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社会問題

「ベッド数は世界一」の日本でコロナ前から”たらい回し”が起きていた本当の理由

https://news.yahoo.co.jp/articles/48e19432fa3d801611a9372a3052520bd0404e20

2021/1/14(木) 15:16 PRESIDENT ONLINE

日本は人口当たりの病床数が世界で最も多い「病床大国」で、入院日数も世界で突出して長い。これは何を意味するのか。病院経営コンサルタントの渡辺さちこ氏と国際医療経済学者のアキよしかわ氏は「日本では病床を患者で埋めないと病院経営が成り立たない」という――。 【この記事の画像を見る】  ※本稿は、渡辺さちこ、アキよしかわ『医療崩壊の真実』(MdN)の一部を再編集したものです。 ■日本の病床はどれくらいあり、どれくらい稼働しているのか  新型コロナ感染拡大の中で入院の受け入れの第一線と考えられたのは感染症病床(1758床)、第二種感染症指定医療機関の351施設です。第二種感染症指定医療機関は、国、公立(自治体)、公的(日赤病院、済生会病院など)で9割が担い、民間は1割です。コロナ前の感染症病床の稼働率は2017年が3.3%、2016年が3.2%、つまり感染流行の局面にならない限り、平時では極めて低水準の稼働率です。  しかし一旦コロナが拡大すると、感染症病床は152万超の病床全体に占める割合は0.1%あまりであること、そして新型コロナは全国一律に流行するのではなく入院が必要な患者は都道府県や第二種感染症指定医療機関の地域によって大きな差があるため、「感染症病床」だけでは足らず「一般病床」での受け入れが必須となりました。  実際、第1波のピークである5月4日は1万1935人、第2波のピークである8月10日には1万3724人のコロナ患者(これらは宿泊・自宅療養が可能であった軽症者も含む)が入院しており、感染症病床だけでは全く不足した事になります。  次に日本の病床について国際的なデータと比較して検証しましょう。 ■先進国の中でずば抜けて病床数が多い日本  まず、日本の医療法でいう一般病床、療養病床、感染症病床、結核病床、精神病床全ての病床をOECD加盟国と比較すると(2018年or latest available)、人口千人当たりの病床数は日本が13.1と突出して多く、OECD加盟国平均である4.7の2.8倍です。  図表1をご覧ください。これは人口千人当たり全ての病床数の1990年から2017年までの推移を国際比較したものです。日本を含めどの先進国も人口当たりの病床数を削減してきた一方で、日本だけ完全に我が道を突き進んでいるというか、まったく「次元」が違うことがわかります。国民皆保険制度もあり、医療提供体制も充実しているといわれることの多いドイツでも日本の6割程度です。  また、90年代初頭に唯一、日本に近い割合で病床数が存在していたのはスウェーデンだけですが、一入院包括払い(DRG/PPS:Diagnosis Related Group/Prospective Payment System)を導入するなどの取り組みで病床数を大きく減らし、諸外国と同じくらいの水準になっています。その意味では、日本は世界の中でも独自の道を歩む「病床大国」といってよいでしょう。  先進諸外国が90年代から病床数を減らしつつ「平均寿命」や「健康寿命」を伸ばしてきたことを考えると、「病床数」の多さは「人の健康」と比例するものではないことがわかります。

