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日本でコロナ死者が少ない理由「ファクターX」の諸説を徹底検証

https://news.yahoo.co.jp/articles/d61260884c8e4284a40f455fb474a35e5e7e7801

2020/8/3(月) 6:01配信 ダイアモンドオンライン

 日本にコロナによる死亡者が少ない何らかの理由「ファクターX」。これを突き止め世界の救世主となるべく、にわか専門家たちも次々参戦し、諸説が入り乱れている。特集『コロナが映す医療の闇』(全14回)の#02では、「ファクターX」と推測されている諸説の信頼度を検証する。(ダイヤモンド編集部 野村聖子) 【各国死亡者数ランキング表、「ファクターX」の評価結果表などの解説図版はこちら】 ● 欧米よりもはるかに少ない死亡者数 「日本の奇跡」はなぜ起きたのか  欧米のようなロックダウン(都市封鎖)などによる強制的な措置を取らずに、あくまでも自粛レベルにとどまった日本の新型コロナウイルス対策。当初、欧米メディアからは「無策」「数週間後には大惨事になる」などと脅されていたが、ふたを開けてみれば、第2波が始まりつつある現時点でも、人口比で見た日本の感染者数や死亡者数は、欧米よりもはるかに少ない数字にとどまっている。  欧米メディアは、アジアに対して潜在的に抱いていた自分たちの優位性が揺らいだことが悔しかったのか、これを「日本の奇跡」「ミステリー」などと皮肉を込めて報じたが、海外の専門家も一様に首をひねる現象だったのは間違いない。  この謎について、ノーベル生理学・医学賞受賞者で京都大学iPS細胞研究所所長の山中伸弥氏は、何か日本特有の理由があるのではないかと、自身が開設しているコロナの情報サイトで発信し、これを「ファクターX」と名付けた。 ● 人口当たり死亡者数で 上位は欧州諸国、日本127位  下図は、各国・地域における人口100万人当たりの死亡者数を高い順にランキングしたものだ。  上位はほぼ欧州諸国で占められ、その次にブラジルや米国などのアメリカ大陸諸国が並んでいる。  日本は127位で、100万人当たりの死亡者数は8人。1位のサンマリノは1238人で、日本の150倍にもなる。2位のベルギーでも日本と100倍以上の差があり、同じウイルスによる感染症とはとても思えない数字である。  一方で、東アジア諸国・地域の韓国や中国、台湾などは、日本よりも少ない。  東南アジア諸国では、107位のフィリピンと108位のインドネシアを除けば、全て日本より下位。死亡者がいまだ0という国も複数ある。オーストラリアやニュージーランドなどのオセアニア諸国も下位に位置している。  一般に、医療アクセスや社会インフラなどが整っていない発展途上国の方が感染症の脅威は大きい傾向があるが、ことコロナに関しては、欧米の先進国よりも途上国の方が死亡率が低いことも少なくない。そして、それは誤差や偶然ではとても片付けられないほどの差になっている。  ファクターXは、東・東南アジアやオセアニアにも存在するということなのか――。

