べた。  新型コロナの場合、初期の分析から試算すると、少なくとも人口の6~7割の接種率が必要と考えられている。菅義偉政権はワクチン接種を「切り札」と位置づけるが、尾身氏の発言は、感染力の強い変異株が広がるなかでは不十分だとの認識を示したものだ。  実際、国民への接種が進む英国でも、感染者数が再び増えている。

朝日新聞社

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感染症 社会問題

ウィズコロナ時代が見えてきた ~英国で社会実験、マスク着用など継続か?~

https://news.yahoo.co.jp/articles/77a090326c15a6df3d55a697b1a0bfb4e21ea9aa

2021/7/29 JIJI.COM

 7月以降、日本だけでなく世界的に新型コロナウイルスの感染が再燃しています。これはインド由来のデルタ型変異ウイルスの流行拡大によるものです。デルタ型は従来のウイルスに比べて感染力が強いだけでなく、重症化も起こしやすいという報告が見られています。その一方で、デルタ型には日本で使われているファイザー社やモデルナ社などのワクチンが有効なようです。このため、世界的に感染者数は増加していますが、ワクチン接種が進んでいる国では死亡者数の増加が抑えられています。この「感染者は多いが死亡者は少ない」という状況は、今後のウィズコロナ時代を予測するための鍵になるかもしれません。今回はデルタ型の流行状況から垣間見える、コロナウイルスとの共存について解説します。

 ◇デルタ型の世界拡大

 デルタ型の変異ウイルスは2020年10月ごろにインドで初めて見つかりました。2019年12月に中国で新型コロナウイルスの流行が発生してから、ウイルスは何回も変異を起こしており、2020年秋には英国由来のアルファ型や南アフリカ由来のベータ型とともに、このデルタ型も誕生しました。ヒトに感染したばかりのウイルスは、変異を繰り返しながら、ヒトの体内で増殖しやすいタイプが主流になっていきます。これが2021年5月ごろまではアルファ型で、日本で見られた第4波の流行も、この変異ウイルスによるものでした。  ところが、同年4月にインドでデルタ型が大流行を起こしてからは、この変異ウイルスが世界的な拡大を始めたのです。7月中旬に世界保健機関(WHO)が発表したデータでは、世界124カ国で流行が確認されており、東京でも7月から起きている第5波がデルタ型によるものです。  WHOの報告では、デルタ型は今までのウイルスに比べて感染力が強く、感染者の体内でも増殖しやすいとされています。ある調査では、デルタ型の感染者から従来型より約1000倍も多いウイルスが排出されていました(WHO 2021年7月20日)。  このように7月末の時点では、デルタ型が世界制覇を果たしている状況ですが、今後、ウイルスはさらに変異を繰り返し、ヒトの体内で増殖しやすいウイルスに置き換わっていくことでしょう。

 ◇二つの流行パターンに

 世界的な新型コロナの流行状況を見ると、2021年5月ごろから、ワクチン接種が広がった効果で新規感染者数は減少していました。しかし、6月末からデルタ型の拡大により再び増加傾向になっています。  地域別では、今まで流行が抑えられていた東南アジアで感染者数が増加しており、特にインドネシア、マレーシア、タイ、ベトナムなどで急増しています。また、ワクチンで流行が収束しつつあったヨーロッパ諸国や米国でも感染者数が増加しており、中東やアフリカでも流行再燃が起きています。  このようにデルタ型の流行が拡大している国は数多くありますが、それを二つのパターンに分けることができます。  第1のパターンは、感染者数が増加しているにもかかわらず、死亡者数が増えていない国。例えば、英国やスペインなどヨーロッパの国々がこのパターンになります。米国も7月から流行の再燃が見られていますが、死亡者数はあまり増えていません。日本も第5波の流行で感染者数が急増している中、死亡者数には大きな変化が見られていません。  第2のパターンは、感染者数が増加するに従って、死亡者数も増えている国です。これには、東南アジアや中東の国々、さらにはロシアや南アフリカが入ります。