■コロナ患者を受け入れ可能な「急性期病床数」に限っても世界一  それでは、急性期病床(一般病床)数はどうでしょうか。急性期病床とは、急患や重症で命に関わる治療や応急措置、手術を行うための病床です。図表2をご覧ください。人口千人当たりの「急性期病床」もやはり日本では7.79と突出して多いのです。お隣の韓国は第二位です。  OECD各国の平均は3.6なので、日本は2.2倍以上の急性期病床を保有していることになります。  このように日本は他国と比べものにならないほど急性期病床が多い、「世界一急性期病床が多い国」であることがわかります。  では、人工呼吸器やECMOを必要とするコロナ重症患者の治療体制に必要なICU病床数はどうでしょうか。図表3で示すように、日本は人口10万人当たりのICU病床数は4.3床です。諸外国の病床数のデータにはIntermediate care bedsといって、ICUと一般病棟に至るまでの間の治療を行うための病床を含めて計算が行われているため、日本でもICUに準じた機能を持つ病床としてハイケアユニット(HCU)、そして救命救急病床(ER)を含めると全体で1万7000床となり、人口10万人当たり13.5床となります(図表3ではICU、HCU、ERを総称してユニットと表記)。  HCUは「高度治療室(High Care Unit)」の略称で、ICUと一般病棟の間という位置づけです。そして救命救急病床(ER)は集中治療室への入院が必要な重症の救急患者を受け入れて高度治療を提供するところです。結果、日本のユニットはアメリカの3分の1、ドイツの半分ですが、イタリア、フランス、スペイン、イギリスを上回る病床数という事がわかります。 ■「突出して治療日数が長いこと」は何を意味するか  コロナ患者の受け入れを担う事が可能な急性期病床が日本では世界の中でも突出した数になっている実態は、患者のため、病院のためにとってどうなのでしょうか。  まず、病院について考えてみましょう。先ほどの急性期病床のグラフに近い印象を受けるグラフ(図表4)は、諸外国で急性期患者の治療にどれだけの日数を費やしているのかという平均在院日数です。  この平均在院日数の国際比較も急性期病床数と同じで、日本が突出して「治療日数が長い」ということがわかります。諸外国のほとんどでは、90年代初旬から30年ほどの間に、5日間から8日間前後の範囲に在院日数を減らしてきているのと対照的に、日本は90年代中頃まで、治療に1カ月間かかっていました。当時は、療養患者や社会的入院といわれる患者が入院していたことも在院日数の長さの要因です。日本はそこから減少しながら20日間を切り、現在では16日間ですがそれでもかなり長い在院日数をキープしているのです。  このように平均在院日数の国際比較をみてもわかるように、日本ほど急性期病床の在院日数が長い国は他になく、諸外国に比べ日本は2.3倍です(DPC対象病院の平均在院日数は12日前後。それでも諸外国の約1.7倍)。急性期病床数はドイツや韓国などまだ日本に近い傾向にある国がかろうじてありましたが、平均在院日数に関しては、「日本だけ」が異彩を放っています。  「それだけ日本の医療は患者に対して手厚く接してくれているからではないか」とか「他国と比べものにならないほど医療サービスが充実している証(あかし)ではないか」と、日本人の「美徳」のようにポジティブに受け取る方もいらっしゃるかもしれません。  ただ、残念ながらデータを分析していく限り必ずしもそうともいえません。別次元とも言うべき在院日数の長さは、「患者のため」というよりも、「病院のため」という要素が多分にあるのです。

■ベッドを埋めなければ病院経営が成り立たない  ではなぜ日本ではこんなに在院日数が長いのでしょうか。それは、空床があれば埋める、そうでなければ病院経営が成り立たない、という病院にとって“切実な事情”が背景にあるからです。多すぎる急性期病床を抱えた病院経営者は、「病院の存続」をかけて、経営のために“在院日数を適正化”する必要があるのです。待ち患者の行列が望める病院は問題ありません。しかし地域の医療ニーズを超え、過剰な急性期病床をかかえる病院が病床を埋める手段は、在院日数のコントロールなのです。  “Built beds is filled beds is billed beds”という表現があります。“作られた病床は、患者で埋め、そうすれば報酬を請求できる”と少々皮肉った意味です。しかし日本ではそれが現実的に起きていないとはいえないのです。  図表5は、都道府県別の入院医療費と病床数との関係を示したものです。  財務省が公表したもので、横軸に「10万人当たりの病床数(全病床)」、縦軸に「1人当たり入院医療費(年齢調整後)」の関係を表しています。1人当たり入院医療費は、都道府県間で比較ができるように年齢構成が調整されています。 ■「病床数が多いほど入院医療費が高い」という事実が示すこと  結果は衝撃的です。都道府県別「病床数」と「入院医療費」の関係における決定係数R2=0.6961と高い相関がみられたのです。10万人当たりの病床数は最多が高知県(2522床)、最小が神奈川県(810床)と3.1倍もあります。高知県民が神奈川県民より3倍病気にかかりやすい県民性であるとは考えにくいでしょう。1人当たり入院医療費は最大が高知県(34万円)、最小が静岡県(19万円)の1.8倍でした。こちらも高知県民が静岡県民より1.8倍重篤な病気にかかるとも考えにくいです。  この「病床数」と「入院医療費」の相関をみると、まさに“Built beds is filled beds is billed beds”。ちなみに日本で人口当たり最も病床が少ない神奈川県でも、OECD先進国の1.7倍強の病床があります。  ここまでくると、「世界一病床が充実している国ニッポン」の実態がなんとなく見えてくるのではないでしょうか。日本は、急性期病床が異様なほどに“充実”しているという裏に、実は「世界一入院日数の長い国」であり、「病院で必要以上に長期滞在することは医療費を押し上げている」可能性があるという日本医療のもうひとつの顔が見えてくるのです。

