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「自宅放置死」が急増中…コロナ患者を救うため、国・自治体・病院にまだできる「これだけのこと」

https://news.yahoo.co.jp/articles/96eb4c2b15b4c73e0f44f70936205666bab4d828

2021/8/20(金) 8:01 現代ビジネス

「自宅放置」で亡くなってしまう

〔PHOTO〕Gettyimages

 8月18日、東京都の小池百合子知事は、新型コロナウイルスに感染して自宅で療養中だった夫婦と子どもの家族3人のうち、糖尿病の基礎疾患がある40代の母親が12日に亡くなったことを明らかにした。 【写真】 新型コロナ、日本の満員電車で「クラスター」が起きない「意外なワケ」  母親はワクチンを接種しておらず、咳や発熱の症状から10日に陽性と判明。11日に保健所が健康観察を行ったが、都の入院調整本部に入院の調整依頼はなかったという。母親のPCR検体を取って陽性と伝えた医師、保健所とも軽症とみて自宅療養と判断したようだ。糖尿病は「重症化リスク」といわれるが……。  12日に自宅で倒れているのを夫が見つけ、死亡が確認された。事実上、療養はされておらず、「自宅放置」による悲劇であった。  小池知事は、記者団の取材に対し、「いま、家庭内感染が多いという状況にあって、コロナは急激に悪化する例がある」「酸素ステーションを3か所、まずは準備をして、そういったおそれのある人が入院するまでの間の環境を整えるということで至急、進めていく」と言った。酸素ステーションは、救急搬送できない患者を一時的に収容し、酸素投与や健康観察を行う応急救護所のような施設だ。無いよりはいいが、焼け石に水であろう。  すでに東京都では、数名の基礎疾患のない30代の男性が、それぞれコロナに感染し、自宅で死亡している。なかには初回のワクチン接種から8日後に亡くなったケースもある。軽症から中等症、重症と悪化しているのに医療にたどり着けず、死亡する。この医療崩壊を食い止めるには至急、何をしなくてはいけないのか。医療の最前線では、症状を悪化させないためにどのような治療が求められるのか。  名古屋大学医学部附属病院(1080床)の救急・内科系集中治療部医局長、山本尚範氏にインタビューをした。名大病院では、昨春から約100人以上のコロナの重症患者を受け入れてきた。山本氏は、コロナ急性期の病態の変化や治療、医療体制に詳しい。

無症状・軽症でも50人に一人は中等症になる

 ――在宅で手遅れのまま亡くなる方が出てきました。いま、必要な治療の全体像を、どうとらえていますか。  「5万人ぐらいの感染者のデータ分析をしてわかったことがあります。 いま、治療の焦点となっている 若い世代に関していうと、 PCR検査で陽性が判明した時点で、既に中等症になっている人が、20代で2.01%、30代で4.01%、40代で7.1%、50代で10.3%です。これらの方々が、すぐに入院できず、自宅にいたら重症化のリスクが高まります。  また、40~50代の無症状および軽症の方が、中等症以上(重症含む)に進行する割合は約2%。20~30代はもっと低い。ざっくり50人に1人は中等症になるという構えで診る必要がある。  仮に重症になっても50代以下なら時機を逸さず集中治療(ICUでの人工呼吸器管理など)すればほぼ救命できます。しかし、中等症が重症に急変しているのに集中治療が遅れたら致命率は上がります。まずは、重症化させないこと。  中等症Ⅰ(息切れ・肺炎所見・酸素飽和度94~95%)にはレムデシビルと抗体カクテル療法のロナプリーブ、中等症Ⅱ(呼吸不全・酸素投与必要 酸素飽和度93%以下)には酸素療法とレムデシビル、ステロイド剤のデキサメタゾンの処方を徹底すれば、重症化はかなり防げます。  ただし、ロナプリープはいい薬だけど、添付文書にあるように500人に1人はインフュージョン・リアクション(輸注反応)というアナフィラキシー・ショックに似た過敏反応が起きる。場合によっては、躊躇せず、アドレナリンの筋肉注射をしなくてはならない。判断が重要です。このようなバックアップ体制の面からも入院での注射か救急搬送がすぐに出来ることが条件です」  ――医療提供体制について、お聞きします。東京都は、さかんに酸素ステーションの設置をアピールしていますが、思わず、「この状況でそれですか」と言いたくなります。いま、どんな施設が必要だとお考えですか。  「広い地域に点在している自宅療養の方を、診療所の先生が診て回るのは難しい。効率も悪い。1日に10人診るのも大変ですよ。重要なのは、大勢の軽症・無症状の人のなかから中等症以上に進行する人を早く見つけ、しっかり対応すること。  そのためにコロナの急性期を診ている病院が、基礎疾患があり、発熱が3日以上続くハイリスクの軽症者や中等症Ⅰの方が入るホテルの宿泊療養を管理・運用すればいい。少ない医療者で大勢の患者さんをケアできます。もう実践しているところがあります」  ――静岡県掛川市の東横イン掛川駅新幹線南口のホテル療養がそうですね。静岡県が99室を賃借して、近くの中東遠医療総合センター(500床)から看護師が派遣され、入っている方々のお世話をしている。1日に2~3回、電話やアプリで感染者の健康観察をし、症状が不安定な人については、看護師さんが防護服を着て対面でケアをしているとか。  「そうなんです。やはり看護師が直接、対応すると患者さんは安心しますね。もしも症状悪化の兆候がみられたり、急変したりすれば、看護師から中東遠医療センターの医師に連絡が入り、オンライン診療につなげる。いま、なぜホテル療養がいいかというと、50代以下の感染者が圧倒的に多く、みなさんオンラインでやりとりできる。  過去の第1~4波では高齢者が多くて難しい面もあったけど、若い人が増えてやりやすくなった。コロナの急性期を診ている医師、看護師がかかわれば、ホテルでの中等症Ⅰの治療は可能でしょう。抗体カクテル療法も視野に入りますね。中等症の増加が著しければ、臨時コロナ病院が必要でしょう」