 ◇ワクチン接種状況の違い

 こうしたパターンの違いには、ワクチンの接種状況が影響していると考えられます。第1パターンの国々では、国内でワクチン接種が進み、デルタ型に感染しているのは未接種者や接種途中の人が中心になっています。特に重症化を起こしやすい高齢者は接種を完了しているので、死亡者が少ないのです。接種を受けている人がデルタ型に感染することも時にありますが、重症化は抑えられています。  日本ではワクチンを完了している人が約20%とまだ低いのですが、高齢者はほぼ終了しているため、重症化する人はあまり多くありません。その結果、死亡者数も少なくなっているのです。  一方、第2パターンの中には、ワクチン接種率が1割にも満たない国が多く、また、接種率が高かったとしても、中国製やロシア製などのワクチンを使用している国が見られます。例えば、ロシアは接種を完了した人が約15%いますが、自国で開発したワクチンを使用しています。また、東南アジアや中東では、主に使用されているワクチンが中国製です。中国製もロシア製も、従来型のウイルスには一定の効果が確認されていますが、デルタ型についてはほとんど評価されていません。効果が弱くなっている可能性もあるのです。

 ◇感染者増でも重症化を抑えること

東京五輪の開会式で入場行進を終え、記念撮影する各国選手団=7月23日、国立競技場

 このように、ファイザー社やモデルナ社など、デルタ型に一定の効果が確認されているワクチンを接種しておけば、感染者が増えたとしても、重症者の急増は抑えられ、医療の崩壊を防ぐことができます。そして、最終的には死亡者の増加を抑えることになります。  こうしたワクチンによる制圧を図る場合に考えなければならないのは、ワクチンがどれだけの期間、効いているかという点です。現在までの知見では、効果は半年~1年と見られており、それを越えると追加接種が必要になるでしょう。もう一つ懸念されるのは、ワクチンに抵抗性の変異ウイルスが、今後、誕生する可能性です。これに備えるには、常に変異ウイルスの動向をモニターし、ワクチンに抵抗性のウイルスが出現すれば、新たなワクチン製造を開始することです。ファイザー社やモデルナ社のmRNAワクチンであれば、ウイルスの変異に応じて、新しいワクチンを迅速に開発することができます。

 ◇ウィズコロナのためのチャレンジ

 変異ウイルスが次々に誕生している状況を考えると、新型コロナウイルスの流行を完全に終息させることは恐らく困難でしょう。それであれば、インフルエンザの流行と同じように、新型コロナの流行と共存することを考えるべきです。  そのためには、ワクチン接種を中心にした戦略を練ることになりますが、同時にマスク着用やソーシャルディスタンスなど、生活面の注意も続ける必要があるのでしょうか。この答えを出すために、英国では今年の7月中旬から多くの生活面での制限を解除しています。このチャレンジの結果が明らかになるには、もうしばらく時間がかかるでしょう。  日本はワクチン接種率がまだ低い上に、東京五輪という大きなイベントの最中にあります。今はワクチン接種を進めるとともに、引き続き生活面の注意を継続することが必要です。特にデルタ型は若年者にも重症化を起こすことがあるため、油断は禁物です。もうしばらくは緊張した日々を送らなければなりません。(了)

 濱田 篤郎 (はまだ あつお) 氏

濱田 篤郎 特任教授

 東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授。1981年東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学留学。東京慈恵会医科大学で熱帯医学教室講師を経て、2004年に海外勤務健康管理センターの所長代理。10年7月より東京医科大学病院渡航者医療センター教授。21年4月より現職。渡航医学に精通し、海外渡航者の健康や感染症史に関する著書多数。新著は「パンデミックを生き抜く 中世ペストに学ぶ新型コロナ対策」(朝日新聞出版)。

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ワクチン 感染症ニュース

コロナワクチンの「接種後感染」、重症化は極めてまれ、米CDC

https://news.yahoo.co.jp/articles/8150b80b1c0978d4aa55958b7bae37d276bb5a68

2021/7/28 NATIONAL GEOGRAPHIC

米疾病対策センターがデータを発表、ワクチンはデルタ株にも依然有効

米カリフォルニア州サンタモニカのAppleストア内で、新型コロナ感染予防のためにマスクを着けて順番を待つ人々。専門家は、ワクチンの接種を完了してもマスクを着けてウイルスを防ぐよう推奨している。(PHOTOGRAPH BY GENARO MOLINA)

