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「爆発的に襲来、医療の限界超えた」 大阪の看護師が見た第4波

https://news.yahoo.co.jp/articles/e63042d8218dba7d5530041256067ff9948fac91

2021/6/5(土) 18:07配信 毎日新聞

 新型コロナウイルスの第4波で、大阪は全国的に見ても最悪の感染状況となった。新規感染者数は徐々に減少しているが、英国株より感染力が強いとみられるインド株による感染も府内で確認され、予断を許さない状況だ。大阪市内のコロナ患者受け入れ病院で患者と向き合ってきた看護師に現場の状況を聞くと、「疲れ果ててとっくに限界を超えた。不十分な受け入れ態勢の中で多くの方が亡くなっていく状況を目の当たりにし、初めて看護師になった事を悔やんだ。府市は、ずれたコロナ対策とずさんな保健医療体制をしいた責任を免れない。コロナ対策を自治体に丸投げした政府も悪い」と吐露した。【田畠広景】 【次々に誕生する変異株】感染力、ワクチンの有効性は?  30代の女性看護師が働く病院には約20床のコロナ病床があり、女性は救急外来や発熱外来で働いてきた。「3月初めから静かに増え、4月上旬になると爆発的に襲来した感覚だった」。3月末には約15床が使われるようになり、4月中旬にほぼ全床が埋まった。4月末には、救急車の到着から1分も空かずに次の救急車が来る、ということも相次いだ。朝から日付が変わるまで対応したり、昼食を取る暇もなかったりすることが続き、1カ月で5キロ痩せた。  医療が窮状に陥る前に何があったのか。変異株の脅威は、現場では1月の時点で話題になっていた。2月には来院の可能性がある現実的な問題として考え始めていたが、府は3月7日までの予定で発令中だった緊急事態宣言の前倒し解除を政府に要請。2月末での解除が決定された。同時に府内の即応重症病床も215床から150床に縮小。医療現場から見ると、世間のコロナへの警戒感は薄く、行政の動きも鈍く思えた。  第4波では、中年男性が検査を待つ間に倒れる現場も見た。既存株ではあまりなかったが、30~50代でも急激に症状が悪化することがある。人工呼吸器は数に限りがあり、高齢患者への積極治療ができず、救急車で来院した数日後に納体袋で覆われ、ひつぎに納められて搬送されるのを、つらい気持ちで見送った。  ◇行政の対応に怒り  4月中旬には中等症までしか受け入れないはずの病院で、複数の重症患者が行き場をなくしていた。一方同じ頃、吉村洋文知事はまだ「マスク会食」を呼び掛けていた。保健所が逼迫(ひっぱく)する中、飲食店の「見回り隊」を発足させ、府市職員の会食調査をする対応にも、現場との意識のずれを感じた。「誰も責任を取らない状況で、行政は命や健康を軽視していないか」と怒りを覚えた。  女性は「経済を回すなら徹底したゼロコロナを目指すべきだ。変異株の感染力が高いと見込んだ時点で疫学調査を強化し、検査ももっと拡大しなければいけなかった」と指摘する。第4波は検査と隔離の能力を超える勢いで、感染者が1人出ると家族全体に広がるなど拡大が止まらなかった。大阪市保健所では、陽性者への疫学調査を始めるまでに1週間程度かかることも。入院できない在宅死も激増した。3回目の緊急事態宣言が出た4月25日以降、6月4日までの1カ月余りで、大阪では2万5161人が感染し、1051人が亡くなった。  「混乱の原因は、政治の誤った判断だと思う。知事は府民一人一人の命に向き合うべきだったし、対応を丸投げした医療現場でバタバタ重症化する患者を見に来るべきだった」と女性。「いつどこで感染症対応が滞り始めたのか、行政の失敗を検証してほしい。ワクチンの普及も重要だが、変異株の流入に対抗できるよう、保健所の人員を拡充し、検査や疫学調査の体制強化を」と訴える。  府対策本部会議の専門家の発言にも首をかしげる。「ある医師が第1~3波の経験を『成功体験』と話していたが、驚きしかない。死者を増やしてきたこれまでを成功と評価するなら、第4波を招いた責任は対策会議にもある」。国の対応も疑問だ。医療従事者はせき込んだ患者の飛沫(ひまつ)や嘔吐(おうと)物を浴びても検査してもらえないのに、「五輪では何回も関係者を検査すると聞いて、悔しさがある」と困惑する。  4月末、コロナ病床でまた一人の患者が亡くなった。するとその病床もすぐ次の患者で埋まり、挿管することになった。「患者に十分、向かい合えていないのではないか」――。やりきれない思いで、看護師になったことに後悔の念が浮かんだ。その日は大阪で44人の死亡が発表された日だった。しかし朝から続いた雨が上がると虹が見え、「頑張りや」と言われている気がした。高齢の親族が書いてくれた「コロナ頑張れ。腐るな」というメッセージにも励まされた。「一日も早い収束を願って頑張っていきたい」。過酷な現場に消えそうな気力を、ぎりぎりのところで奮い立たせている。