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2021年のコロナ対策はどうなる?日本感染症学会理事長に聞いた

https://news.yahoo.co.jp/articles/811798829a59d772a9426a504672679070c9b051

2020/12/29(火) 6:01 DIAMONDオンライン

 年末年始に向けて「緊急事態再宣言を発出すべき」との声も聞こえてくる昨今、コロナ禍をめぐる医療はどうなっていくのだろうか。東邦大学医学部微生物・感染症学講座教授で、日本感染症学会理事長を務めるほか、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の構成員でもある舘田一博氏に、コロナ対策の現状や今後の展望を聞いた。(医療ジャーナリスト 木原洋美) *インタビュー日は2020年12月9日 ● パンデミックが 起きることは予測されていた  ――2020年はかつて経験したことのない大変な1年になりました。  いつか起こると言われていたパンデミック(世界的大流行)が、やはり起こったということ。しかもまだまだ終息は見えない。今の波を超えても、また次の第4波が来る。最終的に事態が落ち着いた時に、感染症に対して強い社会になっていたと言えるようにしていかないといけない。

 ――移動手段が発達し、国内外への行き来がしやすくなった現代社会は、感染症も以前よりはるかに広がりやすくなっており、パンデミックも起こりやすくなると言われていました。  ボーダレス化、グローバル化が進むと、世界の裏側で流行している感染症が持ち込まれるリスクも高まってくる。そうした中で社会としても、知識と経験をしっかりと備えておかなければならなかったわけだが、今回パンデミックになって、やはり準備不足だったことは否めない。しかしそれでも何とか医療崩壊を回避できているのは、日本国民の強さかもしれない。  ただ最近は、感染者数も死亡者もどんどん増えているので、このまま抑え込めるのか、あるいはヨーロッパやアメリカのように、1日に500人~2000人も亡くなってしまうような事態になるのか、わからなくなってきた。 ● 新型インフルエンザの 反省を生かせるか  ――8月から10月にかけて感染者数が減少していた頃には、感染予防対策が功を奏しただけでなく、治療法が確立されてきたことも大きいのではとの見方もありました。  重症化をどうやって抑えるかというところの経験は蓄積されてきているが、本当の意味での治療法はまだない。それでも日本はよくやっているほう。重症化して、挿管あるいはECMOにつながれたとしても、その後救命できる人の割合が高い。アメリカでは挿管された人の8割9割は亡くなってしまうのに、日本は8割9割助かる  でも油断してはいけない。どこかで医療崩壊が起きたら急激にパニックになる恐れがある。それが一番怖い。日本人は同調圧力に弱く、パニックになりやすい。  ――パニックは要警戒ですか。  2009年の新型インフルエンザの時もパニックになりかけた。そこは医療現場の僕たちも含めて反省する必要がある。あの時、日本は世界で一番死亡率が低かった。世界では1万6000人ぐらいの人が亡くなったかもしれないが、日本では200人程度で、結局、終わってみれば普通のインフルエンザに近かった。  ――確かに、大変な騒ぎで、メディアもずいぶん煽っていました。  そういう反省をもとに、冷静に対応していくことが大事。ただし、準備は大切。幸いインフルエンザの流行は今年まだ見られないが、大地震のような天災が重なってしまったらどうするか、というようなことにも備えておかなくてはいけない。

