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社会問題

菅首相・安倍首相の“自爆”…日本のコロナ対策、昨夏から「決定的に準備不足だったこと」

https://news.yahoo.co.jp/articles/a75fe01e26c9211da7932b674cf0fa330f8e3022

2021/1/15(金) 6:31 現代ビジネス

緊急事態宣言が拡大

写真:現代ビジネス

 1都3県への緊急事態宣言発令が、2021年の菅政権の事実上の仕事初めになった。その後1月13日には、緊急事態宣言の対象が関西・中部などの府県に広がり、年が明けても新型コロナへの対応が、菅義偉政権が直面する重い課題のままである。 【写真】 新型コロナ、日本の満員電車で「クラスター」が起きない「意外なワケ」  新型コロナ感染者拡大による医療体制の逼迫で昨年末から感染抑制の優先度が高まったが、最近の菅政権の対応ついて「判断が遅く、後手に回った」などとメディアでは批判が目立ち、内閣支持率は低下傾向にある。  ただ、感染抑制と経済正常化の双方を実現させる中で、新型コロナ感染状況に応じて対応を柔軟に変えるのは当然だろう。判断が遅かったとの批判は根拠に乏しく、菅政権に批判的な野党や一部の自民党内の政治家からは、建設的な見解はほとんど聞かれない。  米欧諸国を中心に、世界各国で新型コロナの感染者数は年明け以降急増しており、そして日本と比べると、人口当たりの感染者数は米欧諸国で圧倒的に多い。変異種が広がっているイギリスでは、昨年秋から経済活動制限が続いていたが、2021年明けには全土で都市封鎖を余儀なくされ、学校が全面的に閉鎖、不要不急の外出が禁止されている。  米欧以外でも、中国やマレーシアなどの新興国の一部地域でも新型コロナ感染者が増えたため、経済活動が強く制限されている。これらと比べると、緊急事態宣言は出たが、日本における経済活動制限は緩やかでかつ私権への介入はかなり限定的と位置づけられる。  また、今回の緊急事態宣言では、2020年4月時のように広範囲な経済活動が対象ではなく、飲食店の夜間営業等に対象範囲が限定されている。もっとも、活動制限対象が限られても、主要都市部への緊急事態宣言発動によって、飲食や旅行関連消費の減少は避けられず2021年1-3月の日本経済は再びマイナス成長に転じるだろう。飲食、旅行関連で想定される消費の落ち込みによって、1ヶ月当たり約1兆円(GDP比0.2%)の経済活動が減少すると試算される。  この経済活動の減少は、広範囲な経済活動制限で起きた2020年4-6月期のGDPの10%相当の「経済活動の大収縮」よりかなり小さい。もちろん、経済活動への悪影響は、緊急事態宣言が2月中に解除されるかで変わり、春先以降まで緊急事態が長引けば年間の経済成長率が低下して、デフレリスクが高まる恐れがある。  ただ、後述するが、十分な金額の財政支出が迅速に発動されれば、仮に緊急事態宣言が長引いても日本経済への悪影響は軽微にとどまると筆者は考えている。

準備の時間はあったのに…

〔PHOTO〕iStock

 緊急事態宣言の発動は、感染抑制を最優先にした政治的メッセージという意味で妥当だろう。問題は、冬場の新型コロナ重症者増加への備えとして、2020年夏場から時間があったのにもかかわらず十分対応していなかったことである。  医療業界への財政支援と同時に、新型コロナ患者へ対応できるように医療資源を組み替えれば、コロナに備えた治療体制拡充が実現したのではないか。であれば、米欧対比で格段に少ない感染者の治療がカバーされて現在の局所的な医療逼迫が回避され、経済正常化を促す対応が続けられただろう。  この点、安倍・菅政権そして地方自治体のこれまでの対応は不十分だったと判断される。安倍前政権は、4、5月の補正予算において2兆円規模の医療機関等への臨時支援金の予算措置を行ったが、大規模な支援金が実際に支出されてコロナ患者のための医療体制拡充に果たして繋がったのか。筆者が知る限り、実際に医療機関に支給された支援金の総額そして政策効果を示すデータは存在しない。  結局、2021年1月7日の緊急事態宣言の発動に伴い、1都3県において、コロナ病床を増やした医療機関に対して、重症病床に2000万円、中等症以下に900万円と、補助金がようやく増額された。2020年に大規模な予算措置が行われても、医療機関への財政支出が政策効果を伴った形で十分には行きわたらず、コロナ対応に備えて医療資源の配分を見直すには至らなかったことを示唆している。  医療逼迫という危機が訪れてようやく必要な対応が実現したわけで、官邸と自治体首長のリーダシップが機能せず、官僚組織の不作為が招いた失政だろう。また、過去20年続いたデフレを克服できずに経済停滞が長期化する中で、緊縮的な財政政策が続き日本の医療インフラが脆弱になったツケが現れた側面も大きいと筆者は考えているが、これは過去の政権の失政の尻拭いを菅政権が迫られていることになる。  結局、感染症対策徹底と経済正常化の双方を実現するためには、医療体制拡充とワクチン接種推進を同時に整えることが前提になる。これらの最優先の政策が十分実現しない段階で、経済正常化を目指したのは、残念ながら政策の優先順位を見誤ったとの評価になる。

