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社会問題

新型コロナウイルス「ヤバ過ぎ派」と「騒ぎ過ぎ派」分断の現在

https://www.news-postseven.com/archives/20210125_1630175.html?DETAIL

2021/01/25 週刊ポスト

 新型コロナウイルスが世界的に感染拡大してから、もう1年が経とうとしている。いまだに正体がよくつかめない未知のウイルスを相手に人々の試行錯誤が続いているが、その対応をめぐって「慎重に行動したい」人たちと、「今の状態は騒ぎ過ぎだ」と主張する人たちが、相容れぬ論争を続けている。「騒ぎ過ぎ派」を自認するネットニュース編集者の中川淳一郎氏が、議論の趨勢について解説する。

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 ニュースサイト「現代ビジネス」に「コロナ『ヤバ過ぎ派』と『騒ぎ過ぎ派』の対立が永久に折り合わない理由」という原稿を寄稿した。内容は、この1年以上日本中に分断と混乱をもたらした新型コロナに対し、「もうこんなもん、思想の問題で、両派交わることはできないんじゃない?」と問題提起したものだ。

 私は「騒ぎ過ぎ派」に属する。つまり、「コロナはヤバいです!」と主張する『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日系)や『サンデーモーニング』(TBS系)に対し、「あなた方、ちょっと危機感煽り過ぎ。別に日本ではそこまで死んでないでしょ? 死者にしても、高齢者か基礎疾患持ちの方々でしょ?」という立場だ。テレビというメディアはオワコン(終わったコンテンツ)扱いされているものの、いまだに高齢者を中心に絶大なる影響力を持っており「テレビが言ってるから正しい!」「テレビに出てくる先生様が言うから正しい!」という風潮がまかり通り、結局はテレビの論調が世間の「空気感」を作る。

 テレビのメイン視聴者である年金生活者はどれだけ自粛をしようが収入は減らないものの、そうではない若年層が高齢世代の不安に付け込むテレビ報道により自粛や月収激減、解雇といった事態に追い込まれたと私は思っている。

 1月16日現在、約4400人が死亡しているコロナだが、昨年10月の報道では、前年比で1万4000人日本の死者は減ったという。コロナ、ヤバくないんじゃないの? とこのデータを見ても思ってしまう。

 この両派がネットで言い争いをしている状況にある現状を「現代ビジネス」の記事では書いたのだが、思いのほか、私に賛同する声が多かった。同記事のフェイスブックのシェアは約2900で、この記事を配信したヤフーニュースでも約1400のコメントが付き、この記事をめぐっては「もうコロナに騒ぎ過ぎるのいい加減やめたい」という人々が優勢になる状況だ。

 正直、漫画家の小林よしのり氏をはじめとする「騒ぎ過ぎ派」は常に劣勢だった。テレビでは『モーニングショー』の玉川徹氏や岡田晴恵氏、さらには日本医師会や東京都医師会の会長も「騒ぎ過ぎ派」に苦言を呈していた。

 それが冒頭で紹介した「現代ビジネス」の記事では明らかに潮目が変わったように感じた。これまで散々「邪教の教祖様とその信者」的扱いをされてきた小林氏と私をはじめとした「コロナに騒ぎ過ぎ派」へのネット上でのコメントが好意的になってきたのだ。

 私は民放テレビ番組や自身の既得権益(医師増加反対、後期高齢者の2割負担反対、さらにはコロナ患者受け入れを嫌がる)を守ることを重視する医師会に対しては批判的なスタンスでいた。

 だが、世間様の「コロナはヤバ過ぎ!」という声に小林氏や私は常に「人の命は地球よりも重いのになぜ貴様らは命を軽視するのだ!」的批判を浴びてきた。この批判が若干弱まった。これからネット世論がどうなるかは分からないが、この1年間で初めて私は「味方ができた」と感じている。

【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)/1973年生まれ。ネットで発生する諍いや珍事件をウオッチしてレポートするのが仕事。近刊に『恥ずかしい人たち』(新潮新書)。

※週刊ポスト2021年2月5日号