● 指定医療機関でも 専門医がいるのは35%  ――具体的には、どのような備えが必要なのでしょうか。  感染症学会の立場からは国に対して「感染症指定医療機関に感染症科を設けて専門医を配置する」「大学の医学部などに感染症学を教える講座を設置し、専門医を養成する体制を構築する」ことを。また、全国の都道府県に対しては「専門医のいない感染症指定医療機関へ専門医を派遣する仕組みを作る」ことなどを要望した。  全国にある400余りの感染症指定医療機関のうち、学会が認定する感染症専門医が在籍しているのはおよそ35%、144施設しかない。新型コロナウイルスの治療にあたる医療機関でも、専門医がいない施設もあるということを皆さんに知ってほしい。  ――コロナ禍の前は、医師であれば誰もが感染症に詳しく、自分たちの感染をふせぎながら患者を治療できるのは当たり前というのが一般的な意識だったと思います。ところが医療機関でのクラスターが多発するようになって、社会は初めて感染症医療の専門性の高さを知ったのではないでしょうか。  感染症科がない大学がたくさんあることや、感染症専門医の少なさが注目されるようになった今こそ、各大学に感染症科を作り、そこで日常から診療教育研究に当たらせて、人材育成を進める。感染症専門医は何かあった時は地域のリーダーとなって感染対策、診療を行うという仕組みを作っていくことが必要だと思う。専門医を増やすことはすぐにはできない。将来、再び新しい感染症が流行したときに備えて専門医の育成を今から急ぐべき。それが感染症に強い社会を作るための本丸だ。  例えば、感染症専門医がコンサルテーションした場合には、きちんと診療報酬が上乗せされるようなインセンティブがあって、医療機関にも収入が増えるような。仕組みを考えていかなければ、なかなか状況は動かない。喉もと過ぎれば忘れられてしまうだろう。 ● ワクチンよりも治療薬よりも 感染阻止!  ――治療薬の開発は進んでいるのでしょうか。レムデシビルやアビガンのように、早い段階から治療に使われたり、治験が進められたりしていた薬もありましたが…。  治療薬はまだ出ていない。レムデシビルは一応承認されているが、それほど効果は期待できない。アビガンもしかり。安価で手に入りやすいステロイド系抗炎症剤デキサメタゾンを使ったり、抗凝固薬であるヘパリン使ったり、試行錯誤しながら懸命に対応している。それでも少しは死亡率が下がっているのは、現場が頑張っているから。今のように患者がどんどん増えていけば、重症者や死亡者は増えていくだろう。今後しばらくは、こうした状態が続くと思っている。

 ――ワクチンはどうですか。アメリカやヨーロッパでは接種も始まっていますね。効果についても、臨床試験の中間結果では、ファイザーのワクチンの予防効果(有効性)は95%、モデルナのそれは94.1%だったといいます。  どれくらい効果があるのか、重症化を抑制できるのかはわかりません。副作用にしても、どういうことが起きてくるのかはわからない。ワクチンさえ打てば大丈夫みたいに思うのは間違いだし、治療薬やワクチンの開発は、そんな簡単なものではない。  だから僕も冷静に、慎重に対応していくし、そうしなければいけないと思っている。学会としてもそれを伝えていかなければいけないと思っている。  それよりも大事なのは、重症化しやすい高齢者、基礎疾患のある人を守るための対策。感染をさせない、それが一番だと思う。  ――感染させないことこそが、最善の治療ということですね。  なかなか難しい。新型コロナウイルス感染症対策分科会でも、感染予防と社会経済との両立はずっと議論されている。感染症医の立場からすると、人の動きを止めて、濃厚接触をなくしさえすれば感染症は収まる。しかしロックダウンみたいな形で都市封鎖をしたら、社会経済へのダメージは計り知れないし、それによって失業率が高まり、自殺等で亡くなる人も何千人と出てしまう。そこは避けなければいけない。バランスをどうするかは本当に悩ましい。  GoToキャンペーンは「油断しても大丈夫なんじゃないか」という誤ったメッセージを国民に伝えてしまった。とするならば、やはり一時これは中断して、感染を抑えて、それからまた再スタートを切るような対策を講じるのはぜんぜんおかしくない(※インタビューは12月9日)。なんとか続けたい、それもわかる。だけどここは一歩引いて考えるということも大事だと思っている。  ――この1年、世界の感染症に対する意識は変わってきたと思いますか。  これだけ大きなパンデミックを経験したのだから、変わらなければいけないと思う。今のコロナ禍が終息しても、感染症との闘いは終わらない。新たなパンデミックは今後も起きる。大事なのはこれで終わりではないという意識を共有し、それに備えるよう世界で対応すること。自分の国だけよければいいで済む時代ではない。  グローバル化、ボーダレス化の中で人の移動は避けられないわけだし、ウイルスや病原体の移動も当然起きてくる。だからこそ世界が連携して準備を進めていく。WHOもそうした考えに基づいて動いており、日本もそれに対して弱いところを補っていくような改善が必要になってくるだろう。  (監修/東邦大学医学部微生物・感染症学講座教授、日本感染症学会理事長、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会委員 館田一博) ◎舘田一博(たてだ・かずひろ) 東邦大学医学部微生物・感染症学講座教授、日本感染症学会理事長、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会委員。1985年長崎大学医学部卒業、90年東邦大学医学部助手、95年同講師。99年ジュネーヴ大学(スイス)に留学。2000年ミシガン大学(アメリカ)に留学し、01年東邦大学に復職した。2011年より東邦大学医学部教授。

木原洋美