● ファクターXの信頼度を3段階で評価 「BCG接種」説は?  コロナによってあらゆることが制限されるこの不自由な生活から解放されるためには、治療薬やワクチンの開発を待たねばならないが、それには最低数年はかかるというのが大方の予想だ。  一般人からすると、こんなに医学が進んだ現代で何をモタモタしているんだと思うかもしれないが、何しろ相手は、世の中に出現して数カ月しかたっていない“新型”のウイルスだ。  発症した場合の治療法はもちろん、空気感染なのか飛沫感染なのかといった感染経路、ウイルス自体の構造や生態に至るまで、分からないことだらけなのである。  まるで光明の見えないコロナとの戦いだが、もしファクターXを突き止めることができれば、世界を危機から救うことができるかもしれない。  ダイヤモンド編集部では、医学論文を一般向けに分かりやすく解説する記事を自身のブログに掲載している五本木クリニックの桑満おさむ院長の協力を得て、各種データや複数の医者への取材を基に、ちまたでファクターX候補とされている代表的な説について、検証した。  主な「ファクターX」の評価の結果が、下表だ。◎が「期待大」、◯が「脈あり」、△が「現状では微妙」という3段階で評価している。  最初に断っておくが、評価が高いものでも、あくまでも現状で推測できるのは「相関関係」のみ。つまりは「傾向が見られる」程度のことであり、実際にどのようなメカニズムでコロナ感染や重症化を予防するかという、「因果関係」についてのデータが出されているものは、今のところないということを強調しておく。  初期から有力候補として浮上していた「BCG接種説」は一応◯。実は桑満院長をはじめ、現場の医者たちの間では「微妙」という意見もあったが、BCG接種国であるポルトガルの死亡率が隣接するスペインよりもかなり低いこと、同じく接種国であり、欧米と同様に白人が多いロシアでも死亡率はそれほど高くないことなど、確かにその傾向は見られる節がある。また、オーストラリアなどで臨床試験が始まっていることもあり、“一応”◯とした。

● 「肥満の患者は 重症化しやすい傾向があった」  現場の医者からの評価が高かったのは肥満。「肥満の患者は重症化しやすい傾向があった」(コロナ重症者受け入れ病院に勤務する呼吸器外科のM医師)という。  さらに、人工呼吸器が必要なほど重症化した肺炎では、患者を伏臥位(うつぶせ)にすることが症状の改善に寄与することがあるが、肥満体だと伏臥位が難しい。「米国など肥満率が高い国では伏臥位療法ができなかった患者が少なくなかったと聞いている」(フリーランス麻酔科医のF医師)といった声もある。  桑満院長は個人的見解のファクターXとして、「島国」という説を挙げた。「地続きの国境を持つ国に比べると、日本のような島国や、地続きの国境線が短く半島部分が多い国は、人の往来が少ない」(桑満院長)からだ。  東・東南アジア、オセアニアには島国や半島国が多い。実は中南米のカリブ海諸国の中には、人口100万人当たりの死亡者数が日本よりも少ない国が複数ある。 ● 存在の真偽も定かではないウルトラCに コロナ対策を依存するのは危険  相関関係だけを見ていけば、限りなくファクターX候補が増えていきそうだが、桑満院長は「特定の要因に限定し、コロナの死亡率が低い理由を説明することは不可能」だと言及する。  東南アジアなどの発展途上国の人口動態を見ると高齢化率が低く、重症化しやすい高齢者人口がそもそも少ない。日本のケースでいうと、高齢者が多い介護施設でのクラスター(集団感染)の発生が欧米に比べて格段に少なかったことが、死亡率の低さに寄与している面もある。  「正直、日本にファクターXというものがあるならば、介護従事者の頑張りに尽きると思っている」(大学病院内科のN医師)という証言もあり、ファクターX候補とされているもの以外にも、さまざまな要因が複雑に絡み合った結果、「日本の奇跡」が起こったと考えるのがよさそうだ。  ファクターX自体の存在の真偽については、名付け親の山中氏も、自身のコロナ情報サイトにおいて、コロナ対策を考える上で「ファクターXのみに依存するのは危険」と述べている。  アポロ11号が月に行った当時、突然、月や宇宙に詳しいと主張する自称“専門家”が雨後のたけのこのようにテレビに登場した。「コロナ危機の現在は、当時の状況と非常によく似ている」と桑満院長は言う。  メディアでは、にわか専門家が「私の考えた最強のコロナ対策」を声高に叫ぶ日々が続いているが、桑満院長をはじめ結局のところ現場の医者たちは、「手洗い」「マスク」「3密回避」が最大のコロナ対策だと口をそろえる。  ファクターXというウルトラCに過度の期待は抱かず、当たり前の感染対策をしながら、治療薬やワクチンの開発を待つしかないというのが現実である。  Key Visual by Noriyo Shinoda, Graphic by Kaoru Kurata

ダイヤモンド編集部/野村聖子