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社会問題

ワクチン接種遅れの元凶「日本医師会」の正体。中川会長にSNSで批判も

https://news.yahoo.co.jp/articles/516060bc0e8e1ad5466e3a135c164784d1164361

2021/06/20 BIZSPA!フレッシュ

 中川俊男会長が記者会見を開けば、菅義偉首相よりも多くの国民が耳を傾ける。コロナ禍の最前線で闘う医師の代表なのだから当然と思いきや、どうやら政府の邪魔をしてきたのは医師会との声も。

圧力団体・日本医師会にかき乱されるコロナ対策

中川俊男会長

 日本全国の医師32万人のうち、半数以上の17万人が所属する日本医師会――。時に「日本最大の圧力団体」とも称される“白い巨塔”の信頼が、ここにきて大きく失墜している。  6月20日に期限を迎える緊急事態宣言解除について、中川会長が「慎重な判断」を政府に求めた際も、SNS上には「寿司デートのオマエが言うな!」「すべての元凶は医師会にある」などと批判の声が殺到。  そもそもコロナ禍での政府の対応が後手後手に回ったのは医師会の責任とする声も根強く、国民の不信感は当分収まりそうにない気配だ。元厚生労働省医系技官の木村盛世氏が話す。 「これまでも中川会長は医療逼迫を訴え、『自粛しろ』を繰り返すだけで、まるでコロナが収束しないのは、すべて国民のせいと言わんばかり。なのに自身が経営する『新さっぽろ脳神経外科病院』ではコロナ患者を受け入れていないし、医師会所属の開業医たちもコロナ患者をほとんど診ていません」

実際は開業医の利益を守る「圧力団体」

医師会の政治団体「日本医師連盟」の組織内議員である自見英子参議院議員。中川俊男会長が後援会会長を務め、資金パーティに参加し批判を浴びた。同団体は与野党に5億円近く献金

 日本医師会は、表向きは学術団体と称しても、実際には「開業医の利益を守るための圧力団体」とも言われている。まん延防止等重点措置中に中川会長が呼びかけた政治資金パーティも、医師会お抱えの自民党・自見英子参院議員のためだ。国民の命が危機に晒されているなかでも、開業医の利益を優先する姿勢は鮮明だった。  前出の木村氏が続ける。 「コロナ禍のさなか、2020年6月に日本医師会の会長選挙がありました。前会長の横倉義武さんは、発熱があっても、持病があっても受診しやすいように、オンライン診療を進めようとしたのですが……これは多くの開業医にとってはいわば“墓場”となるような政策。腕のいい医者のところに患者が集まり、食べていけないクリニックが出てくるかもしれない。だから横倉さんは反対派の中川さんに選挙で敗れてしまいました」

ワクチン接種が利権に?打ち手は医師会を優先か

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 当初、ワクチン接種は遅々として進まなかった。最大のネックは「打ち手不足」だ。そのため政府は、新たに歯科医師や救急救命士、臨床検査技師も接種の担い手として要請。菅首相が「1日100万回」を掲げ、オール医療体制で臨むこととなったため、現在、接種体制は急ピッチで整いつつある。  だが、精神科医で老年内科医でもある和田秀樹氏は「ワクチン接種も医師会が足を引っ張っていた」と振り返る。 「医師会は最後まで歯科医師に注射を打たせないように抵抗しました。国民の命を守るよりも、独占業務を奪われないことのほうが彼らには重要だから。PCR検査の拡充が求められていたのに歯科医師にそれを認めなかったのと同じ構図ですよ」  ここにきて開業医のクリニックでのワクチン接種も広がっている。ついに打ち手不足が解消されたように見えるが、この背景を和田氏は「新たな利権」と推測する。 「歯科医師も集められている集団接種よりも『個別接種でかかりつけ医へ』という流れは、医師会が政府に圧力をかけたからではないでしょうか。歯科医師に補助金を奪われるぐらいなら、開業医の収入減を補うために、ワクチン接種を利権として、“おいしいバイト”にしたのでは。急にワクチン接種の報酬が手厚くなった背景は、単なる打ち手不足だけが理由ではないでしょう」

