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社会問題

ワクチン接種で一安心のはずが はからずも生まれつつある「新しい分断」

https://news.yahoo.co.jp/articles/ba4d9f07519179b4b2605fbbbd6c532cf04bf71f

2021/6/26(土) 16:05 NEWSポストセブン

 これでようやく一息つける。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン接種が具体的になったとき、これまで辛抱していた生活から抜け出せると希望を見た人も多いだろう。だが実際には、ワクチン接種をしたことでコロナへの恐れが増した人もいるようだ。ライターの森鷹久氏が、ワクチン接種によって生まれた新たな分断に直面させられている人たちの戸惑いをレポートする。 【写真】ワクチンを接種する河野太郎規制改革担当相

 * * * 「ほぼ2年会えていませんでしたので、今年の夏こそは、と子供たちも楽しみにしていたんです。両親はネットニュースなどでも取り上げられるような陰謀論に影響されている高齢者、というわけではないと思っていたので、ショックといえばショックでした」  神奈川県在住の会社員・末次純さん(仮名・40代)は、間も無くやってくる夏休みに、妻と子供二人を連れて九州の実家へ帰省を考えていた。新型コロナウイルスの新規感染者は減少傾向にあり、ワクチン接種も順調に進んでいる。念の為、帰省直前にPCR検査を受ける手筈も整え、首を長くして待つ「じいじとばあば」に会いに行こう、と子供達も喜んでいた。しかし……。 「両親は65歳以上で、自治体による1回目の摂取を受けました。受ける前までは、私たちの感染リスクが減る、と喜んでいたんですが、接種後の様子がどうもおかしい。何かあったのかと聞いてみると、ワクチン接種がまだの私や子供たちが来るのはちょっと怖いと言い出して。いや、気持ちはわかります。でも、接種前は『なんとか孫に会いたい』と言っていたので、なんか残念というか、表現できないモヤモヤが残ってしまった」(末次さん)  確かに、ワクチン接種したからといって100%、コロナに感染しなくなるわけではない。だが感染しにくくなり、万が一、感染しても重症化しにくくなるのだから、今までよりも人と会いやすくなるはずと周囲も期待していたのだ。ところが、ワクチンを接種したことで、接種していない人たちの高リスクが、接種済みの自分たちに悪影響を及ぼすのではと怖くなってしまったということなのだ。  コロナ禍における世界では、さまざまな場面で考え方の相違に端を発する「分断」らしき対立構造が明るみに出ている。若者は感染しても無症状で高齢者にうつす危険性が高い、だから若者は外に出るな、なんていう極端な論調などはその代表例だろうが、ワクチンを打った打たないでも、やはり「分断」とでも呼ぶべき何かが発生しているようなのである。

 千葉県北西部の高齢者介護施設でも、ワクチン接種済みの高齢利用者と、そこで働く未摂取の若い職員の間でトラブルが起きていた。施設職員の富田茜さん(仮名・20代)が打ち明ける。 「ホームを運営する医療法人で確保できたワクチンの量が少なく、まずは利用者と職員の一部が優先的に接種をしたんです。若い人を差し置いてごめんね、と涙ぐむ利用者もいて、私たちも頑張らなければと奮起していたんです」(富田さん)  ところが、利用者のほぼ全員のワクチン接種(1度目)が済むと、空気は一変したという。 「一部の利用者さんが、ワクチンを接種していない職員が怖いと言い始めました。懸命に感染対策をしていても、完全にバイ菌扱い。若い職員の中には、持病があったり、アレルギー持ちなので副反応が怖くて打てないという子もいるのに、そういった事情も受け入れてくれない。ワクチン接種が始まれば、みんなで安心できる、と思っていましたが現実は甘くありません」(富田さん)  高齢者への接種完了に目処が立ち、今後は若者に優先してワクチン接種を行うと発表している東京都新宿区などの一部自治体もあるが、ここでも「分断」が起きていたと話すのは、ワクチン接種のコールセンター関係者だ。 「若者を先に打って、一番金を生み出す中年世代はほっとくのか、というお叱りの声がちらほら聞こえてくるようになりました。以前は高齢者だけずるい、という意見も多かったのですが、変化が出てきました」(コールセンタースタッフ)  ワクチン接種は当初の想定を上回るスピードで進んでいると報じられており、政府も「希望者は全員打てる」と繰り返しアナウンスをするが、誰が先なのか、自分は損をさせられていないか、という不満が、あちこちで噴出している。確かに、接種が進めばいずれ消えゆくかもしれないが、これらを感情論だからと放置しておいてよいものだろうか。気持ちを無視した施策は、たとえそれが遂行されたとしても、コロナ収束後にも禍根を残すことにもなりかねない。社会不安に繋がりかねない不満を、今のうちに打ち消しておく術はないのか。