マンパワーをどうするか

 ――臨時コロナ病院は、神奈川県が藤沢市の湘南ヘルスイノベーションパークで展開しているコロナ仮設病棟(180床)がいい見本ですね。病棟はプレハブ1階建ての5棟で、中等症の患者さんを収容しています。個室も19室あって、重い精神疾患があるコロナ患者の方も受け入れている。  あそこは、徳洲会の湘南鎌倉総合病院ががんばって運用していますが、問題はマンパワー。既存の施設を使って臨時コロナ病院をつくるにしても、医療スタッフをどう集めますか。  「現在、大災害並みの感染爆発が起きていて、一刻も早く対応しなければならないのなら、病院の負担を減らし、その分のマンパワーを臨時コロナ病院や、ホテル宿泊療養に振り向けてはどうでしょう。主体は、コロナの患者さんを診てきた大学病院や、市中の基幹病院のスタッフだと思う。  ご存じのようにコロナの症状は急変します。大事なのは『変化』『悪化の兆し』を見逃さないこと。高熱が続いたらおかしい。頻呼吸も要注意。脱水症も急性腎不全の恐れがある。呼吸苦の自覚症状がない感染者は多いので聞き取りだけではわからない。酸素飽和度は一時的な数値だけでなく、移り変わりを注視しなくてはいけません。  さまざまな予兆は、コロナ患者を診てきた病院の医療者のほうが察知できやすい。経験値が高い」  ――では、いかにして大学病院や市中病院の負担を減らし、マンパワーを振り向けますか。  「政府の病院への補償を前提に、一定数の入院患者さんに一時的に退院していただく。大きな病院のなかには手術や検査の前後の日数に余裕をもって入院している患者さん、入院期間を短縮できそうな患者さんがいらっしゃいます。事情を説明して、そういう入院患者さんに一旦、自宅に帰っていただき、医師と看護師のマンパワーにゆとりをつくる。  その人たちに、中等症を診る臨時コロナ病院や、ホテル療養に回ってもらう。やや極端かもしれませんが、中等症の治療は酸素療法と薬剤投与でやることは決まっています。既存の病院に新たな患者さんを受け入れるよりも、臨時施設に人を出したほうが効率的に大勢を診られます」

在宅ではできないことも多い

 ――自宅療養という名の自宅放置状態の人がどんどん増えて、在宅での酸素療法にもスポットが当たっています。圧縮型の酸素ボンベや、携帯酸素スプレーが売れているようですが、酸素療法とはどのようなものでしょうか。  「若い方は、肺野の一部に炎症が起きていても、残りの健常な部分がカバーして、呼吸機能がしっかり保たれていることがあります。CT撮れば肺炎だけど、呼吸機能はいい。そういう状態でギリギリまで呼吸が保たれていて、突然、限界に達し、坂道を転がり落ちるように悪化する。ここが難題なのです。重症化リスクのファクターは、高血圧や糖尿病などの基礎疾患と、肥満です。気管挿管で人工呼吸器までいった人は、圧倒的に肥満の方が多い」  「中等症Ⅱの酸素療法は、基本的に在宅で行ってはいけない。あくまで窮余の策です。たとえば、朝、酸素飽和度が落ちて、鼻から酸素3リットル/分の投与を始めたところ、瞬く間に悪化。夜、気管挿管したケースもあります。ギリギリまで呼吸機能が維持されていて、突然、悪くなったのです。  最近は、ハイフローネーザルカニューラで、30~40リットル/分の高流量の投与を、ICUやHCUで実施するケースも出てきました。人工呼吸器の一歩手前の酸素治療ですが、急性肺炎なので悪化の恐れがあります。酸素療法は入院が大原則です」

山岡 淳一郎(ノンフィクション作家)