日本の病床数は世界一なのに…

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 前出の木村氏も「ワクチン接種の打ち手は医師会が割り当てている」と話す。 「私自身、東京都のワクチン接種枠に5回申し込みました。しかし、すべて打ち手は足りていると断られたのです。医師会の開業医たちが内々で回しているのでしょうね」  医師会は「本来の圧力団体に戻れ」と提言するのは、前東京都知事で、元厚労相の舛添要一氏だ。 「そもそも最初のワクチン接種の診療報酬が安すぎた。こういうときこそ、医師会は圧力団体として、自民党の厚労族議員を通じ、診療報酬を引き上げる交渉をするべきだった。多少は診療報酬を引き上げてもその結果、ワクチンの打ち手が増えるのならば、国民全体の利益につながったはずです」  日本の病床数は人口1000人あたり13床と世界一。それなのに、医療逼迫(ひっぱく)が叫ばれるのは、コロナ患者を受け入れる病院が少ないからだ。 「ここでも医師会は圧力団体として機能していない。重症者患者を積極的に病院が受け入れるような診療報酬の値上げ交渉をしてこなかった。現在は、コロナ患者を自宅やホテル療養にし、薬ひとつ与えずに、医者が見捨てている……。中川会長は連日メディアに登場し、『正義の味方』のマネなんかせずに、医師会を、国民の健康・生命と開業医の利益の最良のバランスを保つ、まともな“圧力団体”に立ち返らせるべきです」(舛添氏)  今後も医師会に振り回され続けるのか。

医師不足も医師会のせい?

OECD調査。医療逼迫は、医師不足もひとつの要因だろう

 コロナ禍で逼迫する医療現場。その原因のひとつが、絶対的な医師不足だ。OECDのデータによると、日本は人口あたりの医師数で35か国中29位、医学部卒業生の数では実に最下位である。しかし、歯科医師のように淘汰されるのを恐れ、医師会は頑なに医師の数を抑制。そして巨大な権力に政治家は反対できなかったが……2008年、厚労相の舛添氏は医師会と真っ向からケンカした。 「当時、脳内出血を起こした妊婦を病院が受け入れ拒否、たらい回しにされ、亡くなる事件が相次ぎました。医師会は『医師は余っている』というが、それは開業医だけ。医師会や厚労官僚、自民党の族議員は激しく抵抗しましたが、私は世論を追い風に、1997年に閣議決定された医学部定員の削減を11年ぶりにひっくり返し、過去最大限の増員方針を示しました」(舛添氏、以下同)  結果、10年間で医師数は約4万人増えたが……。 「あれから、再び政府は医師数の抑制に向かっています。依然として大学病院の勤務医や救命医は不足し、長時間労働も解消されていないし、へき地医療の医師も不足している。元の木阿弥です」  足りないのは政治家も同じか。

日本医師会の方向性を決定づけた“天皇”

元日本医師会会長・武見太郎氏。元日本医師会会長。’57年から25年間にわたり日本医師会会長を務め、三師会にも影響。「医師の3分の1は欲張り村の村長」と周囲には漏らしたとも

 もともと“日本感染症の父”北里柴三郎が「医道の高揚」を目的に設立した日本医師会は、いかにして日本有数の圧力団体となったのだろうか。 「そのイメージを決定づけたのは、やはり『ケンカ太郎』『武見天皇』の異名を持つ11代会長・武見太郎でしょう。政府との衝突を繰り返し、主に診療報酬引き上げを求める団体交渉の窓口になりました」(和田氏)  武見は“医師のスト”こと「全国一斉休診」や、保険制度から離反する「保険医総辞退」を武器に、政府に対し医療政策の変更を迫った。一時は官僚が政策プランを持参、武見が赤マルをつけた項目のみで法案を作ったこともあったという。 「現在の医師会には最盛期ほどの指導力はありません。それは政府の医療費削減政策を見ても明らかでしょう。武見太郎の息子である武見敬三議員や日本医師連盟が擁立した羽生田俊議員が選挙で苦戦しているように、組織の集票力にも翳りが見られます」(同)  政府との対立姿勢は“存在感”のアピールかもしれない。

<取材・文/梶田陽介 写真/時事通信社 朝日新聞社 PIXTA>

木村盛世】 パブリックヘルス協議会代表理事。筑波大学医学群卒業。米国ジョンズ・ホプキンス大学公衆衛生大学院疫学部修士課程修了。厚生労働省医系技官を経て、現職

【和田秀樹】 国際医療福祉大学大学院教授。専門は精神科医、老年内科など。和田秀樹こころと体のクリニック院長。心理学、老人問題に精通する

【舛添要一】 元厚労相・前東京都知事。’09年の新型インフルエンザ流行時には厚労相としてらつ腕を振るう。現在は執筆活動、コメンテーターなど幅広く活躍中