事業者への財政の手当ては十分か

緊急事態宣言発出後の新宿・歌舞伎町〔PHOTO〕Gettyimages

 医療体制拡充ができなかった一因は、政策効果を発揮する十分な財政政策が実現しなかったことである。同じ観点で、今回の緊急事態宣言発動によって引き起こされる経済活動抑制に対して、財政政策の対応が十分実現するかも重要になる。  営業時間制限に応じた飲食店に対する各店舗への1日当たり6万円の協力金が地方自治体を通じて支給されるが、これらの補償政策は、昨年末の第3次補正予算の中の地方政府への臨時交付金1.5兆円によって十分カバーできると筆者は試算している。  地方への臨時交付金以外に、2020年度内の執行分として5兆円の予備費が予算措置されている。これらの予算を着実に歳出すれば、個人消費の悪化を吸収することは可能だろう。ただ、2020年4、5月の補正予算で計上された、予備費や医療機関への支援金などが十分歳出されなかった経緯がある。  このため、今回緊急事態宣言が発令されても、補償金が十分支給されなかったり、あるいは広範囲な所得支援政策が見送られたりして、財政政策が不十分に止まるリスクがあると筆者は懸念している。

アメリカと比べてみると…

 この疑念は、コロナの感染被害が日本よりも格段に大きかった米国と、日本を比較すると浮き彫りになる。米国では、家計部門への小切手送付などの所得支援政策によって、財政政策が迅速・着実に実現して、2020年7-9月期には日本よりも早く経済活動がリバウンドした。  日本でも2020年4、5月に57兆円(GDPの約11%)規模の補正予算が策定されたが、民間部門へ迅速に支援された金額が約20兆円台にとどまっていると推測され、このため日本経済の復調は米国よりも緩慢な回復にとどまったと筆者は見ている。  この米国と日本の財政政策の格差は、2020年に続いて、2021年も日米の経済成長率の格差をもたらすと予想される。2021年早々の米国に目を転じると、バイデン氏の大統領選出プロセスを進める議会に、トランプ大統領の支持者を中心に暴徒が押し寄せる混乱で死亡者が出る前代未聞の惨事が起こるなど、バイデン政権誕生を前に政治情勢は引き続き大きく混乱したままである。  ただ、政治の大混乱が続いても金融市場は冷静で、ジョージア州の上院決戦投票のイベントを通過して、S&P500指数などは1月8日まで最高値を更新、割高とされる領域にありながらも依然高値圏を保っている。米国の株高が続いている要因の一つは、バイデン政権において、新型コロナ対応と経済正常化の双方の実現を後押しする、追加の財政政策が発動される可能性が高まっていることだ。  具体的には、昨年末に決まった9000億ドル規模の財政政策に更に上乗せして、トランプ大統領も要求した幅広い国民に対する2000ドルの現金給付を含めた、追加の財政政策をバイデン次期政権と主要な民主党議員が最優先政策と認識している。  日本と桁が異なるコロナの被害が発生しても、ワクチン開発・接種を含めた大規模な財政政策が迅速・着実に発動されれば、経済活動は正常化する。トランプ政権とバイデン時期政権の政治姿勢は大きく異なるが、大規模な財政政策の発動によって、経済正常化を目指す対応は共通する部分が多い。  2020年はトランプ政権の財政政策が効果を発揮したが、2021年にバイデン政権下で同様に財政政策が実現するかは、財政政策に慎重な上院議員が数名存在するため流動的な部分がある。また、異なるリスクとして、民主党の中でいわゆるプログレッシブ勢力の意向が反映されて、増税や規制強化などの政策が優先されるリスクもある。  ただ、バイデン政権は、コロナ克服と経済正常化を目指すとみられ、経済成長を重視する穏健で現実的な財政金融政策が実現すると筆者は予想している。この政策対応によって、2021年の米国経済はワクチンの普及が進み、その回復の足取りは盤石になるだろう。  米国では、政権交代を経てもなお財政政策を徹底して経済正常化が実現しつつあり、同国の経済と株式市場が2021年の金融市場の主役だろう。一方日本では、財政支出が十分そして効果的に発動されないリスクがあるため、日本株市場は2021年も脇役に止まると見込む。

村上 尚己(アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト)