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社会問題

「空気を読む日本人」ほど、なぜか「自粛警察」になってしまう“意外なワケ”

https://news.yahoo.co.jp/articles/23d554f720e456f2a85fb1cf0ff7f6de0956553f

2020/12/29(火) 7:31 現代ビジネス

「バカ、死ね、潰れろ!」と…

写真:現代ビジネス

 「コドモアツメルナ オミセシメロ マスクノムダ」  こんな貼り紙が千葉県八千代市の駄菓子屋『まぼろし堂』の門に貼られた。 【写真】メンタルの強い人が、なぜか絶対にやらない「意外なこと」があった!  「最初にこみあげてきたのは、恐怖の感情でした。ほかにも何かされるんじゃないかって」と語るのは、店主の村山保子さんだ。  これが貼られたのは、4月29日のこと。村山さんは、その1ヵ月も前の3月28日から店を自主的に閉めており、休業告知もしてあった。  「近所の方はうちの休業は知っていたと思うので、離れた所から来た人かもしれません。私たちは何も悪いことはしていません。なのに、どうしてこんなことをされないといけないのか。『自粛警察』なんて言われていますが、やっていることは犯罪と一緒じゃないでしょうか」  今年、「自粛警察」という言葉がすっかり一般化した。正義をふりかざして他者に同調を強要するこの現象は、とくに自粛期間中に顕著になった。いま再び新型コロナの感染者数が増えている。自粛警察の動きも再び活発になるのは間違いない。  鴻上尚史氏と佐藤直樹氏の共著である『同調圧力 日本社会はなぜ息苦しいのか』が大きな話題となっている。これも、コロナが顕在化した同調圧力のウラ側にある、日本人の国民性や文化を鋭くえぐり出しているからだろう。  神奈川県横浜市の居酒屋『バンバン番長』は、店の入口に貼っていたポスターに、「バカ、死ね、潰れろ!」と書きこまれ、営業自粛を知らせる店側の貼り紙にも「そのまま辞めろ!」と落書きされた。  さらにこれらがニュースで報じられると「なぜ店を閉めないんだ」などのいやがらせの電話がかかってきたという。

スッキリする…

 「こっちだって困らせようと思って営業しているわけではないんです。生活するためには、営業時間などのルールを守って工夫しながらやっていくしかない。書き込みされたのは4月29日ですが、その頃でもお客を入れたのは昼ランチのみで、夜はテイクアウトで対応していました。ゴールデンウイーク中は店を閉めるかどうか、かなり悩んでいました。でも、あんな書き込みをされたら休むしかないですよ。本当に世の中ギスギスしていると思います」(店主の飛田和晃さん)  こうした被害にあった店は各地にある。中でもパチンコ店や、感染拡大の元凶と名指しされた「夜の店」などは、自粛警察の最大のターゲットになった。これらの業種が特に狙われたのはなぜなのか。『同調圧力』の共著者、鴻上尚史氏が語る。  「分かりやすい敵、叩いても誰からも文句を言われる筋合いはないだろうと思われる敵だったからでしょうね。攻撃する側には、政府の自粛要請に乗っかっていれば、とりあえず自分が攻撃されることはない、否定されることはないという意識がある。同時に、ネットに店の名を晒すとか、感染者の名前や住所を晒してリツイートされたり、『いいね! 』が押されることで、自分の存在意義が確認されたような気になる。そうした時代の風潮が、攻撃の度合いを加速させているのだと思います」  攻撃には生理的な背景もあると指摘するのは、医師の梅谷薫氏だ。  「私たちが抱く感情、特に『不安』という感情は、特定の行動をとることで解消されます。自粛警察と呼ばれる現象も、不安解消のための行動と言えます。さらに他者を非難したりバッシングしたりすると、ドーパミンなどの快感ホルモンが出て、スッキリするのです」

大義名分と正義

 とはいえ、闇雲に攻撃したのでは、自分のほうが叩かれる。そこで振りかざされるのが「正義」だ。梅谷氏が続ける。  「他者を罰するためには『大義名分』が必要です。自分にとっての『正義』といってもよい。自粛要請が出ているのに営業を続けるパチンコ店などは、大義名分や正義をふりかざす恰好のターゲットになる。ネット社会になってから、こうした歪んだ正義感で他人を支配しようとする傾向が強まり、今回のコロナでさらにその傾向が増大されたと思います」  「出る杭は打たれる」という諺にもあるとおり、もともと日本社会は欧米に比べて同調圧力が強い社会だといわれてきた。その理由を、『同調圧力』の共著者である、佐藤直樹氏が解説する。  「日本には細々とした『世間のルール』というものがたくさんあり、皆が守らなくてはいけないと思っています。日本人は、法律学で最も大事な権利も人権も信じていません。つまり法律を信じていない。では、何を信じているのかというと、世間のルールを信じているのです」  この「世間」が同調圧力を読み解くヒントになる。佐藤氏が続ける。  「日本人が一番恐いと思っているのは『世間』から排除されることなので、そうされないために、みんな几帳面に世間のルールを守っています。会社という世間に属している会社員の言動も同じです。そこで、その世間や会社などのルールから外れていると見なした人に対して、自粛警察のような強い同調圧力がかけられるのです」

日本と欧米の「違い」

 日本と欧米のこの違いは、今回のコロナの対応に表れている。心理学者の榎本博明氏が解説する。  「ドイツやフランスでは、再びの感染増加にともなってマスクの着用が義務化され、違反者に対しては罰金が科せられることになりました。それに対して、個人の自由や人権を尊重する文化で育った欧米の市民から、自由や人権の侵害だという批判の声が上がり、さまざまな反対運動も起こっている。市民の怒りの対象は、法で規制した政治権力に向かっているのです。  一方、日本は法的な規制は行わず、自粛の要請で対処しています。日本では、国民の自己犠牲によってコロナ対策が成立しており、明らかな規制の対象がいないため、不満の矛先が同じ市民に向かっているのです」  コロナの第一波の際、確かに欧米政府はロックダウンや外出禁止令など強権的な法でコロナを抑えにかかった。  「欧米は、法のルールに則った形で強硬策をとりました。なぜ強硬な手段をとらなくてはならないかというと、皆が言うことを聞かないからです。ロックダウンの際は反対デモがあり、マスク着用義務についても、反対のデモが起きています。一方、日本の場合は自粛と要請。しかも罰則はありません。法的な強制力がなくても『同調圧力』があるから、それが法律の替わりになる。自粛に応じない人間に対して、国からではなく世間から、『空気を読め』という圧力がかかるのです」(前出・佐藤氏)  コロナを理由に家族との面会を禁じるのは人権侵害だとして、イタリアの刑務所では暴動も起きた。日本の刑務所でも、同様の措置がとられているが、日本では抗議活動は起こっていない。コロナ下のいま、面会できないのは仕方がないと「空気を読んでいる」のだ。

同調しないと不安

 この極端な違いはどうして生まれたのか。前出の梅谷氏は、こう指摘する。  「日本は長らく大陸からの武力介入を受けず、独自の発展を遂げてきました。その間、『ガラパゴス』とも呼ばれるような閉鎖された環境が維持された結果、他国とは異なるさまざまな慣習やルールが生まれました。その典型がムラ社会のルールです。農業を中心とする日本のムラ社会では、互いに気をつかい合い、場の『空気』を読むような態度が尊重されてきました。個人ではなくムラという集団の規律を重んじ、ムラに忠誠を尽くすことが何より重視され、それから外れることを禁じる風潮が形成されたのです。これが無言の圧力である『同調圧力』の背景にあるものです」  同調圧力が著しく大きくなって社会が逼塞したのが戦時中だ。  「戦時中は『欲しがりません、勝つまでは』という同調圧力が世間全体にかかり、『隣組』などがこの圧力を担っていました。戦時中の隣組は、まさに自粛警察です。世間はこの当時とあまり変わることなく、今日まで来たのだと思います」(前出・佐藤氏)  梅谷氏のいう「ムラ社会」、佐藤氏のいう「世間」が担っている同調圧力社会を、社会学者の内藤朝雄氏は「中間集団全体主義」という言葉で解説する。  「日本を語る際の重要なキーワードが、中間集団全体主義です。日本は、学校や会社、自分がたまたま属したグループが小さな世界となり、そこでの論理や秩序がすべてとなってしまいます。仲間内で当たり前とされるムードが、広い社会の普遍的な理念やルールに競り勝ち、小さな共同体に呑みこまれていく。  むしろそれが社会の当たり前の形だという感覚、そしてその感覚を抱かせる仕組みが広がっているのです。そうした社会のことを中間集団全体主義社会というのですが、これがあるため会社員は社畜になり、学校では学校の奴隷のような生徒が生まれてしまいます。その集団に同調しないと不安になるところから、自粛警察やいやがらせが生まれてくるのです」

自粛警察ユーチューバーが語る

 とはいえ、同調圧力のすべてがマイナスかというと、そうではない。  「例えば日本の犯罪率の低さは、同調圧力に拠る部分も大きい。同調圧力が強いため、逸脱行為が抑止されて、犯罪までいかないのです。日本の殺人率はアメリカの17~19分の1、ヨーロッパと比べても3~4分の1です。韓国・中国と比較しても2分の1から3分の1で、日本は圧倒的に治安がいい。これは『他人に迷惑をかけてはいけない』という世間のルールが同調圧力となって働いているためでしょう」(前出・佐藤氏)  一概に「悪」と言えないところに、同調圧力や自粛警察の問題の根深さがある。  実際に「自粛警察」と呼ばれた人は、どう考えているのだろうか。自粛要請期間中、自治体からの要請を拒否して営業を続けたパチンコ店まで出向き、店に通う客とのやりとりの動画を顔出しで公開した「自粛警察ユーチューバー・令和タケちゃん」に話を聞いた。  「ざっくりいえば、緊急事態宣言で皆が自粛している最中、開き直ったパチンコ利用者があまりにも目にあまったので、言論の自由の範囲で政治活動として呼びかけました。ナンバープレートに落書きをしたり、物を壊したりといった他の自粛警察のような犯罪行為はしていません。  相手が逆上したので売り言葉に買い言葉で激しいやりとりになりましたが、当時は平時ではなく有事でしたから、国の指針に反して社会を混乱に招く人たちに抗議しただけです」  正義感から「政治活動」に立ち上がったのかと尋ねると、令和タケちゃんはこう答えた。  「正義感というよりも使命感です。誰もやらないからやった。国もやらない、誰も抗議しない、影響力のある人が発信するわけでもない。だから私は公道を使って、あくまで政治活動として客に注意を行ったのです。  本来なら国がやるべきことで、一般人がやるべきことではない。政治が強制力のある特措法を作るとかしないといけません。そうした法的な根拠がないから、日本だけが『自粛のお願い』などというヘンな日本語を使い、法的な強制力がないから同調圧力になってしまうのです」  タケちゃんも、同調圧力がよいとは考えていないのである。

人は快適なほうへ従う

 私たちはどうしたらこの同調圧力から逃れることができるのか。鴻上氏は、こう語る。  「唯一の『世間』とは別の緩い『世間』に複数所属して、強力な『世間』から来る同調圧力を弱めていくこと。別の緩やかな世間とは、会社や学校とは異なるサークルでもいいし、ボランティアグループでも良い。そして、世間話ではなく『社会話』のスキルをあげて、自分と全く関係のない人達との会話を楽しめるようになることが重要だと思います。結局、それぞれが自分のできるやり方で同調圧力と戦うしかないのだと思います。でも、同調圧力に従わず、自分のやりたいことをやるのはとても快適なことなので、徐々に多くの人が追従していくことを期待します。人は快適なほうへ従いますから」  佐藤氏の意見はこうだ。  「同調圧力から逃れるには、お中元やお歳暮は贈らないとか、世間のルールをなるべく緩く考えていくことが重要だと思います。上司が帰るまで帰れないといった世間のルールがあるけれど、コロナでリモートワークが広がった今、そんな悩みもなくなっていくはずです。それが過労死の解消にもつながっていく。せっかくコロナでこういうことがわかったのだから、世間のルールを少しずつゆるめていくことを意識的に考えていったらいいのではないでしょうか」  コロナ禍は日本社会の構造と歪みを浮き彫りにした。「災い転じて福となす」チャンスになる可能性もあるのだ。