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急患がまさかのコロナ クラスター発生、院内感染の教訓

https://news.yahoo.co.jp/articles/9828712f17716b926fcde3040b3906cc7dbfaaca

7/24(金) 10:25配信 西日本新聞

 「患者は平熱。コロナとは疑わなかった」。新小文字病院(北九州市門司区)の白石慈一事務長(36)が、かつてない緊張に包まれた数カ月前の日々を振り返る。 【動画】「涙が出た」コロナ終息願う動画、ネットで話題に  3月16日夜、階段で転倒した80代男性が救急搬送されてきた。男性は左目を切るなどの外傷があったが、熱はない。高度治療室(HCU)で処置を受け、そのまま入院することになった。  数日後、男性は発熱。しばらく上がり下がりしたものの、当時の相談目安とされていた「37・5度以上が4日以上」には至らなかった。一変したのは29日ごろ。38度以上が続き、コンピューター断層撮影(CT)で調べると、肺炎らしき影が見えた。「まさか…」  PCR検査で男性の新型コロナウイルス感染が分かり、医師や看護師ら19人も次々に感染が判明。同院は31日夜から約1カ月、新規外来や急患の受け入れを休止した。福岡県で初めての病院でのクラスター(感染者集団)発生だった。  「3月中旬は県内の感染者は少なく、男性の発熱は転倒の影響と考えた。職員の対策はマスク着用など一般的なもの。防御は甘かった」と白石事務長は言う。  同院は再発防止に向け、感染の疑いがある人の動線を分ける「ゾーニング」を徹底。入り口で看護師が検温し、発熱患者は外に造ったプレハブの「特設外来」で診察する。救急患者も熱があれば救急搬入口近くのベッドに運び、周囲は感染防護をした職員以外の立ち入りを禁じている。  感染者には無症状の人が少なからずいる。受付にはカーテンレールと釣り糸で透明のシートをつるし、飛沫(ひまつ)対策を講じた。患者と接する職員は医療用マスクやゴーグル、長袖ガウンを着用。医療資材の品不足に備え、普段はシャワーキャップやポリ袋を使った手作りガウンを身に着ける。「暑い日は、ビニールが汗で体にまとわりつく。自作にも限界があるが、今では無症状の感染者がいてもある程度対応できる」。感染管理認定看護師の小塙隆広さん(46)が説明する。  同院で感染者発見の決め手となったのはCTだった。もし、CTに兆候が表れなかったら-。

感染判断待てぬ救急

 新型コロナウイルス感染の可能性を早期に見極めるため、結果判明まで時間を要するPCR検査のほかに、医療機関ではコンピューター断層撮影(CT)が活用される。ただ、感染が疑われる患者でも、兆候が表れないケースもあった。  「衝撃的だった」。門司メディカルセンター(北九州市門司区)の蜂須賀研二院長が打ち明ける。  5月23日未明。60代女性が腹痛や発熱を訴え、救急車で運び込まれた。福岡県の緊急事態宣言解除から9日後のこと。「コロナかもしれない」。当直医と看護師はフェースシールドや医療用マスク、ガウンなどのフル装備で対応し、念のために胸部をCTで検査した。女性に肺炎などの兆候はなく、発熱病床で様子を見ることになった。  午後、けいれんを起こした女性を高度治療室で処置。口から医療器具を入れて気道を確保し、たんを吸引すると唾液のしぶきが飛び散った。医師や看護師はマスク、ガウンは着用していたがフェースシールドは着けていなかった。  翌々日、女性のPCR検査結果でコロナ感染が判明。濃厚接触した医師や看護師ら10人も陽性だった。  集団感染が起きたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」では、無症状患者82人のうちCTで肺炎の所見があったのは54%-との報告があり、日本医学放射線学会は「胸部CTで異常所見を認めないことが、感染を否定するものではない」と提言していた。  「時間的な余裕がなく、警戒レベルを1段階下げてしまった。CTを過信した反省はある」。蜂須賀院長は振り返った。  感染予防と迅速な治療をどう両立するか。一分一秒が患者の命運を分ける救急医療の現場は、悩ましい課題に直面する。  患者や家族、職員ら37人が集団感染した福岡記念病院(福岡市早良区)。年間約5500件の救急搬送を受け入れる。急患が増えるほど感染リスクも高まる。同院では独自にPCR検査機器を購入、手術前の患者を調べる。スタッフの安心感にはつながるものの、結果判明には時間がかかる。  上野高史院長は「緊急手術の際、PCR検査の結果は待てないので事後確認になる。感染の疑いがあるという前提で、防護具の着用や消毒を徹底するしかない。対策がおろそかにならないようにしたい」と話す。  院内感染は、専門病院でも起きた。感染症指定医療機関の福岡徳洲会病院(同県春日市)では、コロナ感染者はウイルスが外に漏れない「陰圧室」に入院。一般患者との動線を分け、職員は感染防護具の着脱訓練をするなど万全の感染防止策を講じていた。  4月上旬。コロナ対応とは別の病棟に入院していた患者が退院後、体調不良で再び来院した。CTでは胸部にコロナとみられる肺炎像が見つかった。応対した病棟の職員らもPCR検査を受け、最終的に12人の感染が判明した。ただ、この患者がいつどの時点で感染していたのか、感染源となったのかは不明なままだ。「どこから感染が広がったのか。コロナは別の病気に紛れてくる」。看護師の伊藤恭子感染管理室長は感染予防の難しさを明かした。  同院では患者の容体に合わせて病床を移す「ベッドコントロール」を最小限にし、接触者を減らすよう配慮。職員用の休憩室も入室人数を制限するなど「3密」回避を徹底している。  院内感染が報じられると、コロナと無関係の患者の転院でも、他の医療機関から断られることがあった。伊藤室長は「風評被害や認識のずれによって、地域医療は簡単に破綻してしまう。医療機関も互いに正しい情報を共有する必要がある」と語った。 (山下真、斉藤幸奈、内田完爾)