 米国ワシントンD.C.の国会議事堂から東京のオリンピック選手村まで、ワクチン接種を済ませた人々の間で新型コロナ検査の陽性例が出ていることから、いわゆる「接種後感染(ブレイクスルー感染)」への懸念が高まっている。それにともない、新たな変異株へのワクチンの効果や、効果の持続期間などが取り沙汰されるようになった。 ギャラリー:腸チフスのメアリーから不遇の天才医師まで「感染症、歴史の教訓」 画像20点  米国内でブレイクスルー感染がどれほど起こっているかは、正確には判断できない。なぜならデータは不完全で、一貫した追跡調査も行われていないからだ。しかし、米疾病対策センター(CDC)がこのたび発表した7月19日時点のデータによると、重いブレイクスルー感染が起こる割合は極めて低い。  1億6100万人を超える米国内のワクチン接種完了者のうち、新型コロナ検査で陽性だった入院および死亡例の報告は5914件であり、これはワクチン接種を完了した人の0.004%未満だ(編注:ほかの疾患で入院または死亡し、検査の結果陽性が判明した例も含む)。  一般に「ブレイクスルー感染」とは、ワクチンを適切に接種した人々が新型コロナに感染した例(無症状例含む)を意味し、「ブレイクスルー疾患」は、そのうち体調が悪くなった例を指す。疾患にまで至るのは、ワクチンで強い免疫が得られない場合、免疫が時間とともに低下した場合、もしくはワクチン接種によって得られた抗体を避けるように進化したと思われる株にさらされた場合だと、ニューヨーク、ロックフェラー大学の臨床医科学者ロバート・ダーネル氏は述べている。  100%有効なワクチンというものは存在しない。ブレイクスルー感染や疾患はどんな病気でも起こり得る。なぜならウイルスは常に進化しており、インドで最初に報告され、現在は米国の新規感染例の83%を占めるデルタ株のような、ワクチンを回避する能力が高い新たな株が登場するからだ。  それでも、米国で認可されているワクチンはどれも、新型コロナ感染症による入院や死亡のリスクを大幅に軽減してくれる。現在新型コロナで入院している患者の97%以上はワクチンを接種していない人たちだと、CDC所長のロシェル・ワレンスキー氏は言う。 「感染者の割合は、ワクチンを接種していない人の方が圧倒的に高く、接種済みの人は低いという状態が続いています。接種した人も感染するというのは、単にゼロではないという意味です」と、テキサス、ベイラー医科大学の感染症内科医ステイシー・ローズ氏は述べている。 「わたしが懸念するのは、ブレイクスルー感染があるならワクチンを受けてもしょうがないという印象を人々が持ってしまうことです。ワクチンを接種すれば、たとえそれがデルタ株であっても、新型コロナに感染するリスクを下げてくれるのは事実です」

ブレイクスルー感染例の把握が難しい理由

 CDCは当初、軽症や無症状のブレイクスルー感染の報告も集めていたが、その方針を5月に変更し、ブレイクスルー感染による入院または死亡例のみを対象とするようになった。  ブレイクスルー感染に統一された基準がなければ、感染者数の確認は、州、病院、個々の施設などそれぞれのやり方に委ねられる。そのせいで、各ワクチン間での比較が難しくなったと、カリフォルニア大学サンディエゴ校の感染症内科医・病院疫学者のフランチェスカ・トリアーニ氏は言う。  施設によっては、無症状例の検査を行っている。その一方で、症状がある場合のみ検査をする施設もあるが、その基準でさえ施設によって異なる。  また、ワクチン接種率が低く、感染率が高い地域ではブレイクスルー感染が起こりやすい。各自の行動や免疫が原因で、そもそもより感染しやすい人々もいる。こうした条件の違いがあると、ワクチンの効果の比較は難しくなる。  そして、ワクチン未接種で感染の可能性が高い人たちが一定数いるという状態は、コロナウイルスに対し、今後もワクチンを回避できるよう進化するチャンスを与え続けてしまう。 「全員がワクチンを接種すれば進化は起こらず、ウイルスは去っていくでしょう」とダーネル氏は言う。「ワクチン接種は、麻疹(はしか)を基本的に根絶させ、ポリオ(小児まひ)をほぼ根絶に追いやった手段です。それはコロナでも可能です。この状態に終止符を打てるのです」  7月22日付けの医学誌「New England Journal of Medicine(NEJM)」に、医療従事者、救急隊員、現場作業員ら、定期的に検査を受けている約4000人のうち、204件の感染例があったという論文が発表された。感染者のうちワクチンの接種を終えていたのはわずか5人(2.4%)だった。

