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ワクチン接種でも陽性、スポーツ界に新たな難問

https://news.yahoo.co.jp/articles/be383629a4421e46428986388ae7fb97b760ccce

2021/6/27(日) 11:32 ウォール・ストリート・ジャーナル日本版

 米プロバスケットボール協会(NBA)のスター選手、ゴルフの全米オープン選手権優勝者、ウガンダの五輪コーチ――。彼らはスポーツイベントの主催者に新たな頭痛の種をもらしているという点で共通している。新型コロナウイルスワクチンを接種しているにもかかわらず、検査で陽性反応が出たのだ。  スポーツ選手はパンデミック(世界的大流行)を通じて、地球上で最も頻繁に検査を受けており、コロナに関する数々の理論について生々しい実例を提供してきた――時には、それらを証明する上で一助ともなった。  選手らの実例から分かってきたのは、コロナウイルスとこれまで確認されている変異株による死亡や重症化を防ぐ上で、ワクチンは極めて有効である一方、感染そのものの予防効果という点では確実とは言えないということだ。  ワクチン接種後に陽性となる「ブレークスルー感染」が起きた選手の大半は無症状だ。スポーツ界の関係者が徹底した検査の対象として順位が低かったとしたら、感染は気付かれなかったかもしれない。  こうした想定外の陽性反応は、巨大イベントの主催者にとって大きな問題となる。夏季五輪のケースで言えば、日本だけにとどまらず、参加200カ国・地域にとっても感染流行を招きかねない。第一、競技中に大混乱を招くだろう。  また、選手に対しては、ワクチンを接種していれば出場禁止になる陽性は出ないだろうと言われてきたが、こうした主張も難しくなる。スポーツ界の指導者らは目下、さまざまな問いに取り組まなければならない。ワクチン接種後に陽性反応となった選手は、他人への感染力があるのか? 彼らとの濃厚接触とはどのような意味があるのか? 人生最大のイベントから、誰を出場停止とするのか?  これまで匿名の米陸上競技選手1人、オレゴン州ユージンで行われた東京五輪の米国代表選考会に参加していた別の1人、東京入りしたウガンダ五輪代表団のメンバー2人などがワクチン接種後に陽性となった。  また米大リーグ機構(MLB)のニューヨーク・ヤンキース関係者やプロゴルフのジョン・ラーム選手、NBAのスター選手クリス・ポール氏もワクチン接種後に陽性となった。5月には、ヤンキースの少なくとも9人(選手・コーチ・スタッフ含む)が陽性となった。9人はすべて3~4月にかけて、1回で接種が済む米ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)製のワクチン接種を受けていた。J&Jのワクチンは、接種後少なくとも28日で、中等症から重症の疾患について66.1%の予防効果が示されている。  ラーム選手は6月初旬に開催されたメモリアル・トーナメントの数日前にJ&Jのワクチンを接種していた。第3ラウンドをプレー中、第2ラウンド終了後に受けた検査で陽性だったことが発覚。ラーム選手はラウンド終了後、全国テレビの中継中に全米プロゴルフ協会(PGA)の医療顧問から陽性結果を告げられた。勝利はほぼ確実とみられていた中で棄権を余儀なくされ、170万ドル(約1億8900万円)近い賞金も逃した。だが、その2週間後には、検査で陰性となり、全米オープンを制した。  1回で接種が完了するワクチンは、特にスポーツ選手に人気だ。大事な場面でパフォーマンスに副反応による影響が出ないよう、前もって計画しやすいためだ。  2回の接種が必要なワクチンは総じて、一段と高い予防効果を示している。米ファイザーと独ビオンテックが共同開発したワクチンはコロナウイルス感染症の発症予防で95%の効果を示した。モデルナも大規模な治験で、特定のコロナの症状(重症含む)について、94.1%の予防効果が確認された。米疾病対策センター(CDC)はファイザーとモデルナのワクチンについて、2回目の接種から2週間後の感染リスクの低減効果は90%だとしている。  これまでNBAでは、少なくとも2件の顕著なブレークスルー感染があった。直近はフェニックス・サンズのスター選手で、NBA選手会の会長を務めているクリス・ポール氏だ。NBAの指針によってウェスタン・カンファレンス・ファイナル(西地区決勝)で最初の数試合に出場できなかった。ポール氏はワクチン接種を済ませていたが陽性反応が出ており、無症状のままだと伝えられている。  ウガンダ五輪代表団からは2人の陽性が発覚した。ウガンダの五輪委員会によると、2人と他のメンバー7人は英アストラゼネカのワクチンを2回接種していたとしている。  アストラゼネカが公表したデータでは、コロナの発症予防で76%の効果があったことが示された。  ウガンダの五輪委は、2回目の接種時期など、追加の問い合わせについて応じていない。  接種のタイミングも要因になり得る。一般には、2回目の接種から2週間後に完全な予防効果が期待できると考えられている。だが、一部の国・地域は、五輪出場選手にようやくワクチンが行き届き始めた状況だ。  選手らはまた、重要なトレーニングや、まさに今行われている最中の選考会のスケジュールを考慮してワクチンの接種時期を決めなければならない。オーストラリアの飛び込み選手は、副反応を避けるため、選考会の数週間前に1回目を接種し、2回目は選考が決まった後の6月初旬まで先送りした。  だが、うまくワクチン接種の時期を手配することは厄介な作業だ。フィリピンの体操連盟は、種目別床運動で金メダル候補のカルロス・ユーロ選手のために、6月初旬からワクチンの確保を急いだ。同連盟のシンシア・カリオンノートン会長は当初、「彼の健康状態は完璧なので、何であれ医薬品やワクチンを体内に入れて問題を起こしてほしくない」などとし、接種に消極的な姿勢を示していた。  だが、カリオンノートン氏は、コーチと協議した結果、考えを改めたという。「選手は毎日検査され、陽性となれば出場できなくなる見通しで、これまでのトレーニングが水の泡になるとコーチから言われた」  だが問題はそこでは終わらなかった。フィリピン選手団は本国で集団接種したが、ユーロ選手はすでに日本でトレーニングを行っていた。日本で接種するとなれば、フィリピン大使館や複数の高官が関わる必要がある。カリオンノートン氏によると、五輪開幕まで1カ月を切った6月下旬時点で、ユーロ選手のワクチンはまだ確保できていない。 [訂正]第6段落目の「ワクチンを接種していれば検査で陽性となっても出場禁止にはならないだろう」を「ワクチンを接種していれば出場禁止になる陽性は出ないだろう」に訂正します。

By Louise Radnofsky and Rachel Bachman