■入院日数のむやみな延長は患者にもデメリットがある  では、患者にとってはどうなのでしょうか。入院日数の不要な延長化は患者にとってQOL(生活の質)の点でデメリットです。働く世代ですと就労や子育て機会の損失になります。高齢者にとっては行動範囲が病室の中に制限されると、動かないことによる身体能力のADL(日常生活動作)の大幅な低下や、精神状態に悪影響をもたらして「廃用症候群」の発症リスクが高まります。1週間、あまり動かずベッドで過ごす状態を続けると、10~15%程度の筋力低下、さらに、気分的な落ち込みが顕著に現れてうつ状態になったり、やる気が減退したりと精神的な機能低下が見られます。  また、天井や壁が白塗りの無機質な病室での大きな「環境変化」により、せん妄(もう)といって認知症に似た混乱や意識障害発症のリスクも懸念されるのです。  さらに、コロナウイルスに限らず、病院での長期滞在は院内感染リスクをより高める結果となります。このように入院日数の不要な延長化は患者、特に高齢者にとって何一つ良い事はなく、医療の質を下げる結果となるのです。  「医療の価値=医療の質÷コスト(医療費)」という概念があります。「医療の質」を維持・向上しながら、限られた医療資源や財源を最大限に活用するという考え方で、この「医療の価値」を上げることが国民そして医療経済にとって重要なのです。「医療の価値」を上げるには分子の「医療の質」を維持・向上し、分母の「コスト(医療費)」を下げる努力が必要となります。  不要な病院の滞在について「医療の価値」の軸を用いると、「医療の質」を下げ「コスト」を増大させるため、「医療の価値」を下げる結果といえます。  「医療の価値」は私たちが病院の経営コンサルティングをする際にも用いている価値軸です。 ■入院日数の延長が医療費を逼迫させている  ここまで、日本の病床数の潤沢さが「病院」と「患者」にとってどうなのかを考えてきました。では医療費に与える影響はどうでしょうか。  日本の医療費は年々上昇し、それこそ逼迫しています。2018年における日本の保健医療支出が対GDP(国内総生産)に占める割合は10.9%でOECD加盟国36カ国中6位でした。しかし、各国共通の統計として、保健医療支出の治療費に加え予防、介護、市販薬などを含み、健康に関するOECD各国共通の費用統計体系支出として捉えた包括的な「健康支出」で推計すると、2012年で日本は対GDP比11.2%となり、米国(2013年16.4%)に次ぐ世界第2位であると試算されています(西沢和彦著『医療保険制度の再構築』(慶應義塾大学出版会)参照)。  医療費全体の4割は「入院料」つまり入院に対する報酬で入院滞在日数に比例します。病床を埋めるために在院日数を長期化し、その報酬が医療費として支払われていたとすると、それは医療資源配分として是正する必要があるでしょう。これには、病床数の適正化に加え、必要以上に在院日数を延長しなくても病院経営が成り立つような診療報酬制度の仕組みが必要と考えられます。 ———- 渡辺 さちこ(わたなべ・さちこ) グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン代表 看護師として臨床に携わったのち、慶應義塾大学経済学部入学。同大卒業後、米国ミシガン大学へ留学し、医療経営学、応用経済学の2つの修士号を取得。帰国後、ジョンソン・エンド・ジョンソンコンサルティング事業部などを経て、2003年より米国グローバルヘルスコンサルティングのパートナーに就任。800以上の急性期病院のビックデータ実証分析で経営改善支援を行う。主な著書に『患者思いの病院が、なぜつぶれるのか?』、アキよしかわとの共著に『日本医療クライシス』(いずれも幻冬舎メディアコンサルティング)がある。 ———- ———- アキ よしかわ 国際医療経済学者 データサイエンティスト。カリフォルニア大学バークレー校とスタンフォード大学で教鞭を執り、スタンフォード大学で医療政策部を設立する。米国議会技術評価局(U.S.Office of Technology Assessment)などのアドバイザーを務め、欧米、アジア地域で数多くの病院の経営分析をした後、日本の医療界に「ベンチマーク分析」を広めたことで知られる。米国グローバルヘルス財団理事長、グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン会長。米カリフォルニア在住。主な著書に『日本人が知らない日本医療の真実』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『日米がん格差』(講談社)などがある。 ———-