ワクチンによる差はあるのか

 一部のデータや記事では、特定のワクチンが、特に新たな変異株に対して効果が低いことが示唆されている。しかし、情報は急速に変化しており、変動する要素が多く、データも不完全なことが多いと、ダーネル氏は言う。  多くの州が州内におけるブレイクスルー感染例をカウントしているものの、地域レベルであっても、データはワクチンの種類別に記録されているわけではないと、ワシントン州保健局の広報担当者テリーザ・マッカリオン氏は言う。また、接種スケジュールのばらつきや、各ワクチンを接種した人の数や集団の違いといったさまざまな要因が、統計の処理を難しくする。 「ワクチンの種類別のデータを示すことはしません。なぜなら、ブレイクスルー感染は現在承認されている3つのワクチンすべてに関連が見られるからです」とマッカリオン氏は言う。「それが、ブレイクスルー感染の数をワクチン間で直接比較することを難しくしています」  ワクチンの種類別のブレイクスルー感染に関する一貫したデータがないことから、一部の研究者は、別の方法でワクチンの有効性を調査している。  まだ査読前であるものの、7月21日付けで論文投稿サーバー「bioRxiv」に、ある研究結果が発表されて注目を集めた。ジョンソン・エンド・ジョンソン社のワクチンを1回接種した10人と、ファイザー社のワクチンを2回接種した17人の血液サンプルを分析したところ、前者の方が、デルタ株を含む新規変異株に対する抗体の反応が弱かった。  この研究はニューヨーク・タイムズ紙をはじめメディアで大きな話題となったが、サンプルが少ないこともあり、結論を出すには早すぎるとダーネル氏は言う。ほかの研究ではこれと相反する結果が出ているとも、氏は付け加えている。  2021年3月に行われた、カリフォルニア大学サンディエゴ校およびロサンゼルス校で定期的に検査を受けていた1万5000人近くの医療従事者の分析では、ワクチン接種から15日以上経過した後、検査で陽性を示したのはわずか7人であり、陽性率は0.005%だったと、トリアーニ氏らは5月6日付けで「NEJM」に発表している。  サンディエゴ校では現在、デルタ株が主流となっているが、ブレイクスルー感染はワクチンを接種していない人たちが感染した場合に比べるとはるかに症状が軽く、回復も早いという。ワクチンを接種した人の入院は極めてまれであり、死亡した例もない。  デルタ株には警戒が必要だ。デルタ株はどうやらあらゆるワクチンを回避する能力にすぐれており、また、米国内でブレイクスルー感染者の周りで感染者が増加しているという事実は、ワクチンを接種した人たちもウイルスを感染させる可能性があることを示していると、ダーネル氏は言う。そして、デルタ株はとりわけ感染力が強い。  それぞれのワクチンに違いはあっても、正確な比較にはさらなる研究が必要だ。ダーネル氏は言う。「産業界の企業と学術界の臨床医科学者とが協力できれば非常に有益でしょう。われわれにはもっと科学が必要なのです」  データが蓄積されるのを待つ間、子どもや免疫系が弱い人たちを含むあらゆる人を守るうえで、ワクチン接種が最善の方法であることに変わりはないと、ローズ氏は言う。  ワクチンを接種することの方が特定のワクチンを選ぶことよりも重要であり、「どのワクチンも優秀です」とトリアーニ氏は指摘する。

文=EMILY SOHN/訳=北村京子

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感染症ニュース

都内の感染最多「高齢者の割合低い」 局長が異例の説明

https://news.yahoo.co.jp/articles/a28e04e5b6b46f85897805f436d6adbdf0115d78

2021/7/28 朝日新聞DIGITAL

 東京都で27日、新型コロナウイルスの感染者が過去最多となる2848人確認されたことを受け、都の吉村憲彦福祉保健局長が同日夜、記者団に説明する場を設けた。吉村局長は、重症化しやすい高齢者の感染が減っていることなどを挙げ、「第3波のピークとは感染状況の質が違う。医療に与える圧迫は違うと考えている」と述べた。 【写真】東京都の新規感染者数の推移  1日あたりの新規感染者数をめぐって、担当局長が取材に応じるのは異例。  吉村局長は、第3波で感染者数がピークとなった1月7日(2520人)では全体の14%を占めた60代以上の感染者が、7月27日には5%まで減ったと強調。「医療提供体制がにっちもさっちもいかなくなって、死者がばたばた出ることは現状ないと思っている。いたずらに不安をあおるようなことはしていただきたくない」と訴えた。 ■「五輪、大きな影響あるとは考えず」  病床が逼迫(ひっぱく)した第3波では、高齢の感染者の入院先が見つからず、自宅待機中に亡くなるケースも相次いだ。

朝日新聞社

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ワクチン

鼻で吸うコロナワクチンが臨床試験へ、高い効果が期待されるこれだけの理由

https://news.yahoo.co.jp/articles/fe45753b1848d5740f6637345a0e05d66782477b

2021/7/27 NATIONAL GEOGRAPHIC

注射器不要のうえ腕への接種より効果的、「一石二鳥」と専門家

研究者たちは、経鼻ワクチンが新型コロナウイルスの感染をどの程度防ぐことができるかを調査している。(PHOTOGRAPH BY RJ SANGOSTI, THE DENVER POST, GETTY IMAGES)

 現行の新型コロナウイルスワクチンは、重症化や死亡を防ぐ効果に優れ、変異型のウイルスに対してもかなりの防御力を発揮する。しかし、感染を100%防げるわけではない。そこで科学者らは、より強力で長続きする免疫をもたらす新しいワクチンの投与方法を模索している。有望な方法の1つは、腕に注射する代わりに、鼻の中に噴霧する「経鼻ワクチン」だ。 ギャラリー:人類が地球を変えたと感じる空からの絶景 写真23点  免疫学者によると、経鼻ワクチンはウイルスが鼻や上気道の粘膜を介して自然に感染する方法に近いため、より優れた予防効果が得られる可能性がある。どこから投与するかは、免疫反応に違いをもたらすのだ。現在、鼻腔スプレーによって投与される6種の新型コロナワクチン候補で第1相臨床試験が行われている。 「持続的かつ長期的な免疫反応を起こしたいのであれば、局所的にワクチンを接種する必要があります」と話すのは、米ハーバード大学で腸や鼻の粘膜組織における免疫を研究する免疫学者、ホセ・オルドバス・モンタニェス氏だ。  腕にワクチンを打てば、抗体やT細胞(病原体に感染した細胞の除去や免疫の調整などを担う重要な免疫細胞)が血管全体に分布するような、全身的な規模での免疫を作り出す。だがこの方法では、免疫細胞がウイルスの侵入箇所に集中しないため「最適ではない」という。  一方、経鼻ワクチンは、上気道や、可能性としては肺の免疫も大幅に向上させ、局所的な抗体の反応やT細胞の応答を引き起こす。おかげで免疫細胞は、ウイルスが到着してすぐにそれを捕らえ、破壊できるようになる。 「大きな利点は、感染部位で免疫を生み出すところだと思います」と米コロンビア大学の免疫学者、ドナ・ファーバー氏は語る。「ウイルスが入ってくる場所にこそ免疫が必要です」  腕への接種は、体の芯から外側に向かってワクチンを行き届かせるようなものだ。まず体全体で免疫を作り、その抗体の一部が気道や鼻腔に流れ込む。しかし、鼻腔スプレー方式はその逆で、免疫力が高まるのは感染部位が先、他の部分が後だ。「基本的に一石二鳥です」と米アイオワ大学の小児呼吸器科医ポール・マックレイ氏は話す。  マックレイ氏らは、経鼻ワクチン候補をマウスやフェレットに1回投与するだけで重症化を防げるという論文を、7月2日付けで学術誌「Science Advances」に発表した。7月中には米国内の3つの施設で、18~75歳の健康な成人80人を対象に臨床試験を開始する予定だ。また、7月19日~23日に開催された米国ウイルス学会の年次大会で、米メイッサ・ワクチン社は、同社の新型コロナ用の経鼻ワクチン候補をアフリカミドリザルに1回投与したところ、有望な結果が得られたと発表した。

より実用的なワクチンを目指して

 粘膜をターゲットにしたワクチンは新しいものではない。承認されている経口ワクチンは、ポリオ(小児まひ)用やコレラ用など数多くある。経鼻ワクチンが呼吸器系の免疫を強めるように、経口ワクチンは腸管の粘膜組織の免疫を強める。  経口生ポリオワクチンをはじめ、経口ワクチンは多くの場合、注射よりも効果がある。しかし、経鼻ワクチンはワクチン全体の中ではまだ珍しい存在だ。今回の新型コロナのパンデミック(世界的大流行)でその状況が変わることを期待している人は多い。 「新型コロナによって、今まで目の前にありながら目立たない存在だったものが、加速度的に開発されるようになりました」と米ワシントン大学の遺伝子治療研究者、デビッド・キュリエル氏は語る。氏は、アカゲザルに経鼻ワクチンを投与したところ良好な免疫反応が得られたという研究結果を、3月17日付けで学術誌「Cell Reports Medicine」に発表した。  また氏は、接種が簡単になることがこの手のワクチンのもう一つの利点だと指摘する。医療システムが確立されていない国々では特に大きなメリットだ。  現在承認されているワクチンは非常に有効だが、世界中の全人口に接種するには量が足りない。一方で、パンデミックは収束にはほど遠く、特にインドや一部のアフリカ、南米の国では深刻だ。注射針は供給不足になる可能性があるが、それを使わずにすむことは有利に働くだろう。新型コロナワクチンは、経鼻や経口ワクチンによる「粘膜免疫」の新たな時代をもたらすかもしれない。

組織に“定住”している免疫細胞

 免疫系の話になると、多くの人は血液を思い浮かべるだろう。免疫細胞は、血管内をパトロールして侵入者を探す監視員に例えられる。しかし、過去10年以上の間に免疫系に関する理解が進んだ結果、多くの免疫細胞は組織の中にあることがわかってきた。  例えば、T細胞の95%以上は組織や臓器に“定住”し、皮膚、腸、脳、肝臓、肺にそれぞれ異なる集団が存在する。主に抗体をつくるB細胞やT細胞と同じリンパ球の仲間であるナチュラルキラー細胞(NK細胞)のうち、子宮NK細胞は妊娠中に子宮の組織の再構築を担う。また、ミクログリアと呼ばれる免疫細胞は脳にあるが、決して血管内に入ることはない。胎児期の早い段階で中枢神経系に移動し、個体が生きている間、ずっとそこに留まる。  このような組織に特異的な免疫細胞は、病原体を記憶するだけでなく、その病原体が最初に体内に侵入した場所も記憶しているので、ワクチンにとっては好都合だ。  免疫系はこのような“インプリンティング(刷り込み)”と呼べるような洗練された方法を身に付けたのだと、ハーバード大学の免疫学教授、ウルリッヒ・フォン・アンドリアン氏は説明する。氏は、特定の病原体が体内に侵入した場所を免疫系が記憶していることを、マウスを使って初めて実証した研究者だ。  免疫系が新たな脅威に対して活性化するのは、「抗原提示細胞」と呼ばれる特殊なマクロファージなどの細胞が、体内に散らばったウイルスの小さな断片を拾い上げ、T細胞に提示したときだ。いわば免疫系による“インテリジェンス・ブリーフィング(情報説明)”だ。  これはリンパ節で行われる。リンパ節は全身に存在するが、特に首、脇の下、そして鼠径(そけい)部(太ももの付け根のお腹側)に多い。提示で伝えられる内容には、特定の脅威についてだけでなく、それが最初に発見された場所の情報も含まれていることを、フォン・アンドリアン氏は画期的な実験で示した。  2003年に氏らが行った実験では、マウスから取り出したT細胞を別々のシャーレに入れ、それぞれリンパ節、皮膚、腸から採取した抗原提示細胞と混ぜ合わせた。約1週間後、T細胞を再びマウスに注入すると、腸の抗原提示細胞から情報を提供されたT細胞は、すぐさま腸へと戻った。そして、長い間そこに留まり、侵略に備えていた。  フォン・アンドリアン氏によると、病原体と最初に遭遇した部位へ移動する方法をT細胞が教わるのもリンパ節だ。鼻の組織に最も近いリンパ節は首にあり、ワクチンを打つ場所である腕につながるリンパ節は「町内の別の地域」にあるようなものだという。 「感染症にかかったら、鼻腔内の粘膜表面が感染し、まず上気道のT細胞や免疫系が準備します。その後、これらの細胞はその場に留まり、常駐して、番兵のように機能することになります」。そう話すのはスウェーデン、カロリンスカ研究所の免疫学者で、T細胞を研究しているマルカス・ブッゲルト氏だ。「腕にワクチンを接種しても、そのようなT細胞応答は得られません」

文=MONIQUE BROUILLETTE/訳=桜木敬子